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化学ファンタジア  作者: saiha
7/35

7話:対数

 清々しい朝を迎えた。アクリロニトリルは先に起きて武器をまとめて3人に渡した。そして武器の説明を軽く行った。


「昨日はフラーレンの料理とても美味しかった。元気が出た。ありがとう。みんなに渡した武器だけど、これはTNT、トリニトロトルエンという爆弾だ。簡単に言うと手榴弾というところかな。もし、何かあったらこれを使って打開して欲しい。そしてコバルト君にはこれを渡そう」


 そう言って渡されたものは透明で輝いた小さな石と青く輝いた石だった。


「これってもしかして…‼︎」

「その通り。ダイヤモンドとコバルト、君らの名前にある特色とその素材を加工しておいた」

しかし、疑問が一つ浮かんだ。なぜダイヤモンドなのか?それを問うまでもなくアクリロニトリルは話を続けた。


「ダイヤモンドの源は炭素。つまりフラーレン、君のことを表した。フラーレンは君の可愛さには似合わないと思ってね…。コバルト君のはちゃんとコバルトブルーというものもあったわけでマーキュリー王から持たされたわけ」


 2人はいきなりのサプライズに声を失った。そしてこのアクリロニトリルはなんて素晴らしい人なのだろう。


「その2つを組み合わせてごらん」


 その通りに組み合わせると1つの式が合わさった。


"C43H66N12O12S2"


 これは一体何を示しているのだろうと2人は考えた。そしてフラーレンはすぐに分かった。


「これってオキシトシンですね。これは別名愛ホルモンと呼ばれてるもので…あっ!?」


 気づいたのも束の間、2人は泣いて喜んだ。こんなお守りをもらうなんて思いもしなかったからだ。


「よし、出発しよう!塩基国へ!」


 そう言って全ての荷物をアクリロニトリルが水素で動く車に乗せて引っ張った。この道はハロゲンロード17番と名付けていてその名の通りハロゲンに出る17族の一つ、銀が沢山取れる事でアクリロニトリルが名付けたという話。この道を通ると次第に明るくなって塩基国が所有する道へつながるというわけだ。しばらく歩いているとこちらへ走ってきている男たちがいた。


「何かが来ていますが一体誰でしょう?」

「よし、ここは僕に任せてくれ。プロパノール、そして2人は車を見てて」


 だんだんと近づいてくる男たち。人数で言うと大体10数人程…。


「塩基国の方ですかー!?今どういう状況か知りませんかー?」


 大きな声で問いかけたものも男たちは罵声を飛ばしながらそのまま突っ走っていった。そのあと、兵士のような人3人が大急ぎで走ってきた。


「これはアクリロニトリルじゃないですか!お久しぶりです!マーキュリー王の国が大変だと聞いておりましたが生きているだろうか?とそうは言っておられん。奴らをひっ捕らえないと」


 走ろうとした塩基国の兵士をアクリロニトリルは事情を聞くために足止めをした。


「奴らってさっきの男たちか?塩基国がどんな状況なのかを知りたかったから問いかけたのだがそのまま走り去ってしまってな…」


 その兵士は塩基国で何が起きていたのかを話した。


「奴らは塩基国の宝である水酸化ナトリウムを奪って行ったのだ。そいつらの服装から見て数学の国のドモルガンから来たものだと見ている」


 今まさにその溶液を分けてくれないかと思って塩基国へ向かっていた一行だったがその報告にプロパノールは青ざめていた。


「プロパノールさん、どうしましたか?すごく体調悪いみたいですが…」


 フラーレンが心配そうに声をかけた。そしてドモルガンの正体を話した。


「数学の国ドモルガンはここ最近で力を付けたとても野蛮で素行も悪いの。一度だけマーキュリー王の宝を奪いに来たものもアクリロニトリルがその頭領ログを倒したと本人から聞きました。でもなぜドモルガンが水酸化ナトリウムを…」


