表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

2

 窓の外からの喧騒で目が覚める。安宿の壁では外の音が丸聞こえだ。おまけに酷く頭が痛む。まさしく最悪の目覚めだなと思いながら窓のを覗くと、既に太陽は頂上まで昇っていた。


 それにしてもやけに外がうるさい。いくら昼時とはいえここまで騒がしいことは珍しい。よほど昨日の知らせが響いたのか。とはいえここは国の中では西部に位置するし、ここに来るまでには王都もある。昨日の今日でここが襲撃されるとは考えにくい。

「よほど魔物が怖いらしい」

 自らへの皮肉もこめながらつい呟いてしまう。


 朝食と呼ぶにはあまりに遅い食事をとるために階段を下りたが、フロントには誰もいない。普段ならこの時間帯はまだ女将がいるのはずだ。こんな場末には明らかに不釣り合いな彼女の美貌とその人気は、いつでも満室なことが示している。斯く言う俺もつられた内の一人だ。

 

 仕方がないのでどこか外で食べようと思い、通りに出た瞬間我が目を疑った。

 辺り一面を人が埋め尽くし、銘々何か叫んでいる。そして、その視線の先は掲示板のただ一点に集中している。その前で騎士団員らしき人物が何かを訴えているのか叫んでいる。だがこの距離と人込みでは全く要領が得られない。

 やむなく『千里眼』スキルを使い、視線を飛ばす。

『なるほど、これは揉めるわけだ』

 張り紙には大きく徴兵令と書かれている。昨日の知らせに加えて急な徴兵と来ては人々の不安を掻き立てるに決まっている。現に今にも暴動になりそうな勢いだ。

 これは面倒なことになると思い退散しようとした時、周囲に張り詰めた声が響いた。

「静粛に!これより仔細を説明する!」

 その凛としながらもどこか威厳のある声に民衆は一様に押し黙ってしまった。そして誰の顔にも驚きの色が浮かんでいる。無理もないだろう、いきなり騎士団のNo.2が登場したのだから。


 騎士とは思えない程長く美しい銀髪と、一切無駄のない顔立ち、そして突き刺すかのごとき雰囲気。一度会ったら忘れることのできないであろうその存在感はまさしく「女傑」である。

「私の名はイザベラ。騎士団西部総監を務める者だ!」

 久々に顔を見たが、相変わらず「女傑」の二つ名に恥じない威ある風貌と声の張りだ。恐らく裏では激務をこなしているはずだがそんなことはおくびにも出さない。


「まずは急な徴兵について謝らせてほしい。

だが、どうか安心してくれ!今回集められた者たちは王都での警護に就くことになっている。故に命の危険は少ない。さらに応じてくれた者には相応の報酬を用意することを約束する!」

 これには群衆の中に動揺が広がる。今の苦しい状況ではたとえそれが兵役であっても報酬がでるならと思うものも少なくないからだろう。しかし、

「ふざけるな!そう言って前線にでも送り込むつもりだろ!」

 群衆の中から怒号が響いた。そしてそれは一気に周囲に伝播していく。

「そうだ!前もあの男が必ず魔王を倒すとかのたまいやがって!」

「俺たちの生活は苦しいままだ!」

「お前たちはいつも信用ならん!」

 群衆は一瞬の内に怒りに包まれてしまった。こうなってはもはや武力で抑えるしかないだろう。だがもしそんなことをすれば新たな火種を生むことになる。この状況でそれはたまったものではない。どうするのかと様子を伺っていると「女傑」は思わぬ行動に出た。

「イザベラ・ローズ・スペンサーは神に誓う!此度の宣言を厳守すると!」

 高らかに宣言されたその内容にまたも場が凍り付く。俺もまさか神との盟約を交わすとは思わなかったが、命を担保にした甲斐はあったようだ。その証拠にこの宣誓によって民衆の怒りは急速に落ち着いていく。

「何か不満や、不安がある者は私が直接話を聞く!だからどうか、この場は収めて頂きたい!」

 最後にそう言って頭を下げた彼女を責める者はもういなかった。


 以前と変わらぬ人をまとめ上げる手腕に感心しつつ、通りを戻ろうと振り返る。瞬間、俺の視界に飛び込んできたのはその「女傑」だった。咄嗟に構えてまった俺に対して向こうは随分と余裕そうだ。

「久しぶりだな、クレイヴ」

「貴様に言いたいことは山ほどあるが、残念ながら今は時間がない」

「な―」

 言葉を発そうした瞬間、彼女の手が光る。前なら反応できたであろう速さだったが、今の飲んだくれて勘の鈍った自分には避けられるわけもない。

『くそっ、催涙魔法か』

 そう思ったのも束の間、膝に力が入らなくなる。そしてそのまま両脇を抱えられたところで記憶が途絶えた。

ブックマークの追加と評価をつけて頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