9話:ポアンカレ
戦うべきか国を捨てるかの話し合いをアルカリ王とその家臣らとしていたが、状況は急を要するものだった。カルシウムの見たものを全て話した。そして、1人の家臣が気掛かりなことに気付いた。
「アルミニウム皇太子はどこに?」
カルシウムもそこで気づいた。あの銀色で軽い素材なのに防御を固めてる国1番と謳われるほどのイケメンがいない事に家臣もざわざわした。その間にライト号に似た飛行機で国の領空に入ったという連絡を受け、確認をした。
「おーい!皆の者!ドモルガンから帰ってきたぞ!プロパノールとコバルト、フラーレンを呼んでくれないかな?」
3人はアルミニウム皇太子に呼ばれてとある大きな荷物を目の前に出した。それはプロパノールにとって悲惨なものだった。
「これはアクリロニトリルさんの亡骸だ…。棺はアルミで即席ながらも急いで作って運んだわけ。活躍は聞いてましたがドモルガンで城の内部にて自爆をしたようだった。今じゃ国では大騒ぎになって崩壊寸前になってる」
話を聞いた3人は涙をこぼしていた。棺の上は涙で濡れていた。でもアルミニウム皇太子は続けた。
「ここで泣いてる暇はないよ。今はドモルガンのフォーミュラーとその軍勢が攻めてきている。円周率の帯もどこまでの被害を受けるのかも予測が付かない。アクリロニトリルさんの死を無駄にしてはいけない。ちゃんと水酸化ナトリウムを取り返したじゃないか?僕の名の下にこの水酸化ナトリウムは君たちのものだ。話の詳細は彼からよく聞いた」
フォーミュラーの軍勢は半透膜をぶっ壊すために微分を行なっていた。膜の厚さを薄くする為にそして破れやすくする為に何度も何度も行なっていた。
「まだ破れないか…時間をどれだけかけても構わん!塩基国を滅亡するぞ。我が国の平和の象徴である円周率よ。この膜を食い破れ!」
円周率の帯は飢えを凌ぐ動物のように半透膜を食い散らかしていた。そして成長して皮を破り、新たな姿へと変貌した。フォーミュラーはその時を待ち侘びて叫んだ。
「よくぞ究極の形へと進化した!これぞ我がドモルガン国古の計算帯、ポアンカレだ!誰も解くことができずこれを作ったものは死んでしまったものもこうしてやっと復活を遂げた。
塩基国もろともぶち壊せ!」
美しかった城下町は戦場となり住民はフォーミュラーの軍勢によって1人ずつ女子供関係なく殺されていった。フラーレンたちが泣いていると棺の中が光出した。しかもアルミニウムで作られた為、乱反射して目が眩んだ。
「フラーレン!プロパノールさん目を伏せて!」
この光はフォーミュラーもポアンカレの帯、その軍勢も視界を奪われ行動するのが不可能になった。コバルトが叫んだ。
「棺がフォーミュラーとその帯のような生き物に突っ込んでる!そして、形が変わってる…」
アルミニウムだからなのか形が棺から大きく変わった。そしてコバルトとフラーレンはそれを見てプロパノールとアルミニウム皇太子を地下に連れて避難した。そこには城も壊されて避難したアルカリ王と残された住民、兵士が多くいた。そして、コバルトとフラーレンはアルミニウム皇太子に説明した。
「あの棺から変化したのはプルトニウム爆弾です。しかも、TNTを追跡できるように設定してあるミサイル型で僕の考えだとフォーミュラーの体もしくはドモルガン国の誰かに付けてた可能性があります。アクリロニトリルさんが旅立つ前日にその武器を作っていて説明を受けました。その時僕は寝ぼけていたので頭に入らなく半分しか聞いていませんでしたがこれはその時の説明したもので間違いありません。一気に大きな爆発がこの国を覆い尽くします。最低でも2週間は出れないと思ってください。放射能が飛び散って住めなくなっているので」
説明の終了と同時に大きな爆発が地上から聞こえた。ドアは吹っ飛ばないように分厚く開くのも困難なものにしていたので放射能等の問題は大丈夫だったが耳の轟音が酷い人で鼓膜を貫いたという…。幸い地下には避難用の非常食や水、国を復活するための材料などが揃っていたので問題は無かった。しかし、フラーレンとコバルトの心は沈んでいた。目の前でアクリロニトリルさんが爆散してしまったから命は助かったものも生きてて良いのか分からなくなっていた。フラーレンはずっとコバルトに抱きつきながら泣いていた。
「ねぇコバルト…これからどうすれば良いの?アクリロニトリルさん死んじゃったよ…あんな良い人が死んで私たち何も出来なかったよ。まだ止めれたかもしれないしそれに気づけなかった自分が情けないよ…」
「アクリロニトリルさんは命をかけて僕たちと塩基国の人たちを守ってくれた。それを無駄にしてはいけない。確かに僕たちはアクリロニトリルさんの遺体が光とともに爆発して無くなったけれども僕たちには貰ったお守りがあるだろ?それをアクリロニトリルさんの形見だと思って持っておこう。ネックレスにして首にかけて守ってくれるはずだからそうしよう。そしたらアクリロニトリルさんも喜んでくれる」
そう言ってフラーレンの御守り石とコバルトの御守り石をネックレスとして加工し直した。そしてとても綺麗な時価ウン千万クラスの物が完成した。コバルトは泣くフラーレンの胸元から首にかけて優しくネックレスを付けた。
「ふふ…こうしてみるとフラーレン可愛いね」
フラーレンもそれに対しては泣きながら笑ってくれた。フラーレンはコバルトのネックレスをされた通りに付けた。