 アクリロニトリルも落胆した。あの時そのまま兵をあげて数学の国諸共破壊すればよかった、と。


「そういえばまだ名前を言っていませんでしたな。私は塩基国戦闘隊隊長をしている三大強塩基の1人、バリウムでございます。あと2人はカルシウム、ナトリウムです。まずはアルカリ王に会っていただきましょう。ささ、こちらへ」


 そう言ったものもコバルトがつかさず、


「あの、追わなくて良いのですか?あの人たち」


 気づけばとても遠くの方へと逃げてしまって見失ったようだ。しかし、目星はついているということで3人の強塩基に連れられて塩基国へ入国した。コバルトとフラーレンはワクワクしながら門をくぐった。バリウムが塩基国について歴史を語った。


「この国を統治していたアルカリ王は全ての国に対して敵対心を持っていた。今も住民や古くから支えし家臣はその名残として灯油に入ったナトリウム金属を肌身離さず持っていた。今はアルカリ王23世になってからはまだ幼い為政権を話すのはとてもきついので私達三大強塩基がこの国を支えているのでございます」


 しかし、コバルトは違和感を覚えた。強塩基は、ナトリウム、バリウム、カルシウム、カリウムのはずなのにそのカリウムは一体なぜ王水の都へ行ったのだろう。聞いて良いことなのか分からないものも、もしかしたらカリウムの言ってたフェノールについて何か分かるかもしれないと思って三大強塩基にカリウムの事を聞いた。


「御三方に聞きたいのだが強塩基は4種類あったと思う。そんな中カリウムも入っているはず。僕たちは王水の都でそのカリウムに会いました。しかし、フラーレンに対してひどいことをしました。アクリロニトリルさんのおかげで危機を脱しましたがカリウムの正体は何者ですか?」


 御三方はコバルトとその一行にカリウムが塩基国で何をしていたのか、それが分かる場所へ案内した。案内されたのは一つの小屋だった。中に入ると地下へと続いており、降りて行くと実験室のような空間が広がっていた。


「カリウムの親父はとても優秀な爆弾作りの一任者だった。しかし、カリウムの親父はとある人と手を組んだ。その当時生きていたナトリウムの親父と仲が良かったフェノールさ。フェノールは今も生きている。そのフェノールはカリウムの親父とアルカリ王を暗殺する計画を立てていたらしい。これがその時の資料だ。王室のベッドに毒煙が出る爆弾を仕掛けていた。もちろん、王はガス中毒で亡くなった。被疑者であるフェノールとカリウムの親父はこの国から追い出す決定を下した。その家族も同様にね」


 そう言って当時の写真を数枚見せてくれた。フェノールの家族写真にフラーレンに似ている顔の女の子が写っていた。それもベンゼンの輪っかを持ってニコニコしている写真だった。このカリウムという人間は子孫でフェノールと手を組んでいたという事がここで4人は理解した。御三方はコバルトの証言に疑問を抱いた。


「しかし、カリウムの子孫がフラーレンを襲うとは何を考えているのだろう。今もフェノールと連んでいるのか?」


 考えれば考えるほど分からなくなった。ただ、カリウムが何者なのかということとフェノールの企みが一体何を指しているのかより一層調べる必要があると各自がそう思った。外に出ると辺り一面が夜で煌びやかな星と月が出ていた。


「今夜も遅いのでこの家を使って下さい。元々誰も買い手がいなかったのでそのまま壊そうかなと思いましたがこれからはアクリロニトリルさんのものですので好きに使って下さい」


