表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想い繋ぎて波となる。  作者: 萩原慎二
第1章 花宮へ
2/5

第1話 波と麻

「うーん……、遅いなぁ」

桜舞い散るとある街道。

俺、灘波慎也(なだなみしんや)は人々が忙しなく通り過ぎていく中、一人寂しく道の端で突っ立っていた。


というのも、今日は俺がこれから通う花宮学園(はなみやがくえん)の入学式。

そんな入学式の日になぜこうして暇そうにしているかというと、とある友人に『朝イチに登校しよう!』と言われ、待ち合わせ場所に待っていたはいいものの、とうの本人は既に30分遅れという大遅刻をしているからだ。


ふわりと香る甘い匂い。心地よく頬を撫でるそよ風に吹かれ、早起きをしていたのもあってか異常に眠たい。

「おーい!慎也!」

あまりの眠気にウトウトとしていると、遠くからやかましいくらい大きな声が聞こえてきた。


目をゴシゴシとこすりながら声の方向を見ると、そこには俺の幼馴染で、入学式早々大遅刻をかました張本人、麻田真美(あさだ まみ)がいた。


「おい、真美……遅かったな」

「えへへ、ごめんごめん。つい二度寝しちゃってさー」


二度寝して遅刻。と言われると、ついキレてしまいそうになったが、朝イチで行こうとしたのが少し遅れたくらいだ。ここは多めに見てやるとしよう。


「お前が朝イチに学校に行きたいって言うから早起きしたのに、これじゃあ普通に登校するのと変わんないじゃねえか」

「まぁまぁ許してよ、遅刻はしてないんだしさ。それよりちょっと遅れちゃった分、早く学校行こうよ!」


そう言って真美は学校へと歩き出す。

こんなに楽しみにしているのに水を差すようで悪いが、俺はそこまで気分が高揚してはいなかった。

というのも、花宮学園は中高一貫校であるため、入学式といっても他の高校と比べて質素で味気ないものであるらしい。


俺と真美は外部生としての入学のため、真新しい新生活!となるのだが、他の生徒からしたらほとんど顔ぶれが変わらない、つまらない儀式となっているらしい。

そんな入学式の雰囲気を想像すると……。居心地が悪そうでたまらない。


そんな一抹の不安を微塵も感じ取っていないのか、真美はルンルンと楽しそうに歩いている。


「そういえば慎也、入学式の前にやった討伐テストの順位何位だった?」

「あぁ、あの延々とロボットを狩り続けたやつか」


真美が話している『討伐テスト』というのは、この花宮学園で入学の前に行われている実技テストである。

会場で次々と襲いかかってくるロボットを倒し続け、その討伐数が順位となって出てくるのである。


各々が持つ能力の特性上、戦いに向かないサポートやヒーラー系の能力者にはそれ用のテストが与えられ、そちらも別で順位が出てくるらしい。

そんな中、俺と真美は例の討伐テストに振り分けられ、先日その結果が返ってきた。


「私は残念ながら………2位!悔しくてしょうがないよ……、1位になれる自信あったのに」


そう言って、真美は結果が書かれた用紙を渡してくる。

そこには『討伐数:542体 順位:2位』と書かれていた。


「542体か、おしかったな。ちなみに1位の討伐数は559体な」


そう言って、俺はヒラヒラと自分のテスト結果を見せる。

そこには『討伐数:559体 順位:1位』と書かれている。


「うーん、やっぱり1位は慎也だったか……。まぁ、私が1位になった時点で気づいてはいたけどね」

「ん、思ったより悔しそうじゃないんだな」

「まぁね。やる前から私か慎也がトップだと思ってたし、いざ本番になって、討伐数で対決ってわかったら負けたなって察してたよ」


真美がそうぼやくのも無理はない。

俺と真美の能力は、分類的には同じ討伐テストであるが、テストに対する相性は俺の方が圧倒的にいい。


真美の能力は『反転』

真美に襲いかかる魔力攻撃・物理攻撃のベクトルを180度反転させる能力。

その性質上、相手の攻撃に対する受け身の反応になるため、普通はここまで討伐数を稼げるはずはない。

むしろ、なんでここまでスコアを伸ばせたのか不思議になるレベルだ。


それに対し俺の能力は『瑠璃色牡丹(るりいろぼたん)』カッコいい名前だろう?

この能力は、簡単に言えば破壊光線を撃つ能力。

単純明快だが、その威力は絶大なものだと自負している。


そんな殲滅力のある能力である分、スコアを稼げるのは当然なのである。

だから逆に言えば、ここまで僅差になってしまったのは軽く恥なのである。


「まぁ、トップが私達なのはいいけど、気になるのはTOP10の人達だよね。その人達ともいつか戦えると思うと、ワクワクするよ」


真美はそう言って目をキラキラと輝かせる。

先程からの発言からお察しの通り、真美は相当な戦闘狂である。

俺が真美と中学校で出会った時も、こいつは出会い頭に殴りかかってきたという逸話がある。


「ワクワクするのはいいけど、あんまり浮きすぎるなよ?中学の時その性格のせいで俺以外友達いなかったんだから」

「い、いないわけじゃないよ!ちょっとはいたし!」

「その友達とは卒業後も連絡取ってんのか?」

「………と、取っては………ない」


そう言って真美はしょぼくれる。

まぁ、あまり言ってやらないでやろう。こいつの近くにいたせいとはいえ俺もそこまで親しい友人はいなかったしな。


「そういえば、私達以外に中等部からの進学じゃない人ってどれくらいいるのかな?」

「一応入学前に調べた感じだと、1割いれば多い方らしいな」

「へぇ~。やっぱ少ないんだね」


真美が言っている通り、花宮学園は俺達のような外部生はかなり少ない。

というのも理由があり、そもそもこの学園は能力者を育てる学校としてはトップに位置している。

高い水準の学習環境や教師陣が揃ってはいるが、その分外部生として入るのは狭き門である。


まぁ、俺と真美は外部生といっても推薦を受けることができて、普通受験よりかは比較的楽に入ることができた。

しかし、いくら成績優秀で入れたとしても外部生。周囲から奇異の目で見られるだろうな。




そんなこんな話ながら歩いていると、いつの間にか学園の校門まで来ていた。


「うっわぁー!テストで来た時も思ったけど、やっぱ正門から広いなココ!」


真美がそう驚くのも無理はない。この花宮学園は先程も言った通り能力者用の学園としては最高峰。そんな学園は正門から玄関口までの広さからして格が違う。

玄関口まででまともなコンサートができるほどの広大さを有しており、その奥にそびえ立つ校舎は、東京ドーム丸々1個入るくらいの敷地面積があるらしい。

その辺の田舎中学校から来た俺達からしたら、あまりの大きさに腰を抜かしそうになってしまう。


「さて、じゃぁ慎也。行こっか!」

「あぁ。早く行かないと本当に遅刻になっちまうぞ」


そう言って俺達は、この花宮学園での初めての第一歩を踏み出した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