「もちろんこれは繋げるとあの恋のやつが浮かぶから大丈夫だよ。君のこと命に変えてでも守るから。アクリロニトリルさんから受けた魂を僕が受け継いでフラーレンとプロパノールさんを守り抜く!ここに誓いを立てる」
そしてプロパノールは2人の様子を見てゆっくりとした足取りで前に現れた。
「王様から報告です。フォーミュラー率いるドモルガン軍は全滅したみたい。防護服を着た兵士が向かったらしく、ポアンカレの帯も跡形もなく散っていたけれどもまだ生きてるという話だった。回収に向かって無力化をはかってるみたいだから一安心よ。そして、アクリロニトリルさんの部屋からこれが残されていた。私たちに向けてのボイスメッセージが遺されてるようだから聞いてみましょう」
小さな有機化学で表されるベンゼンのような形でボタンを押した。アクリロニトリルの声とその姿が映し出された。
「プロパノール、フラーレン、そしてコバルト君。これを見つけたということは僕はもう死んでるようだね。今録ってる時間が遅い時間だけど最後の遺言という形で残す。説明後一人一人話すから聞き漏らさず聞いて欲しい。調査をしたところドモルガンの国はとても執着心が強く一度見られると覚えられて最終的には殺されるらしい。あの時の3人組らは自爆して死んだから君たちは覚えられてない。でも僕はとある方法で覚えられていたようだ。三大強塩基と遺体の処理をしていたときに痛みを感じた。それがフォーミュラーに監視される発信機のようなものを付けられていたようだ。これがこの小さな点のようなものだけど痛いよ…。もう僕の時間は残されていない。この追跡型ミサイルを使ってフォーミュラーを潰す。国を爆破した後にだけどね。最後になるがまずフラーレン。とてもドジだと彼から聞いていたがそのようには感じなかった。ちゃんとコバルト君のこと守ってくれ…。そしてコバルト君はフラーレンの為に命かけて守ってくれ。お前のことを見てくれるのはフラーレンだけだからね。最後にプロパノール。兵士時代に出会っていろんな幸せを築くことができた。子どもを作れないことに消失感を感じていたみたいだがもう既にいるじゃないか。フラーレンとコバルトという子どもが。
シャルル国の兵士として最後の勤めを果たす。後は頼んだ…」
この話が終わったと同時にベンゼンのような形をしたボタンは大空へと旅立った。一つの流れ星のように消えていった。コバルトはその流れ星のような物に向かって未来に誓った。
"フラーレンと一緒に元の世界へ戻ります"
悲しみの中で3人は就寝した。翌朝になるとプロパノールはアクリロニトリルが消えた方向に体を向けて祈りを捧げていた。心の中で大空にいるアクリロニトリルへ小さく呟いた。
「シャルル国騎士団団長としての勤め、お疲れ様でした。最後まで2人の行く末を見守って下さい」
コバルトとフラーレンは今持っているものを整理していた。王水の都で貰った塩酸と塩基国にて貰った水酸化ナトリウムを特殊な容器に分けて大事に保管を行うコバルトの手つきは実験結果No. 1と謳われるほどの腕捌きだったのでフラーレンは漠然とした。
「フラーレンもここまで綺麗に整理して行えば失敗しないのにね…。そのおかげで手には塩酸で溶けた傷が見えちゃってるし」
フラーレンのコンプレックスを言ったコバルトは、その一言でフラーレンの顔が赤くなった。
「わ、私はわざとそんな事してないからね!元の世界に戻ったらちゃんと実験成功できるように順番よくするからね!コバルトに迷惑かけたくないからさ…」
2人はいつものように笑った。書物を読み直してたプロパノールは一つ気がかりなことがあった。フェノールも実験で必要ではないのか?という事を考えていた。そこでお昼ご飯を作った後に3人で話し合った。
「2人ともこの書物の絵を見てもらっても良い?この絵ってさ試薬だよね…?2人はこれを見てなんだと思う?」
プロパノールからの質問にコバルトは当てはまるものを答えた。
「メチルオレンジ、フェノール、ヨウ素液といったところでしょうか…。何とも言えませんね…。全て集めて数打ちゃ当たるというような事をしてみるしかなさそうですね」
ローラー作戦にフラーレンはめんどくさそうな顔をしていた。フラーレンは気づいたかのように発言した。
「ねぇ…最後の溶液の在処を探してからその試薬を考えるというのはどうかな?まずは敵艇に必要な溶液集めてからやってみた方が視野も広がるし、どうかな?」
プロパノールとコバルトは納得した。最後の溶液があるのはアルコールの先祖が眠る地の酢酸だが、国の名前も分かっていなかった。食事後3人はアルカリ王の城へ入り、アクリロニトリルへの黙祷とアルカリ王からアクリロニトリルへナイトの称号を与える儀式を行なった。
「君たちは次にどこへ向かうつもりかな?」
アルカリ王からの質問に3人は困惑した。行き先が分からず在処も分からない中でもあったから王様の前で"まだ決まっていません"という発言はしたくないという気持ちでいっぱいになった。その時、同席してたアルミニウム皇太子が答えた。
「今度は最後の溶液である酢酸を得ようとしてるな?僕は心を読むことができるから君たちの考えは丸見えだよ!」
その一言にアルカリ王の表情が険しくなった。
「なるほど…酢酸が必要なのか…。これはまずいな…ホイートストンブリッジ国とレセプター国が争ってる戦地がそこになるからどうしたものか…」
3人は色々と起きる出来事に対してついていくのに必死だった。