 4人は御三方にお礼を言って家に入った。コバルトとフラーレンは同じ部屋でアクリロニトリルから貰ったお守りを眺めていた。


「とても綺麗だね。初めて会った時や学校へ行った時ってこんな感じで煌びやかだったのかなぁ…」


 石のお守りに浸るフラーレンはなんだか幸せそうな顔をしながらコバルトと一緒にお茶を飲んでいた。


「なぁフラーレン、もしもこの世界から現実世界へ帰れなくなったらどうする?」


 この世界に入って初めて弱音を吐いたコバルト。フラーレンはあの時の話をしながら答えた。


「コバルト、カリウムから私のこと救ってくれたの覚えてる?あの時私に自分の命を投げ捨てるなって言ってくれたこと本当に嬉しかった。でもコバルトも本当は色々抱えてるんでしょ?何かに対して最後まで責任を持って見てくれてるから。ここまで弱音を吐かずに頑張ったね。今日だけ私の膝元に寝て泣いても良いから目の前で弱音全部吐いて。大丈夫。プロパノールさんとアクリロニトリルさんには言わないから」


 その言葉にコバルトは大泣きした。異世界に来てから初めて泣いた。それに答えるかのようにフラーレンは幼い時に歌ってくれた子守唄をコバルトに聴かせた。

 その声はコバルトの今までの頑張りを全て認めるかのようにあたりを優しく包み込んだ。

プロパノールとアクリロニトリルは御三方からもらった資料を使って数学の国ドモルガンについて調べていた。そして調べるにつれてプロパノールは疲れて寝てしまうものも、アクリロニトリルは徹夜で調べ上げた。

コバルトたちが起きた時はアクリロニトリルはアルカリ王23世へ会いに向かった。


「シャルル国からきたアクリロニトリルだ。塩基国国王アルカリ王23世との面会を求める!城の門を開けよ!」


 大声で叫び、門を守る守護兵は槍を重ねてドーム状の茶色いものを作った。守護兵は塩素と呼ばれており、日光にあたると光触媒により反応して死んでしまうというものだった。


「アクリロニトリルさんですね。どうぞこの門を潜って玉座の間へお越し下さい」


 バルコニーのようなところから声が聞こえた。誰なのか分からないが玉座の間へと足を運んだ。アルカリ王23世と三大強塩基が集っていた。


「この大変な状況に何の御用でこの国へ来た?塩基国の国宝とも呼ばれる水酸化ナトリウムがドモルガンの下衆どもに奪われたばっかりなのだ。初代アルカリ王から受け継いで私が23代目。祭事には欠かせぬもの。ヒドロキシ公爵に作成を依頼しておるものもあの下衆どもを根絶やしにせねばならぬ」


 この王様、短気すぎる。しかしそれを話し合う為にここへ来たアクリロニトリルは動じなかった。


「そちらにおられる御三方とその根絶やしにする方法を話し合う為に来ました。なので、ここからは我々に任せて下さい」


 王様を宥めているときにバルコニーから石灰のように白い肌で白いドレスを身に纏った女性が来た。


「何か騒がしかったのですがどうされましたか?」

「申し訳ございません王妃様。国王様の怒りが聞こえてしまいました。お茶を楽しんでる中すいませんでした」


 御三方は謝った。


「申し遅れました。私はアルカリ王23世王妃のマグネシウムです。マグ姐と呼んでくれると嬉しいです」


 なんてインパクトの強いあだ名だ…。

 家臣がその間に現れ、来客が来たことを国王に報告した。


「この城の門に今度は誰が来た?」

「はい、アクリロニトリルの妻プロパノールとフラーレン、コバルトと名乗っております。名前を言っても分からないので私が見た時の容姿をお伝えします。プロパノールと名乗る者はシルバーミラーリアクションと言って良いほどの銀色のドレスをお召しになっています。フラーレンと名乗る者は異国の服を着ていますがおそらくこの国、いや、この世界で最も美しい方です。コバルトと名乗る者は同じ異国の服を着ていますがヒョロヒョロとしていて今にも倒れそうな男の方です」


 三大強塩基とアクリロニトリルはコバルトの容姿に爆笑した。特にアクリロニトリルはコバルトについて笑いながら説明した。


「コバルト君はフラーレンと幼馴染でございまして、先日結婚をしたカップルです。とても頼りにならない部分はあると思いますが策士としては賢明堅実な判断をされる。見た目に惑わされてはいけません国王陛下」


