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30.

更新ができず、申し訳ございません!

体調を崩しており、今も無理が効かない状態です…。

ゆるめに更新再開していきます。(それでも後数話で完結予定です…!)

『俺は一生、()()()()()()()会いに来てくれた君の手を取ることが許されない、()()のままなのだろうか』


(どうして? ルーファス様の前で前世のことなんて口にしたことはないはず)


 考えられるとしたら寝言で言っているかだけど、まさかルーファス様が私が寝ている部屋に来ているとは思えないし……。


(まっ、まさかね!!)


 あるわけないわよね、とありえない発想に慌てて頭を横に振る私の耳に、窓の外からポツ、ポツと馬車に何かが当たる音が聞こえてきた。


「っ、雨……」


 まだ小降りではあるけれど、空を見れば分厚く真っ黒い雲に覆われているのが暗くても分かって。


「酷くなりそう……。早く帰らないと」


 タロウが心配だわ。……それに。


(何だか、嫌な予感がする)


 これはタロウだけには限らないことだけど、犬は音にとても敏感だから……。

 それに、私の後に帰ってくるルーファス様も大変だ。

 あまり雨が酷くなると、馬車で帰って来れなくなってしまうかもしれない。

 だからどうか雨が酷くなりませんようにと祈りながら、幸い雨がそう酷くならずに帰ってくることが出来た私は、慌てて馬車から降りると。


「ディアナ様!!!」


 ネルの青褪めた表情に、鼓動が嫌な音を立てる。

 そして胸をよぎった嫌な予感というものは、的中してしまうのだ。


「タロウが……っ、タロウが行方不明に!!」

「え…………」





(ルーファス視点)


「え!? ディアナ嬢はもう帰ってしまったの?」

「あぁ。俺達の会話に水を差さないように、と」


 その言葉に、エステル嬢が口を開く。


「それは残念だわ。ディアナ様とお話ししたかったのに」

「何度も言うようだが、余計なことを彼女に話されても困る」

「あら、余計なこととは何のことかしら?」

「自分で考えろ」


 そんなやりとりに、二人が何だか機嫌が悪いだの何だの言っているが当たり前である。


(新婚の夫婦を呼び出しておいて話し合いに夫だけ呼びつけるか? 普通。

 おかげでディアナと大事な話をしようと……、しかもこれからだという時に邪魔されてしまった)


 ディアナに前世のことを口にすると、驚愕に目を見開いていた。

 そして、一人で帰宅してしまったのは、タロウが帰りを待っていることももちろんあったと思うが、気が動転して「帰る」と言い出したんだろう。


(俺に出来ることは、一刻も早く帰って話の続きをしたいのだが……)


 前世のことはほんの前置きに過ぎなかったというのに、中途半端に途切れてしまったその先の言葉を知らない彼女は、今頃パニックになっているに違いない。

 とにかくこの場をどう切り上げようかと考えあぐねていると、クライドが苦笑交じりに言った。


「顔に出ているよ、ルーファス。大丈夫、新婚の君達を長々と引き離したりはしないさ。

 ……ただ、どうしても聞きたいことがあって」


 俺は息を吐き、その先に続く言葉を先に口にした。


「『どうして俺達が結婚したか』だろう?」


 その言葉に二人が分かりやすく驚く。

 俺は腕を組んで言った。


「そちらこそ分かりやすすぎだ。俺だけ呼びつけるということは、それしかないだろう。

 そして、その答えは君達が想像していることで正解だ。以上」

「ちょ、ちょっと待って!?」

「そんなにあっさり認めてしまうの? 何か反論は?」

「ない」


 きっぱりと口にすると、二人は頭を抱えて小声で言い合う。


「え、これって僕達がおかしいのかな?」

「そんなわけがないでしょう。流されては駄目よ」

「もう帰って良いか?」


 俺がそう口にすると、二人は俺に再度向き直り、交互に尋ねた。


「結婚式は?」

「していない」

「愛の女神の前で誓い合うことは?」

「していない」

「結婚指輪はお互いしているのに?」

「先程渡した」

「「はぁ…………」」


 盛大にため息を吐いた二人に思わず眉を顰めれば、クライドは言う。


「それでよくディアナ嬢に今まで呆れられなかったね……」

「愛の女神の前で誓いを立てずに結婚するなんて聞いたことがないわ。

 そんなことをしたら、愛の女神様から罰が当たるわよ」


(愛の女神から罰が当たる、か)


