番外編 ―シュゾside― (閲覧注意)
※閲覧注意
一部の職業について登場人物の固定観念がありますが作者と作品に職業差別する意図はありません。後ほんの少し性描写を匂わす表現もあり?
このような表現を不快に感じる方は閲覧をお控え下さい。
「よっしゃ、完徹で10本目クリア・・・ってただの作業だな」
手元に置かれているのは旧家庭コンピュータの古ゲーカセット10本・・・貯金が残り少ねぇから娯楽も貧弱よ。
とりあえず朝飯食うか。
「・・・今日も起きてきやがったか、ずっと寝てりゃいいのに」
「ふん、いっその事徹夜続きでくたばった方が有り難いのだがな?」
「その通りだ、張戸家の恥さらしが・・・」
「アンタの分はないわよ、この穀潰し!」
今日もさわやかな朝だ。家族の嫌味がBGMとなって心地よい。テーブルには兄様2人と親父様とおふくろ様が座っていて自分の分を食っている。
俺は黙ったまま台所に行って冷蔵庫の中身を物色する。食パンを焼きハムエッグの準備をする。
「てめぇ、医師の兄様にシカトたぁいい度胸だ・・・な?」
「ぅふ?おはようございますお兄様」
人の胸倉を掴みかかろうとする次男の兄様は振り向いた俺がアツアツなフライパンを持っている事に気づいて動きを止めた。火傷する前に気づいて良かったね!
「な・・・何という事をしているのだ修三!お前の行為は犯罪と同じだ!今から警察を通報」
「出来るわけないよねー?未遂だし故意じゃないし、やっと司法試験パスして顧問先見つけたところで警察騒ぎしたらどうなるかなー?」
「ぅ、ぅぐぐ・・・」
俺の脅しに何も言い返せない長男様、我ながらすげぇ論破力だ。俺も今から弁護士目指すかな?
「宗一、誠次!そんな落ちこぼれに構うんじゃない!早く仕事に行かんか!!」
「ふん、父様の言う通りだ」「ち・・・いい気になってんじゃねぇぞクソが」
親父様の一喝で下がっていく兄様達、さっさとお仕事行かないと遅刻しちゃうよー?
パンが焼きあがりハムエッグが出来た。誰もいないくなったテーブルに置いて食す。不意に後ろから親父様とおふくろ様のささやき声が聞こえてくる。
「まったく、卒業してからは仕事も就かずふらふらとしおって・・・高校の学費がムダになったわ」
「本当ね、お兄ちゃん達は頑張っているのに修三ときたらゲームばっかり!」
椅子の背もたれで仰向けになり逆さになった姿勢で呟く。
「おやおや、俺高校の授業料は一切ご迷惑掛けておりませんでしたなぁ・・・それに進学を諦めさせた俺にどうやって医者か弁護士になれと?他の仕事したらダメなんだよねー??」
居たたまれずその場を離れるご両親。ささやかなBGMもようやく静かになったか。
食うものも食ったし、この心地よい世界から飛び出して近所の自然公園にでも行くか。
人工の丘の原っぱで大の字になって寝転んでいる。野原を駆け巡るそよ風によって家庭のぬるま湯に浸かっていた俺の心は少しずつ荒んでいく・・・。
中小企業の専務たる親父様の張戸善広は気位が高く、良い職業とは「医者か弁護士」という固定観念の持ち主だ、自分は違う仕事しているのに。
おふくろ様たる専業主婦の張戸千絵は2人の兄の面倒は良く見るが3人目の俺には手が回らず目を向けない。
俺の兄たる張戸宗一と張戸誠次、二人は今や弁護士と医師となって張戸家も安泰だ。一方の俺は高校卒業と同時にニートやって1年・・・時が過ぎるのは早いものよ。
他人から見れば優秀な兄2人がいて不貞腐れているように見える、実際そうだ。
何せ俺は天下のニート様だからな、働いたら負けってヤツ?
兄様達は2人ともエリートコースを歩んできた。しかし大学卒業とともに司法試験や医師免許試験を取得できれば問題無かったのに何年も合格出来なかった。
試験にパスするべく予備校や塾に家庭教師まで面倒見てもらっていたから、日々授業料にお金が飛んでいく始末。にもかかわらず兄様達はゲーム三昧だ。
そのため俺は親父様やガッコの教師達お勧めの志望校たる私学高校に入る事が出来ず学費の安い公立高に入学。その上自分の学費は自分で何とかしろとのお達しつきだ。
否応なくバイト三昧で過ごした俺は学業も人並みにしか振るわずそれでも卒業する事は出来た。しかし俺を待っていたのは大学への進学は諦めるように命令する親父様だった。
別に向学心もない俺は進学にこだわって無かったから反対もせずそのままバイト暮らしだったが、その日を境に妙に力が抜けていくのを覚えた。
自分の努力って何?俺が過ごしてきた時間は何のため?
