序章
悔しいと思った。
つらいと思った。
それでも、親友の門出には心から祝いたいと思った。だから、凜々花の結婚式には出席する。
こうなることは心のどこかで分かってた。
私は長い間、自分の気持ちに嘘をついていた。
『私はずっと、凜々花のことが好きだった。』
私は凜々花の結婚式の招待状を手にした時、全てが繋がった気がした。凜々花の結婚相手は、私たちの中学校の時の先生だった。
しかも女性だ。
私はそれに気がつかなかった。凜々花にはずっと恋人なんていないものだと思っていた。
私は学生時代、ずっと凜々花の背中を追っていた。たくさんの時間を凜々花と共に過ごしたし、誰よりも彼女の親友であるつもりだった。彼女とは保育園からの長い付き合いだったが、好きだと自覚したのは中学三年生くらいだろうか。
でも私は自分の気持ちを伝えることはなかった。
タイミングが、運が、神様のいたずらか何かが、私の告白を邪魔したのだ。
その時のことを私は少し懐かしいなと思う。
落ち着くために煎れたコーヒーはいつの間にか冷たくなっていた。
これは私の自己満足だ。
今更、何をしても変わらない。
でも、せめて、あの時あったことを少しでも思い出して、自分の気持ちに折り目をつけたい。
そう感じ、まっさらなノートとお気に入りのボールペンを手に取る。
頭のどこかで、たくさんの歯車がガチっと音を立てて組み合うのを感じた。
そして、それはものすごい速さで動き出す。
私は目を閉じた。
徐々に、過去の淡い記憶が鮮明になっていく。
私は桜の匂いとともに、中学三年の春を回想し始めた。