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その赤子は彼の頭から生まれた。
「なんと、産みの苦しいことか……だが、この苦しみを乗り越えた先に待っている喜びはなんと、良いものだろうか」
赤子の産声が広間に広がっていた。
赤子は、生まれた姿のまま床に。
手足を縮こませながら呼吸をしている。
彼は金色の玉座から立ち上がり、赤子にゆっくりと近づくと両の手で赤子を頭上まで抱え上げた。
「おまえの名は、ヘレル・ベン・シャハル! 私の子だ! ヘレルよ!」
赤子はひときわ大きく泣くと、その眼をカッと見開いた。
その瞳は宇宙と、そして星々がそこにあるかのように深く見たものをとらえた。
ピュンッと、風を切り裂く音。
彼の首は、ぱっくりと掻き切られている。
赤子が親の首を切ったのだ、何かの力で。
彼は首を切られた状態で静止して、赤子も抱え上げられたまま泣き声をだすのをやめ、ただじっと首から流れ出る血液を凝視していた。
切り裂かれた首は、泡を吹いて、みるみると元通りになっていく。
「馬鹿野郎! 赤ん坊! 親を殺そうとするとはなにごとか!」
彼は抱え上げていた腕を力のあらん限り下に振り下ろす。
赤子は地面に叩きつけられた。
ペチン!肌が床についた音がする。
マントを翻して背を向けた。
彼は憤慨してその場を去る。
ヘレルは何ごともなかったかの様に、広間をはいはいしながら楽しそうに笑っていた。