 入城の許可を得た3人はアルカリ王23世のいる玉座の間へ進んだ。


「なんかすごく僕のこと小馬鹿にされた気がするけど気のせいかな…?フラーレン」

「まぁ、言いたい事はすごく伝わるけど昔から体弱かったし私たちクラス女子の間ではマスターオブガリって言われてたよ。この世界でもそう言われるなんてなんか面白い」


 玉座の間には大きく長い机に椅子が並べていてアクリロニトリル、三大強塩基、マグネシウム王妃、アルカリ王23世とその兵士が集っていた。フラーレンの世界で言えば職員会議と言ったところだろうか。


「よく来たよく来た。先に朝早く行ってしまってすまない。早く終わらせて伝えるつもりだったがまさか君たちから来るとは思ってもいなかった。3人ともアルカリ王23世に挨拶しなさい」


 3人は自己紹介をした。しかしコバルトの時になるとその見た目からかクスクスと笑い声が聞こえた。自己紹介が終わると1人の小さな男の子が近寄って来た。


「プロパノールさん、フラーレンさん、コバルトさん、ようこそ塩基国へ。まもなくティータイムなので皆さん休憩しましょう。僕の方で案内します」


 そう言うとバルコニーへと案内された。とても美味しそうなお菓子とお茶が用意されていた。


「本日のお菓子とお茶はふくらし粉で作り上げたマカロン3種類と紅茶のアールグレイです。とてもお疲れのようなのでこれを食べてリラックスしましょう」


 その男の子はとても可愛らしく、説明したあと短い足を素早く走って行く様子に微笑ましいものがあった。


「コバルト…どうしたの?そんな深刻な顔しちゃって…。そんな顔するとかっこいい顔が台無しだよ」

「あーすまない…さっきの男の子どこかで見たようた気がしてね…。誰かに似てたような気が…でも人違いかな。でもあの男の子可愛くて僕は笑われるって最悪だよ」


 お茶を楽しんでいた皆が吹き出して笑った。


「それは失敬。伝令の説明が悪かった。あとできつく言っておこう。人を見た目で説明しないようにと」

「この国ではティータイムは絶対あるのですか?先程の小さな男の子が本日のお菓子とお茶って言ってたから…」


 その男の子の話をしようとした時、アールグレイの入った容器を手に持ってきた。その匂いはどんな人をもリラックスさせておきながらも集中力を途切らせないお茶でもある。


「さて、ゆっくり飲みながら話をしよう。アクリロニトリルとその一行はこの国へ何のために来た?」

「このフラーレンとコバルトですが、どうやら住んでいる世界が違うようでして、その証拠に服装が違いますし…。そして元の世界へ戻る方法をシャルル国のとある老人から書物をもらったと聞いています」


 コバルトは大きなリュックから書物と伯爵からもらった器具、溶液を出した。


「ここへ来たのはこの国にて取れると言われる水酸化ナトリウムを頂きたいと思い、来ました」


 事情を聞いた国王はアールグレイを一口飲んで一息ついた後に、


「条件付きにはなるが、どうだろうか?」


 快く承諾を得た。フラーレンと共に喜んだものも条件を聞いた。


「条件はこの国の兵を使ってでも構わん、ドモルガンの盗人をひっ捕らえよ!さすればアクリロニトリルとプロパノールには相応の金貨を、フラーレンとコバルトには水酸化ナトリウムをくれよう」


 なんて嫌な依頼だと思ったが元の世界へ帰るためだから何事も変え難い。話し合いが済んでアクリロニトリルは御三方との作戦会議を、残りの3人は塩基国を歩き回ってみた。


「この街、王水の都よりも普通だね。でも、普通だからこその良さがあるからとても良い。お茶のお店いっぱいだし。うま味調味料の専門店まであるよ」


 この国はお茶と調味料で栄えた国の証でもあり、料理もまたナトリアンと言われるランクが存在してそれを持つ料理人こそ塩基国にて出される店は安泰だと言われている。3人がゆっくり歩いてお店を散策してるうちに突然大きな鐘の音が響き渡った。


