第14話 侵攻!しないのですか?
翌日の早朝、オルファン王城内の中庭にて。
「ユーティス・ロイヤル=オルファン、ただいま帰還して参りました!恐れながら陛下にはただちにご足労願いますよう!!」
風の鬼功を介した私の声が通ります。このような大声を使う事自体王族、いえ貴族にもあってはならない事です。
最初にシュゾの作戦通りに正門から堂々と入場しました。敵の懐に入るので一見破れかぶれのように見えますが、1000人にもなる国防軍の兵力を抑えるには広い戦場よりも狭い城内の方がやりやすいとの事。城の中庭程度で同時に動けるのはせいぜい2~300人が限界でしょう。
国防軍の一般兵は騎士団と比べて鬼力が弱いので戦力としてはつい度外視しがちですが、シュゾの作戦には本当に容赦がありません。
私たちの人数では入場の手間もかからないハズなのに1時間も待たされてようやく城の中庭にまで入る事が出来ました。
ただそのまま城中に入るワケには参りません。反撃できないように武器を取り上げられ仲間達と引き離される事は簡単に予想できます。
そこで先程の交渉、―国王陛下に中庭までおいで頂く―を始めました。
「不敬な・・・自ら城内に入ろうとせず陛下のお迎えを頼むなど、いかに魔王討伐の功があるとは言え余りにも不敬ですぞ!」
城の入り口にて騎士団80名に守られた宰相閣下が言い返します。他にも国防軍の一般兵が500人ほどいるようですが、私達5人を迎えるには警戒し過ぎるぐらいだと白状しているようなものです。
しかし当方にとっては本当に都合のいい展開です。何せこれだけの騎士団を引き連れてきたという事は城内に残っているのは多くても70名、少なければ20名足らずに過ぎません。
「申し訳ありません宰相閣下、こちらのメンバーが体調不良を訴えております故城内で粗相でもしないものかと案じている次第・・・どうかご容赦を」
「ぅみゅー・・・・・・苦しいのですー」
私の前でアレイがうずくまっています。実際青い顔をしているので本当に調子が悪いようです。
「なりませんぞユーティス様!報告では貴方がたは騎士道に恥じる奸計にて魔王を討伐したとの事、そのような方々に陛下がお出迎えする必要は無し!かくなる上は無理にでもご同行願いましょう!」
宰相の指示に従い一般兵の半数200人ほどが私達の元に向ってきます。問答無用で捕らえられるのは困りますので城壁まで少しずつ下がります。苦しんでいるアレイも地面に手をつきながらついてきます。
「逃がすな、後に続け!連中には落とし穴を作るヤツがいる、気をつけながら包囲するのだ!!」
更に残りの兵士達も向かってきます。後ろは城壁なのでこれで完全に包囲されてしまいました。
「ここは王城内、私の指示がない限り外には出られませんぞ・・・王族らしくお覚悟を」
「謹んでお断わり致します・・・アレイ!」
「ぅみゅー!!アーチン・ソーンなのですー!!」
アレイの声と共に地面から無数の巨大な柱が飛び出しました。
「ぅお?」
「な、なんじゃこりゃ・・・」
「うぎゃっ!!」
「くそ、なんて高ぇ!」
「お、降りられねぇ!」
一般兵達がその柱に高く飛ばされたり柱の上に押し上げられたりしていきます。
柱とは言っても土で造られた巨大なものです。城の中庭はまさに海の生き物であるトゲを持つウニのような有様になりました。
中庭の修繕費を考えると頭の痛い所ですが。
「ほっほー落とし穴がイヤそうだったので上にふっ飛ばしてもらいました!お疲れだアレイ、栄養剤なポーションじゃ!」
「ぐびぐび、土を刺の形にするのは簡単なのですー、でも発射するのを我慢しているのは大変だったのですー!」
アレイには土属性の鬼功で地面に準備をさせた後、騎士団達を油断させるため力を込めつつ発射のタイミングを待ってもらいました。顔が青くなっていたのは鬼力消耗のためです。
「よくもやってくれたな!」
「飛ばされてない俺らが!」
「ぶっ〇してやるー!!」
やはり全員ふっ飛ばすというワケにはいかなかったようです。残りの一般兵と騎士団が一団となって襲い掛かってきます。
「控えなさい、愚か者!ムーヴメントエリア!!」
