表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ホラー

すみません、その会話の内容はだだ漏れです

作者: 鞠目

 少しだけお付き合いいただけませんか? 不思議なことがあったものですからどうしても誰かに聞いてもらいたくて。


 二週間ほど前に有給休暇をいただきました。

「有給休暇、ちゃんとつかってね。これ、上司命令だから」

 一年に五日間は必ず有給休暇を取らないといけない……らしいです。そんな話は都市伝説だと思っていました。でも、今年うちの会社にもその制度が導入されたんです。導入されたというか行政から指導が入ったというか、まあそんなところです。

「申し訳ないけれど、明日ちゃんと休んでね」

 申し訳なさを微塵も感じさせない我が上司。帰る直前に言われました。しかも書類整理の片手間に。

 有給休暇が取れるようになったのはありがたいのですが休む日ぐらい自分で決めさせてくださいよ。あとあまりにも直前すぎませんか? と、思ったけれどなんとか言葉を飲み込みました。

「ありがとうございます」

 純度100%の営業スマイルで上司にお礼を言って私は休みを受け入れました。明日はお休み。嬉しいけれど突然すぎて現実感がなく、ふわふわした気持ちで私は家に帰りました。

 そして「さあ、休みだ!」とワクワクした気持ちで朝を迎えた私の耳に飛び込んできたのは盛大な雨音でした。それはもうかなりの音量の。


 どんよりした気持ちで朝ごはんを済ませ、私はたまった家事をしました。洗濯機をまわし、山積みの乾いた洗濯物をたたみ、掃除機をかけました。それから玄関掃除とトイレ掃除も。洗濯物は部屋干ししました。

 空には重たい雲が広がっていて私が起きた時ほど土砂降りではないものの、そこそこ強い雨が降っていました。

 11時半を過ぎ、お昼ご飯の支度をしようと思い冷蔵庫を開けると中身は空っぽでした。冷凍庫も空っぽ。ストッカーを見るとカップ麺や缶詰などの備蓄食も底を尽きていました。大きなため息をついてから、私は濡れることを諦めてスーパーに行くことにしました。


 傘を通じて、しとしとばらばらと雨の音が響きます。服が濡れるのは嫌ですが雨の日は別に嫌いではありません。私は水たまりを避けながらスーパーに向かいました。

 スーパーまでは徒歩10分ほど。天気が悪いせいか12時前ですがスーパーまでの行き道では誰ともすれ違いませんでした。

 レインブーツをはいていたけれど、いつの間にか靴下はびしょ濡れです。靴の中が冷たくぐずぐずして私はますます暗い気持ちになりました。

 私の家からスーパーに向かうとスーパーは私に背を向けるように建っています。入り口に行くにはスーパーの横の細い道を通り抜けて正面に回る必要があります。

 スーパーの横の道は自動車一台がぎりぎり通れるぐらいの道幅しかありません。スーパーが道の左側にあり、右側には小さな食品加工会社が道路ぎりぎりまで迫るようにして建っています。


 スーパー横の道に差し掛かった時、突然どこからともなくおばさんが大きな声で話しているのが聞こえてきました。

「勘弁してほしいわね」

「そうね。雨の日はじめじめするし、人通りも少ないし悪いことばっかり」

「暑いのも嫌だけどやっぱり晴れの日のほうがましね」

「ましよましよ。本当に早くやまないかしら。梅雨は明けたのに雨の日ばかりだなんておかしいわ」

 二人のおばさんが話しているようです。かなり大きな声で話しているからか、狭い道路に声がよく響いています。道路には誰もいないので、右側の会社の中で誰かが話しているのかもしれないなあなんて思いながら私は歩き続けました。

「それにしてもいいことないかしら」

「あるといいんだけど」

 私が歩くにつれてどんどん声が大きくなっていきます。どこで話してるんだろう? 声はよく聞こえるのに話している人の姿が見えません。おかしいなと思いながらスーパーの横道を真ん中あたりまで来た時、突然声が私の真横から聞こえました。


「この人について行くなんてどう?」


 おばさんの声は会社側から聞こえました。

 正確に言えば私と壁の間から聞こえました。私と壁までの距離は2mほど。もちろん間には何もありません。

 凹凸のないコンクリートの壁。窓はありますが閉まっていて電気もついておらず中に人がいる気配もありません。なのに明らかに話し声が聞こえた私は思わず壁を凝視してしまいました。

 10秒ほどでしょうか。じっと見ていましたが何も見えませんでした。でも、何も見えないけれどだんだん誰かと目があっているような気がしてきて鳥肌が立った私は早歩きでスーパーの入り口に向かいました。早歩きをしたせいで雨でさらに服が濡れましたが気にならなくなっていました。

 そんな時です。後ろから私に向かって声がしました。


「あの子はやめときましょうよ。あまり良くないわ」

「そうね、あまり良くないわね」


 そんなやりとりを最後におばさんの声はぱたりと止みました。

 私は怖くて振り向くことができず大慌てでスーパーの中へ駆け込みました。そして冷静な判断ができないまま買い物をして、普段通らない道を通って遠回りをして帰りました。その後どうやって過ごしたかはよく覚えていません。

 先週の日曜日、気になってスーパーの横の道を通ってみました。でも、特に何事もなく、誰の話し声も聞こえませんでした。もうあの場所には何もいないのかもしれません。


 昨日、会社で受けた健康診断の結果がデスクに置いてありました。いつもならすぐに封を切るのですが今回はまだ見る勇気がありません。なんとなく嫌な予感がして……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] レビューから参りました! この作品は以前拝見していたんですが評価のみで感想を書いておりませんでした。 [一言] 確かこの時期は<個人ホラー企画>が爆発した時期と記憶しておりまして、<人○祭…
[良い点] ∀・)おぉ……わからない。これはわからない。体調が悪くて聴こえた幻覚なのか、心霊現象の類なのか、現実に存在する闇組織の尻尾なのか。わからないけど起きる奇妙な現象。これぞ恐怖といえる恐怖でし…
[一言] うわぁ、怖い。 何もない場所から声が聞こえるって、それだけでホラーですね。 ついていくって、どういう意味なんでしょう。 やっぱりやめとく、あまり良くないの意味も不可解。 怖いです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