「……それはないな」

「「え?」」


 俺は笑みを溢してから言った。


「愛の女神は、俺の味方をしてくれているようだ」

「「?」」


 どういう意味だ、と首を傾げる二人はさておき、俺も尋ねたかったことを聞く。


「逆に質問なんだが、君達は恋愛についてどう思う?」

「きゅ、急にどうしてそんな質問を?」

「良いから答えてくれ」


 戸惑うクライドに言葉を促したが、先に口を開いたのはエステル嬢だった。


「私は、父が亡くなったことで壊れた母を見ていたから、恋愛とは“身を滅ぼす哀れで滑稽なもの”、そう思っていたわ。

 けれど、今は違う。恋愛とは、抗えない運命という名の絆で結ばれている相手と出会い、育むもの。そう思うわ」

「エステル……」


 二人が見つめ合う。クライドはエステル嬢の手を取り、今度は俺を見ると言った。


「……僕は前に、君に言ったよね。

『運命の相手に出逢えたら分かるよ』って。

 そういう僕だってエステルに出会うまで、色々な女性と過ごしてみたけど、恋愛が何なのか分からなかった。

 けれど、エステルに出会ってからは世界が輝いて見えた」

「ク、クライド。それはさすがに言い過ぎではないかしら」

「言い過ぎなんかではないよ。それくらい、エステルといる時間が楽しくて。

 ……最初は、鬱陶しがられたり結構傷つくことも多かったんだけど、それでも彼女といたいと思った。

 だから僕にとって恋愛は、譲れないもの、かな」

「クライド……」


 俺はそんな二人の言葉を聞いて、呟く。


「……ディアナにも、今日同じ質問をしたんだ。

 そうしたら、ディアナは“自由”と言った」

「「……自由?」」


 またしても二人の言葉がハモる。

 それに頷き、言葉を続けた。


「恋愛をするもしないも、人の自由。

 彼女自身も、自分に恋愛は出来ないと思うと、そう言っていた」

「……あれ? でも、ディアナ嬢は」

「クライド」


 クライドが何かを言いかけたが、エステル嬢がそれを制す。

 代わりに、エステル嬢は俺に尋ねた。


「それを聞いて、あなたはどう思ったの?」

「彼女の意見を尊重したいと思った。……今までの自分なら」


 そこで言葉を切ると立ち上がり、扉の方に向かいながら口にした。


「でも、“恋愛”という面では、今は君達二人と同意見だ。

 ……俺はこの結婚を本物にしたい。

 俺の腕に自ら飛び込んできてくれた彼女を手放す気は、一ミリたりともないからな」

「「……!」」

「馬車を借りる。彼女の元に一刻も早く帰りたい」

「う、うん。どうぞご自由に」

「ありがとう」


 そう礼を述べ、部屋を後にする。

 部屋に残された二人は顔を見合わせると、目を瞬かせて言った。


「ね、ねえ。ルーファス様ってあんなことを言うタイプではなかったわよね? 恋は人を変えると言う言葉は、彼のためにあるのではないかしら」

「ほ、本当。二十年来の付き合いがあるけどあんなルーファスを見たことがないよ。

 男の僕でも思わずドキドキしてしまった……」

「ふふ、分かりやすいたとえね。

 それでは()()親友の私達は、遅すぎる初恋が実ることを愛の女神様にお祈りしておきましょうか」

「そうだね」


 そう言って二人はクスクスと笑うと、寄り添い、親友の“運命の出会い”が真に結ばれることを祈るのだった。

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