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27.

(わぁ……)


 ここが王城……!

 と思わず見上げた私に、ルーファス様は手を引いてくれながら言った。


「何だか楽しそうだな」


 その言葉に、私は笑顔で頷く。


「はい! 先程までは緊張していたんですけど、これから王太子殿下とヒロ……じゃなかった、王太子妃殿下にお会い出来ると思うと嬉しくて!

 それに、ルーファス様のご学友の皆様にお会い出来るのが楽しみなんです」


 今は小説のその後の世界だから、彼らのその後……いわゆるアフターストーリーを特等席で見ることが出来るのよね!

 と超ポジティブに考えることにしたのだ。


(もちろんそんな方々の前でもバレないようにお飾りの妻として振る舞わなければいけないのだけど……、逆に緊張している方が変に思われてしまうもの)


 だから推し活で気を紛らすことにしたのだ。

 そんな私に、ルーファス様はクスッと笑って言った。


「そうだな。俺も、君に友人を紹介出来るのが楽しみだ」

「!」


 その言葉を意外に思い、目を丸くする。


(そ、そんなことを言ってくれるの?)


 私を紹介出来るのが楽しみ、なんて……。


(いやだ、私、所詮はただのお飾りの妻なのに嬉しいなんて……)


 そんな考えを打ち消すように軽く頭を振り、ルーファス様にエスコートされた手をキュッと握ると、ルーファス様も握り返してくれる。

 そして私達は、互いに目を合わせ頷くと、煌びやかな城の中へと足を踏み入れる。

 既に夜会は始まっているらしく、廊下には人影がない。


(ルーファス様は筆頭公爵様だから、順番的に最後の方に名を呼ばれて、それから会場へ入るのよね)


 やはり会場へ近付くごとに緊張が高まるのを感じ、落ち着けと自分の中で念じていると。


「ディアナ」

「!」


 不意に名を呼ばれ顔を上げれば、ルーファス様と目が合う。

 そして彼は、ふわりと笑って言った。


「大丈夫だ。君は間違いなく会場内で……いや、この世で一番美しい。俺が保証しよう」

「!? えっ!?」


 一拍遅れて驚いた私に、ルーファス様は耐えきれないと言った風に笑う。

 緊張を解してくれようとしたのだろうけど、これはこれで心臓に悪い……! と慌てて言葉を返そうとしたものの、その前にルーファス様と私の名前が呼ばれてしまう。

 そんなルーファス様は、私と目を合わせることなく真っ直ぐと扉の方を見ているけれど、その口角が上がっていることに気が付く。


(わ、わざとだわ……!)


 からかわれた! と少し悔しくなった私は、繋がれた手を力いっぱい握ってみたのだった。





 そうして、これまた煌びやかで豪華な会場入りをし、無事にダンスも踊り終えたところで、ルーファス様のエスコートを受けながら、次はいよいよ王太子であるクライド様とヒロインであり婚約者のエステル様とのご対面、なのだけど……。


「ルーファス様、私達やはり凄い目立っていますよね?」


 そう尋ねると、ルーファス様は周囲の目を気にも留めず口を開く。


「そうだな」

「さすがはルーファス様ですね!」


 筆頭公爵という立場と美貌を兼ね揃えた完璧な推し!

 と笑みを浮かべると、ルーファス様はこちらを見て言う。


「それもそうかもしれないが、この視線は普段以上だな」

「え? なぜです? ……あっ、もしかして私が妻に相応しいかの品定めをされていらっしゃるのですね!?」


 そうよね、ルーファス様のお隣に立っているんだものね!

 と自然と背筋を張る私に、ルーファス様はすかさずツッコミを入れる。


「いや、そういうことじゃないと思うが」

「え?」

「……まあ、君は知らなくて良いことかもしれないな」


 そう言うと、ルーファス様が私に向かって小さく笑みを溢した……刹那、きゃーっという女性の歓声が耳に届いた。


(いえ、やはりこの視線はルーファス様に向けられたものだと思うわ)


 そして間違いなく私は品定め対象! と改めてルーファス様の人気ぶりを目の当たりにしたところで、国王陛下ご夫妻の御前につく。

 国王陛下ご夫妻とのご挨拶は最初はかなり緊張してしまったけれど、隣にいるルーファス様が堂々と、それでいて礼儀正しく会話も上手で、私に上手く話を繋げてくれたため、無事に自己紹介をすることが出来た。


(“ルーファス様の妻”って口にするのが人に対しては初めてだから、凄く緊張してしまったけれど……!)


 そんな私が国王陛下ご夫妻の目には、新婚だから初々しく恥じらっているのだと映ったらしく、終始生温かい目で見られてしまった。少し恥ずかしかったけれど、上手く誤解していただけたようで何よりだと思う。

 ルーファス様は、どう思ったかは分からないけれど……。

 そうして、少し場所を移動して次に向かったのは。


「二週間ぶりだね、ルーファス」

「私とは半年ぶり、くらいかしらね」


(わわわわわわ)


 言わずもがな、この国の王太子であるクライド殿下と王太子妃殿下であるエステル様の元で。

 そして……。


(な、生のヒーローとヒロイン……ッ)


 想像以上の麗しさに圧倒されてしまいながらも、何とか前世の小説……『愛ある幸せ』中の二人の設定を思い出す。


 まずはヒロイン、エステル・スペンス。

 東方の地を治めるスペンス侯爵家の領地で生まれたエステルは、人よりも少し不遇な環境で育つ。

 その要因が、年子の弟が生まれた直後、地方で起きた反乱を鎮圧する際、スペンス侯爵家の跡取りとして婿に入った騎士である父が命を落としてしまったことにある。

 その影響で、侯爵家の娘でありエステルの母はショックで病に臥し、その後療養のために別邸へと移されてしまった。

 まだ幼いエステルと弟は、スペンス侯爵夫妻……つまり祖父母に育てられたのだが、その祖父母も厳格な人々で、彼女達を厳しく育てた。


 そんな生い立ちがあり、エステルは家族からは愛情を受けていないと感じ、また、幼いながらに父を亡くして壊れた母の姿を見てこう思っていた。

『愛情とは身を滅ぼすもの、恋愛なんてもっての外』


 そうして成長したエステルは、常に完璧を目指し学園に入学した……のだが、そこに初めてライバルが現れる。

 それが、王太子でありヒーローとなる、クライド・ミッチェルだった。

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