第9話 贅沢は敵なのですか?
「お断り致します、砦奪回作戦にも協力出来ないほど騎士団は王都の防備で多忙なのでしょう?戦力を割く事はしたくありませんので」
「・・・・・・温存できたので問題はない、と」
もっともらしい意見ですが所詮は火事場泥棒と何ら変わりありません。我々が死ぬ思いで勝ち取った戦果を横取りしようとする意志が感じられます。
「持ち場から離れる事の出来ない騎士団の代わりにギルドに警備して頂いているだけです、モンスターではない限り誰が警備につこうと変わらないではありませんか」
「・・・・・・わが国に新たな領土は作らせない、と」
やはりというかこれだけのやり取りで感じてしまいます。陛下がどれだけ私の台頭を恐れているのかを。
「私には野心はありません、そもそも4人でひっくり返されるほどの国なのですか?わがオルファンは」
「・・・・・・その方には直ちに消えてもらう、と」
諜報士の鬼力が増大していきます。業を煮やして監視から暗殺に切り替えたようです。私も常日頃からこうなる覚悟はしていましたが、こんなに早く陛下と決別する事になるとは予想外でした。
「・・・フォトンアロゥ!」
くっ!突然投げナイフを飛ばしてきました。間一髪避けられましたが次は外してくれそうにもありません。瞬時に間合いを詰めてきました。しかし予想通りです!
「メイルシュトロォォォォム!!」
「・・・うっ!」
巨大な竜巻に襲われた諜報士は城壁から飛ばされました。私の風属性鬼功最大の大技です。鬼力の消耗はもとより一時的に気圧を乱してしまうので一度使うとしばらくは再使用できません。今のうちに砦内部に避難します。
「はぁはぁ・・・ここなら時間をかせげるハズ」
ここは小部屋たる作戦会議室。機密情報が漏れないよう防音設備が施されています。
「・・・・・・どこに逃げても無駄だ、と」
まったくわが国の諜報士の腕は素晴らしいです。砦内部の構造まで把握しているのですから。
「陛下には折に触れて王位継承権など要らないと言ってきましたのに」
「・・・・・・信用はできない、と」
玉座というものは人間を変えると言いますが陛下も例外ではないようです。何せ本人達の意志を問わず利権に群がる家臣がいるのですから信用できないのも無理はありませんが。
「・・・・・・覚悟、フォトンアロゥ!!」
「エァショーテルっ!・・・くぁっ!!」
急所めがけて飛んできたナイフを空気で形成した刃でたたき落とします。風の鬼功で防御しているハズなのに軌道を変えづらく逆に手傷を負ってしまいました・・・これは光の属性?道理で投擲する速度もケタ違いです。
「・・・・・・殺すには惜しい腕前だが止むを得ない、と」
「はあはあ・・・や、止めて下さい・・・どうか命だけは!」
床にうずくまり命乞いをする私には目もくれずナイフを構えています。
「・・・とどめ!フォトン、あろ・・・ぅ」
諜報士の身体が膝から崩れ落ちました。
彼のいる空間の酸素量を減らして酸欠状態に追い込みました。この方法は部屋が小さいほど成功しやすいのでこの会議室はまさにうってつけでした。
諜者だけあって耐久力も抜群でしたが、どれほどの力量を持とうとも人間である限り呼吸する事には変わりがありません。ましてや鬼功を使う際には必ず呼吸が必要不可欠です。
また私も命乞いのフリなどして敵を油断させる事ができるようになりました。これも普段から敵を欺いて討ち取るシュゾのお蔭かも知れません。あまり見習いたくも使いたくもありませんが。
風の鬼功の物体移動ムーヴメントエリアにて諜報士から武器を取り上げ手足をロープで拘束します。首に掛けているネックレスをとり外して・・・壊しました。これは離れた相手に音で指示を送る事が出来る遺物です。これで陛下はこの諜報士に指示を送り私を暗殺させようとしたのでしょう。
がちゃっ
「あ~ぁ、町にも行ってもムダ足だぁ・・・おぅ入るぜ?」
伏線もなしにシュゾが現れます。最初のうちは神出鬼没な行動には辟易しましたがこの頃では慣れたものです。もはやこの程度ではシャウトは致しません。
「入いる前に了解を取りなさいといつも言っているでしょう?町に繰り出しに行ったのではなかったのですか?」
