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 俺の答えを聞いた陛下は顔を上げ、ただ一言、

「感謝する」

 とだけ述べた。だが、鉄仮面で知られるその顔には心配の色が浮かんでいる。それだけで心の底から俺たちのことを案じていたことが伝わってくる。そしてあれだけの失態を犯してなお信頼を寄せて下さるのならば俺もそれに報いなければならない。

 

 であればすることは一つだ。

「グレイヴ・アスターは神と誓う。再びこの国に平和をもたらすと!」

 決意を示すためにそう宣言すると、俺の首を囲うようにして魔術文字が浮き上がり定着する。

「良いのか、神との血盟など。もし果たせなければ死ぬことになるのだぞ」

 この行動には流石の陛下も予想外だったのか、動揺しながら問いただされる。

「覚悟の上です。一度は逃げた私を信用して頂くにはこれが最善だと思いました。それにこれ以上自分自身に言い訳をするわけにはいきません」

 じっと俺を見据えた陛下は半ば諦めたように

「無茶だけはするでない」

 と告げ、そのまま拘束魔法を解いた。

「大丈夫なのですか?」

「これだけの覚悟を見せた者を縛っておく必要などあるまい」

 そう言いながら懐から一枚の紙を取り出し、俺に手渡す。

「それがお主の担当する任務内容だ」

 手渡された紙には担当する戦闘区域や、装備、補給地点などが記されていた。だがそれらを差し置いて、気になる記述がある。

「このセシリアという人物は誰なのでしょうか?」

「その者にはお主の補佐を命じておる。魔法学校と士官学校を首席で卒業した実力者だ、足を引っ張ることもないだろう」

「しかし、私あれだけ強かった仲間を守ることすら―」

 脳裏に蘇るのは魔王城でのあの惨劇だ。あれからまともに人と関わったことは無い。いや、恐怖から関わることが出来ないと言った方が正しいだろう。

「仲間ではない、補佐官だ」

「ですが、私は皆に嫌われています!一人で戦った方が周りのためにも―」

「案ずるな、会えばわかる。それに戦場に一人で行かれては生存確認すらままならん。それともすぐに戦死しようとでも考えているのか」

「まさか!」

「では問題あるまい」

 ここまで強気な陛下の素振りからして二人で任務にあたるのは決定事項なのだろう。名目上は補佐官となっているが、その裏にそれ以上の意味があることも明らかだ。であればここで言い張っても無駄。そう判断し、反論を諦める。

 

 俺が押し黙ったところで陛下は軽く咳をし、仕切り直した。

「さて、すでに山脈の麓には先行した騎士団が拠点を築いている。お主にはまずそこに向かってもらう」

「わかりました。すぐに馬車を探します」

「その必要はない。既に転移魔法を安定して行えることが確認済みだ」

 転移魔法は高度な時空間系の魔法。発動のためには長期間にわたる継続的な魔力供給が必要なはず。それを安定して行えるということは本当にこちら側が押しているのだろう。


「それから、イザベラのことは恨まないでおいてくれ。全て余の命でやったことだ」

「まさか。こうでもされなければ私はここへ来なかったでしょう」

 苦笑する俺を見て陛下は少し安心した様だ。

「最後に、これは国王ではなくアーサーという一人の人間の言葉として聞いて欲しい」

「お前は俺が見てきた中で最も強い。俺が保証する。だから、勝ってこい!」

 豪快に言い放つと、陛下は俺の方に手を置き、詠唱を始める。そして俺の体が光の輪に包まれていく。

「今度こそ必ず!!」

 そう叫ぶやいなや、全身が歪んでいるかのような転移魔法独特の感覚に襲われた。


 感覚が回復するのに10分はかかっただろうか。ようやく落ち着いて周囲を視認できるようになり、安全を確保しようと立ち上がったその時、いきなり背後に気配を感じる。

「―誰だ」

 警戒しながら振り返った俺は我が目を疑った。


「お疲れ様です、グレイヴ様」

 そこに立っていたのはあの安宿の女将だった。

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