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祝祭と答え合わせ  作者: 九藤ラフカ
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春 恋の自覚

学校が近づくにつれて、少しずつ道端の桜並木が増えていく。少しばかりの春休みをまたいで、久しぶりに着る制服はちょっと懐かしい。満開の桜は空を覆うほどに咲き狂っていて、小鳥たちは私たちの進級を祝っているようだった。

 そんな景色を見ながら小走りで学校へ向かっていると、見慣れた背中が見えてくる。私は「おーい」と声を掛けながら、凜々花に後ろから抱きつく。凜々花は少しびっくりした表情を見せて、「おはよう」と私の頭を撫でてくれる。

 そして、

 「今度こそ私たち同じクラスがいいね。」と呟く。

 「うん!絶対に同じクラスがいい!神様お願い!」と少し冷たい手を擦り合わせる。

 

 今日は四月七日。

 私たちは中学三年生になった。

 

 

 

 二人で肩を寄せ合いながら下駄箱にいき、靴を履き替えると、その先では多くの生徒が集まっていた。その向こうでは、私たちの新しいクラスが書かれた大きな模造紙が貼られている。

 私たちは息を呑みながら近づいていくと、同じ三年一組に二人の名前があった。

 その瞬間、私たちは手を取り合い、

 「「やった!!!」」

 と大きな声で叫んだ。

 

 私と凜々花は中学時代の二年間は、同じクラスにはなれなかった。だから、最後の一年は一緒だということに、とても心を踊らせた。 

 新しいクラスは見慣れた友達も多く、仲良しグループを作るのにそれほど困らなかった。

 この時私は、この一年間、凜々花とともに素晴らしい日々を過ごせると思っていた。

 彼女と一緒だったら、何も怖くないと感じていた。

 

 

 中学時代の一番のイベントといえば、修学旅行だった。私たちの学校では三年生の六月に東京に行くことになっている。新しいクラスになった四月から教室での話題はほとんど修学旅行で溢れていた。

 ゴールデンウィークが過ぎ、中間テストが終わると、その熱は一層増した。

 班決めはその中でも一番の大きな話題だった。

 私はバスの隣の座席もグループ班もホテルの部屋もすべて凜々花と一緒だった。

 「楽しみだね。」と凜々花は笑顔で言った。

 

 修学旅行当日の天気は曇りだった。目的地の東京に向けて、私たちを乗せたバスは走り出した。最初は二人でいろんなことを話した。二人とも東京に行くのは初めてで、お互いに行きたい場所を言い合いながら、憧れの地への期待を高めていった。

 しばらくすると、隣では凜々花がすうすうとかわいい寝息をたてながら、気持ちよさそうに寝ていた。バスが揺れるたびに、彼女の体が少しずつ私に近づいてくる。

 私はすごくドキドキしていた。

 彼女の美しい横顔が私の肩に寄りかかった時、心臓がきゅっとなった。

 初めての感情だった。

 手は少し汗ばみ、体が熱くなる。

 私が私じゃないみたいだ。

 でも、嫌じゃない。

 凜々花の寝顔は高級な果実のように美しく、それでいて儚げだった。

 

 私はこの時、凜々花に淡い恋心を抱いた気がした。

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