「魔石を換金しようにも金欠なギルドで対応してもらえずで、っと・・・この茶色ずくめの怪しいのは・・・ユトさんの伝令だったか?」
「よく覚えてましたね、急に襲いかかってきたので拘束したところです」
「げぇ、伝令がそのまま暗殺者になるのかよ・・・まぁ見るからに怪しそうだったしな、んでコイツはどうすん・・・だおっ!」
瞬時に諜報士の身体が起き上がりシュゾを羽交い絞めにします。まだそんな力が残っていたのですか。
「シュゾ、大丈夫です・・・か!」
「・・・・・・はぁはぁ、この者の命が惜しくば動くな、と」
「おいおいおいおい、これどうすんだよユトさんよぉ!?」
彼はどこかに隠し持っていた小型ナイフをシュゾに突き付けています。当然私の答えは。
「煮るなり焼くなり好きになさい」
「・・・な!」
「アイアイサー、セルフバァナァー!!」
「あぐぁあああああっ!!」
シュゾの周りを炎が包みます。諜報士も羽交い絞めにしているだけあってかわす事などできません。先ほどの答えは彼ではなくシュゾに言いました。
「BBQ完了!つっても部屋ン中だから火力は抑えたけどな、死なせてないぜ?」
「お見事です、それではもう一度念入りに拘束を・・・これは!」
ローブや服が燃え尽きて下着姿になった諜報士は・・・女性でした?背が高く手足も長いのでてっきり男性かと思っていたのに。
その素顔はボブカットの可愛らしい髪形ながら鼻筋の通った端正な顔立ちです。
「シュ、シュゾは見てはいけません・・・ってまた何やってるですか!!」
「いつものアイテム探し・・・っとロクなモン入ってねーなぁ、何だよコレ?マズそうな干し肉ひと切れと粘土をこねたヤツ2コだけだぜ??」
「それは彼女の非常食でしょう、そんなものより彼女をどうするかです!彼女一人をどうにかしても代わりが来るでしょうしこのまま野放しにも出来ませんし・・・」
「殺されそうになったのに甘っちょろい事いってるぜー!だったらこの俺に任せてみな?ちゃんと味方に抱き込んでやるよ」
「彼女は諜報部隊の者、どのような説得にも応じませんし拷問をしたとしても全てを耐え抜くと言われています」
「心配ご無用!所詮は同じ人間だもんなー、くぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ・・・」
また始まりましたよ嫌らしい笑いが。こんな時のシュゾはロクな事を考えていません。
「君の名は?」
「はぁはぁ・・・ぅぐっ・・・え、エルバ、と」
諜報士の目が血走っていて視線をきょろきょろと動かしています。
「所属と属性を」
「ぅあ・・・ぐぅ・・・王国諜報部隊で・・・ひ、光属性、と」
質問に答える口からは涎がこぼれています。
「はぁいよくできました~!これでも喰らいなっ!」
「ぁぐ!?・・・むぐっ・・・がぶっ・・・」
私とミュリとアレイが見守る中シュゾの拷問が行われています。知らぬ存ぜぬを通す諜報部隊を相手に鮮やかに情報を引き出しています。しかしやっている事は拷問の責め苦とはほど遠いのです。
諜報士エルバの両手両足を雁字搦めにした上で椅子に拘束しているのですが、目の前にはバリバスの町のレストランから運ばせたフルコースが並んでいます。その料理を情報の割合により一口ずつ食べさせています。
魚の身を咀嚼したエルバの表情がとろけそうになっています。
「えとお次は・・・君の背後関係からいこう、雇い主は?」
「・・・ぐぁ・・・そ、それだけは・・・言えない、と」
「ぅみゅー、アチシはもうガマンできないのですー!全部平らげるのです―!!」
「と言ってますがいかが??」
「ぁぐぁああああ!こ、こくおうへいかです!と」
「そ、そんな!まさか国王陛下が・・・ウソだったら魚の煮つけは自分が始末するぞ!」
「んああああ!ほ、本当の事です!と」
「はいOK、じゃあ今度はステーキをぶちこんでやる!」
「ぁむぅ!・・・んんん~!」
シュゾ曰く、エルバの荷物から見つかった非常食を見てこの拷問方法を思いついたそうです。普段から切り詰めて節約した生活のみを送っていると、物のない貧しさには強くなりますが逆に贅沢に対しては弱くなると。
「人を殺すに刃物はいらぬ」とはいいますが、これを見ればイヤでも実感できるというものです。今回は勉強になりました。