風の鬼功で動かしたのは・・・漁業で使う網です。上空から投げたそれは一団となっている兵士全員に見事にかかりました。
「ぅぎゃ!?な・・・」
「これは網?こんなもの剣で!」
「くぐり抜けてやるぜぇ!!」
網に絡まった兵士達は何とか抜け出そうとします、しかしそんな事はさせません。
「貴様ら、ためらいもなく姫様に手を上げるとは・・・本物の騎士たる自分が引導を渡してくれる!パラライズソード!」
「うぎゃぁあああああああああああああああ!!」
電属性の鬼功をまとったミュリの剣が網に電流を流し込みます。中距離攻撃のロングチェインのように空中に放電するのではなく、網に伝わる伝導攻撃ならば少ない鬼力で感電させることが出来るのです。
そしてこの網はシュゾの指示で道具屋から取り寄せてもらったそうです。正直こんなものを買ってどうするのだろうと思っていましたが、まさかこんな使い方があるとは考えもつきません。
当然威力は動けなくなる程度に抑えてもらってます。とどめを刺して一般兵と騎士団の人員が減ってしまうのは国にとってマイナスでしかありませんので。
後は残りの兵士達を各個撃破するだけです。
「そ、そんな・・・わが騎士団があっけなく・・・そうだ、ヤツには首輪があるのだった!この指輪でぇ!」
「ぐぁ!し、しまった・・・」
宰相が右手を掲げるとともにシュゾが苦しみ始めます。やはり隷属の首輪を操る指輪はまだありましたか。宰相が苦しむシュゾに近寄ります。
「ははは・・・ようしそのまま大人しくしておれ!ユーティス様、この者の身が惜しくば降伏・・・ぉげっ?」
油断していた宰相の腹部をシュゾの下からのパンチが捉えました。モロに食らったようで苦しんでいます。
召喚当初は戦闘では素人だったシュゾですが、私がクエストの合間に鬼功と同時に格闘技を講義した事で今では基本的な技を何とか使えるようになっています。
「よっしゃ、人質確保!」
「ば、バカな・・・隷属の首輪が効かないとは・・・」
「ああコレ?真っ赤なニ・セ・モ・ノ!モノホンはユトさんに外してもらいましたぁ!これはオッサンにプレゼントしてやる!」
そう言ったシュゾはつけていた首輪を外して宰相の首にはめました。隷属の首輪とは違い奴隷につける首輪なので長い鎖がついています。
「ぁ、あぐっ!こ、この宰相を奴隷扱いするなどとは・・・不届き千ば・・・ぐげぇ!」
「召喚しておいて問答無用で俺にはめるように言ったのは誰だっけかなー?そろそろ城内へいくぜユトさんよぉ!」
文句を言う宰相の首を引っ張って無理矢理立たせています。予想していた予備の指輪の事を前もってシュゾに話しておいたら、こんな詐術を使って宰相を人質にするとは・・・あまりにも卑劣ですが非常事態ですのでそこは目をつぶります。
城内に潜入した私たちを待ち受けていたのは騎士団・・・ではなく闇部達の攻撃でした。騎士団と一般兵の事ばかりで存在を忘れていました。全員鬼功使いで手強いです。
「さぁ早く!こちらです!!」
「はい!・・・くそう、敵の攻撃が!!」
「ぅみゅー、激しくてたまらないのですー!!」
「・・・・・・なぜあそこに?、と」
「詮索は後だ、とにかく急げ!!」
「ぐぇっ!も、もっとやさしくぅぅぅぅ!!」
シュゾの指示に従ってはいますが・・・本当になぜあそこなのでしょうか?
辿り着いたのは城の厨房でした。城内の食事、当然王族達の食事もここから作られるのは間違いありません。突然入ってきた私達に料理人達が慌てふためきます。
「ひ、姫様!」
「わっ!私達は何も・・・」
「どうか命だけは!!」
「皆さん落ち着いてください、私達は貴方がたをどうこうしようというのではありません・・・ただ私の指示に従って頂きたいのです、実は・・・」
「な、なんと!」
「そんな事なら!!」
「俺らの実力で!!!」
料理人達が生き生きと働いてくれます。しかしこんな作戦、本当に通用するのでしょうか?
「・・・む、捉えたぞ!」
「・・・あそこに裏切者が!!」
「・・・あれ?」
「闇部の諸君、さぁ座り給え!立食パーティーといこうじゃないか!!」
シュゾが追いかけてきた闇部の3人に諸手を上げて迎え入れました。