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32.

完結まで執筆できましたので、本日18時に完結いたします!

(ディアナ視点)


 ふわふわ。微睡の中でゆっくりと目を開ける……。


「ん……」


 見慣れた豪華すぎる天蓋。

 そして。


「ディアナ」

「……えっ!?」


 不意に鼓膜を震わせる、ここにいるはずのない声に驚き見れば、そこにはやはりルーファス様の姿があって。


「ル、ルーファス様!?」

「元気そうで何より……と言いたいところだが、君の怪我は全治二週間、絶対安静だそうだ。

 全身の打撲、足首の捻挫、それから無数の切り傷。どれもタロウのために負った傷だ」

「そうだ、タロウ! 私、タロウを探していて! タロウは!?」

「タロウは無事だ。別室で安静にさせているが、今では走り回っている」

「良かった…………」


 タロウまで失ったら。

 そう思うと、怖くてなりふりなんて構っていられなかった。

 ギュッと両手を握りしめてから顔を上げ、礼を述べる。


「ありがとうございます、ルーファス様。私もタロウも、ルーファス様が助けて下さらなかったら」


 その続きを言う間もなく、ルーファス様が突然頭を下げた。


「ごめん」

「え……」

「君に礼を述べられることをしていない。

 元はと言えば、俺が君と一緒に帰っていれば、こんなことにならなかったはずで」

「そんな、ルーファス様のせいではありません!

 ……私がタロウを不安にさせてしまったのです。

 ルーファス様は、もうご存知なんですよね?

 私が、この世界に来た理由が亡くなってしまったからであり、そしてその記憶……“前世の記憶”があるって」

「……」


 ルーファス様は何も言わなかったけれど、それを是と捉えて口にした。


「もうご存知かもしれませんが、私、前世でOL……お仕事をしていたんです。

 その日は帰りに、この世界が舞台の小説がゲームというものになるから、それを買いに行って、帰りがいつもより遅くなったんです。

 それで、お母さんから“タロウが待っているよ”って電話……遠くの人と会話が出来る物を使って話して。

 タロウのために早く帰らなきゃ、と思った瞬間事故に遭って……、気が付いたら、この世界でディアナとして生きていて」

「……うん」

「この前ルーファス様とお出かけをした時はお昼だったけど、今回は夜会で夜が遅かったから、多分タロウが前世を思い出して不安になったのではないかなと思います。

 外は雨も降っていたし、タロウが嫌いな雷の音も聞こえただろうから、余計に心細い思いをさせたんだろうと……」


 そう口にしている間に、涙がとめどなく溢れてきて止まらない。

 泣いたらルーファス様が困ってしまうと慌てて涙を拭うけれど、止まってはくれなくて。

 一生懸命拭っていた私の手を、不意にルーファス様に取られ、顔を上げれば、ルーファス様が代わりに私を抱きしめて言った。


「大丈夫。全部知っている。君は一人じゃない。

 遠くからここまで来てくれた君に、今度は俺が君の力になろう。……なんて、頼りにならないかもしれないが」

「そんな! ルーファス様は、前世でも今世でも大事な推しです!」

「推し……」


 ルーファス様が苦笑いを浮かべる。

 その表情を見てハッとし、慌てて付け加えた。


「い、いえ! その、推しなんですけど、同時に大切でもあるというか、その……、っ!」


 不意に額に柔らかく暖かな感触が訪れる。

 それが何かを理解するよりも先に、ルーファス様は私をそっとベッドに寝かせ、ブランケットをかけると、優しく笑って言った。


「分かっている。この話は、君が元気になってからまたゆっくり話そう。

 その時は、じっくり君の気持ちを聞かせてもらえるか」

「!!」


 そう口にしたルーファス様の顔は、やっぱり少し紅潮していて、そのせいか色気さえ醸し出されているように見えて。

 思わず直視出来ずにブランケットを目元まで被ろうとして、ふと忘れていたことを思い出して尋ねた。


「そういえば、ルーファス様」

「ん?」

「ルーファス様って、タロウなんですか?」


 気を失う前、確かにタロウの姿が一瞬ルーファス様と重なって見えて……。


「っ、そう来たか……」

「え?」


 ルーファス様は口元に手を当てクスクスと笑うと、私の頭を撫でながら言った。


「違う、俺はタロウではない。タロウは君と一緒に転生してきてここにいるのだから」

「そう、ですよね……」

「でも、俺が眠っている間だけ、俺はタロウになってしまうらしい」

「……え?」

「つまりそういうことだ」

「…………」


(ちょっと待って? ルーファス様が眠っている間だけ? ……ということは)


 夜中、タロウの態度がちょくちょくおかしいというか、挙動不審だと思うことがあった。

 たとえば、呼んでも来ないとか、抱きしめると身体を強張らせるとか。


(で、では、あれって……)


 色々と思い当たる節があってそれらを思い出した瞬間、ボンッと顔に熱が集中するのが分かって。

 ルーファス様は慌てたように口にした。


「そ、その話は元気になってからしよう! でないと今度は知恵熱になるだろうからな!」

「い、今更だと思います……」

「そ、そうだな! 俺も、申し訳ないとは思っていた! せめてもう少し早く伝えていれば……、いや、伝えられたかどうかは分からないが!! ごめん!!」


 そう見たこともないほど慌てるルーファス様のお顔も、私と同様真っ赤だ。

 そんな慌てぶりを目の当たりにした私は、思わず笑ってしまう。


「ふふっ、ルーファス様ってば……」

「わ、笑い事ではなかったんだからな。

 ……確かにエステル嬢の言う通り、罰が当たったといえば罰が当たったことになるのか……軽く拷問を受けている気分には毎度なっていたからな……」

「??」


 何を言っているんだろう、と首を傾げると、ルーファス様は咳払いを一つしてから言う。


「とにかく、俺が眠っている間だけタロウになってしまっていたのは、“愛の女神の悪戯”ではないかと思うんだ」

「愛の女神様の?」

「あぁ。愛の女神像の前で誓うことをしていない契約結婚だからな。

 だからこれは、愛の女神から俺に与えられた試練だったのだろう。

 おかげで俺は、君のことを知ることが出来たし、助けることが出来た」

「……っ」


(やっぱり、ルーファス様から向けられる目が甘いのは、気のせいではないのよね……)


 そんな自然にドギマギしてしまっている私をよそに、ルーファス様は少し恥ずかしそうに笑ってから、そっと私の瞳に手を当てる。


「もう少し、ゆっくり眠ると良い。

 そうしたら、連れて行きたい場所があるんだ。

 一緒に来てくれるだろうか?」

「連れて、行きたい場所……?」


 ルーファス様の大きな手が温かく、目元を覆われたことで眠気がドッと押し寄せる。

 再び訪れた微睡のまま尋ねれば、ルーファス様は「あぁ」と肯定し、口にした。


「きっと君も、喜んでくれるはずだ」


(私が喜ぶこと……)


「ふふ、気になります。では、それを楽しみに、お言葉に甘えて、もう少し寝ますね……」

「おやすみ、ディアナ」


 それに対し答える間もなく、私の意識は暖かな心地の中に落ちた。

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