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23.

「……ディアナ」

「っ、すみません」


 慌てて謝ると、ルーファス様は困ったような表情をする。


(……だって)


「ロミオとジュリエット、最高に良かったんですけどやっぱり悲しくて……」


 うぅっ、と予め持ってきたハンカチを握りしめて涙を溢す。

 そんな私を見たルーファス様は、戸惑いつつも尋ねた。


「どうして泣いているんだ?」

「だって悲恋ですよ!? お互い大好きで両想いだったのに、結ばれないなんて悲しいじゃないですかあ……」


 そう口にした私に、ますますルーファス様は分からないというように首を傾げる。


「確かに、最後に誤解して死んでしまうのは悲劇だと思うが……、恋愛といってもたったの三日だろう? 

 それに、互いに生きていたとて敵国同士の許されざる恋であるのだから、その先上手くいく保証がないと思うが」

「それはそうなんですけど……、素敵じゃないですか?

 敵同士だと分かっていてもなお、惹かれ合ってしまう上、相手を想って死んでいくなんて。

 そんな相手に出会い、恋をして……、死んだと思って後を追ってまで一緒にいたいと、そう願うのはやっぱり素敵だと思いながらも、結ばれないっていうのも悲しくて……」

「……それでも好きなのか? この物語が」

「はい」


 私が頷くと、ルーファス様は顎に手を当てて言った。


「俺には、やはり分からないな。燃えるような恋と誰かが称しているのを聞いたことがあるが……、現実的に考えて、こうなる未来は見えていたのだから、互いが大切ならば互いに身を引くべきではないのか?

 その方が一番幸せになれると思うが」

「……ふふっ」

「え?」


 思わず笑みをこぼせば、ルーファス様が驚いたように目を丸くする。

 私は「ごめんなさい」と謝り、目元を拭いながら言った。


「ルーファス様らしいお考えだなと思って。

 ……確かに、たったの三日だし、敵同士だしで障害しかないから諦めるべきだと私も最初は思いましたが、本物の恋愛って時間とか理屈ではなく、ロミオとジュリエットのように、この人だ!と思える運命の相手と出会えることだと思うんです」

「運命の相手……」

「はい。と言っても私も上手くは言えないし、そもそも恋をしたことがないので分からないのですが。

 私が恋愛小説を好きなのは、互いにこの人だという人に出会って、それが成就した時に良かったなあ、おめでとう!って幸せを分けてもらうことです」

「……自分の恋愛ではないのに?」

「それでも、恋をして、幸せそうにしている姿を見ていると、こちらまで幸せな気持ちになるんです。

 特に私は感情移入しやすいタイプなので、友人から聞いたり物語を読んだりすると、こんなふうにすぐに共感してしまいます」


 前世の乙女ゲーム一つとっても、私は自分がヒロインポジションに立つというよりも、ヒロインの名前を変更せずにプレイしていたくらいだから、自分が恋愛をしようとは思ったことがない。

 だからこそ、自分の恋愛そっちのけで推し活に励んでいたのだけども。


(そういえば、ルーファス様だけは唯一、ヒーローやヒロインでない上に、恋愛をしないにも拘らず、ずっと推していたなあ)


 ルーファス様が小説中に出てきたのは、一巻目の中盤あたり。

 ルーファス様が出てきた瞬間、“この人が推しになりそう!”と思ったのだ。そしてその推しが小説の最初から最後まで変わることはなかった。

 それは、転生してからもずっと変わらない……というよりも、ルーファス様のことを少しずつだけど、もっとよく知るようになってからは、以前よりもやっぱりこの人が私の推しだと思うようになった。

 そう考えると……。


「私は、ルーファス様とこうして出会えたことも、“運命”なのではないかなと思います。

 ルーファス様が契約結婚相手に私を……、たとえたまたまであったとしても選んでくれたおかげで、今という幸せがある。

 だから、私達の関係もまた“運命”と呼べるかと……って、あれ?」


(私、何の話をしていたんだっけ?)


 そう、運命の相手とは、この人だ! と思った人で……って。


(わ、わわわ私かなり大胆なことを言ってしまっているのでは!?)


 これでは、私達の間に恋愛感情が芽生えるという意味に聞こえてしまうわよね!?

 と慌てて否定しようとしたけれど、その言葉は阻まれてしまう。

 それは、劇場員の方に帰りを促されてしまったからで。


(ほ、本当に恥ずかしい……!)


 ルーファス様は今の私の言葉をどう思っているのだろうと、怖くて顔を見られずにいると。


「……なるほど。君らしい考えだな」

「え?」


 思いがけない言葉に顔を上げれば、ルーファス様は小さく口角を上げて言った。


「他人の幸せが自分の幸せだと言えるのが君らしい。

 そういう君だからこそ、俺とは違って喜怒哀楽の感情表現が豊かなのも頷ける」

「……申し訳ないです」

「謝る必要がどこにある。俺としては分かりやすくて良いと思うし、そんな君を見ていて可愛らしいなとも思う」

「か、かわっ!?」


 突然の褒め言葉に動揺する私を置いてけぼりにして、ルーファス様は一人納得したように呟く。


「そうか、だから俺は……」


 そう言うや否や、ルーファス様は私の目を見て更なる爆弾発言を落とした。


「俺が君を契約結婚相手にと選んだのは、たまたまなどではない。

 君の姿を見て、“この人なら”とそう直感で思ったからだ」

「……へっ!?」


 その言葉に驚く私に、ルーファス様が手を差し伸べる。

 その手を取り、立ち上がらせたルーファス様は、笑みを浮かべて言った。


「だから、俺にとっての君も“運命の相手”なんだと思う」

「!?!?」


(……つまりそれってどういう意味!?)


 パニックに陥る私に、ルーファス様はクスッと笑うと、私の手を引きエスコートする。

 とりあえず何か言わなければと、疑問に思ったことを口にした。


「あ、あの! 私を選んでくださったのはたまたまではないと仰っていましたが、私達はお会いしたことがありませんでしたよね?」

「あぁ、そうだな」

「では、いつ私のことを?」


 尋ねた私に、ルーファス様は逡巡して……。


「!」


 やがて唇に人差し指を当てると、小さく笑って言った。


「秘密だ」

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