最初は親父様もおふくろ様も気遣ってはいたものの2人の兄様以上の対応では無かった。更にそれ以降ようやく兄様達が司法試験や資格試験を合格した事で家族全員が盛り上がり、俺は張戸家唯一の落ちこぼれとなった。
それ以降はバイトも辞めて家でニート生活をやっている。バイトや他の職業やっていても親父様の固定観念では落ちこぼれ扱いだろうから無理して働く必要無し。ついこの間まで兄様達も完徹でゲーム三昧やってたから俺がやって何が悪い。
そろそろ一人立ちしてあの心地よい家を離れるべきだろうけど気力が全く湧かない。まあ俺を追い出すなら下宿費用でも出してもらうか。何せ兄様2人は天下の弁護士と医者なのだから俺の家賃ぐらい無問題だろ?今度はアイツらが俺を養う番だ。
日の陰りを見せ始めた空・・・雨でも降るのか?起きようとしたところで俺は雲の隙間から降り注いできた巨大な光に包まれる・・・・・・
◇◇◇
「・・・シュゾ、大丈夫なのか?」
「・・・はっ」
気がつくとベッドの上だった。隣で寝ていたハズのミュリが心配そうに覗きこんでいる。そうだ、ここは俺の、ミュリとの家だった。
あの王城イベントの後、お互いにオルファン王国の重職に就いた俺達は結婚した。
特に考えてなかった結婚式はユトさんを始めアレイにエルバにバルファ王女さん達女性陣が異様なテンションで盛り上げてくれたっけ。モンスター戦より緊張しちまって上手く挨拶できず、皆から揶揄われたのも今となっては良い思い出だ。
騎士団出身のミュリは初めてイタした頃から、旦那たる俺に対しても様付けや敬語をもって接してくれていた。始めはイイ気分だったけどどうも落ち着かないので今は止めてもらってる。タメ口の方が家族っぽくていいや。
「ひどいうなされ方だったぞ?歯ぎしりもすごかったし・・・」
「いや、大丈夫だ・・・久しぶりに夢を見たんだ、家族とのな・・・」
元の世界での過去の出来事、今のひねくれた俺を生み出すに至った経緯だが・・・もう二度とあの家に戻る事はあるまい。
「家族か・・・やっぱり元の世界に帰りたいよな?でも・・・」
「ははは、冗談じゃない、でなきゃあん時遺物を壊したりはしねぇって」
俺を召喚した遺物をぶっ壊してユトさんに殴られまくった光景が甦る。あれ以来ガーディアとかの言った通り石柱人がやってくる事は無い。この世界の知識を知れば知るほど訳が分からなくなる薄気味悪い連中だ。
「本当か?出来るのなら自分も一緒についていってご両親とお兄様方にごあいさつをしたかったんだが・・・」
おぼろげながら親父様とおふくろ様に兄様たちの微笑ましい顔が浮かんでくるが一瞬に消し去る。石柱人と同じく二度と会いたくもない。
「あんなトコへミュリを連れていくワケがない、俺はこの国の参謀閣下でミュリは騎士団長・・・それにもう一人新しい家族が出来るんだからな?」
そういってミュリのお腹を優しくなでる。今はまだ目立たないがつわりなどの症状が出ているしお医者先生の見立てでは二カ月ということらしい。
「あぅ・・・そう言われると照れるな、この自分がまさか母親になるなんて・・・顔だってカワイくないし女だてらに剣などと・・・んん?」
ミュリの自己否定をキスで塞ぐ。ほっておくとどんどんテンションだだ下がりな話になっていくからな。職務の時は殺気立って近寄りがたい存在なのに。
「ミュリはミュリだよ、他のザコどもには好きに言わせておけっての・・・起こしちまってワリぃがまた抱き枕を頼む、これがないと安心して寝られないんだ」
シーツの中でお互い抱きしめ合う。密着していると暖かいぬくもりに包まれる。
時折自分がこの世界の人間ではない事を思い出し恐ろしい孤独感に苛まれる事がある。しかしこうして愛すべき奥さんの温もりがあればそれも忘れられる。
寝入りそうになる時ミュリの声が優しく聞こえてくる・・・。
「ふふふ・・・シュゾは本当に甘えん坊なんだから、いつもは人を煙に巻いて舌先でやり込めるのに・・・おやすみ、私の旦那様」