「ドモルガンの連中が盗みに来たぞー‼︎今すぐ店を閉じろ‼︎」

「こいつらが数学の国ドモルガン…」


 服装がフラーレンを人質に取った時のカリウムにそっくりであったことに気づき、コバルトが攻撃を仕掛けようとした時、1人のお店にいた女性の方から強引に店の中へと連れて固くドアを閉めた。


「3人とも大丈夫かい?今はじっとしとくのが良い。奴らの目当ては水酸化ナトリウムだけどそれも盗まれて、この国の調味料を盗みに来たのさ。相手にしても集団戦が得意としているから歯が立たない」


 目の前を過ぎる足音が3人の心拍数のようにコツコツと聞こえる。足音が過ぎて出て行った時は一つの店が被害に遭った。この間、アクリロニトリルは動かぬ証拠を見つけた。それは、ドモルガンが使う抜け道を城の奥底に蓋のようなU字をした所から出入りしていたのだった。


「御三方、ドモルガンが秘密に使用していた穴を見つけました。そこに兵をあげて待ち伏せしましょう。捕らえてなぜこの国へと足を運ぶのかを尋問する準備をして聞き出す作戦をここに提案します」


 バレぬようにそぉっと3人が忍んで入ってきたところを三大強塩基が潮解性を持つナトリウムを足元へぶち投げた。そこにアクリロニトリルお手製の麻酔を塗った布を顔に覆わせて眠らせた。


「良いコンビネーションでしたな!さぁ城の中へ連れて尋問しましょうぞ」


 その前にと言わんばかりにアクリロニトリルは青い小鳥に手紙を持たせてそのまま飛ばした。


「すまない。ドモルガンの国の人間3人を捕まえたから城へ戻るようにと送ったのだ。コバルト君には特に知らせておかないといけない。彼の祖父はベクトルでドモルガンの国を知っていたと本人が話していたからついでに教えておこうと思ってね」


 社会科見学ではないのにと思う部分があった御三方だったが、重要な手がかりを知れる事に変わりはないからドモルガン出身の3人をアルカリ王の元へ引き連れてきた。その後プロパノール達が城へ戻った。


「これが、ドモルガンの人…。よく見るとこの人たち+、−、×、÷が印刷されたものを着ているね。なんかパジャマみたい」


 フラーレンの一言にドモルガン3人組は殴りにかかったものも御三方が付けた仕掛けで電撃が走った。


「ふう、仕掛けといて良かった。さすがファラデー流拘束術だ。フラーレンさん、刺激を与えるような言動は控えて頂きたい。彼らはあくまでも塩基国の宝、水酸化ナトリウムを盗んだのでありますから。ただ、その一言については少し同感しました」


 失神した3人組は目を覚まして尋問を始めた。アクリロニトリルが質問して暴れ出すのを止めるのが御三方という流れだ。


「まず、君たちの名前を聞こう。そしてなぜ水酸化ナトリウムを盗んだのかも耳を揃えて話してもらおうか」


 3人のうちの1人が不敵な笑みを浮かべた。アルカリ王が被っている王冠に視線を送り、直線のようなものが走った。頭を貫いたように見えたが間一髪危機を逃れた。


「アルカリ王になんてことを!」


 バリウムが電撃を流した。失神させては起こしての繰り返しでやっと名を名乗った。


「僕は、ドモルガン国国王補佐官のエックス。水酸化ナトリウムを使って戦争を起こすために盗んだ。我が国王フォーミュラー王の将来のために!」

そしてその2人もやっと口を開いた。

「同じくドモルガン国大臣ワイ」

「ドモルガン国大臣補佐ゼット」


 連立方程式でも作るつもりなのか?とコバルトとフラーレンは思ったがすぐに察した。数学の世界ではx軸、y軸、z軸がありそれらのある場合立体型の座標を作り上げることが出来る。そのように2人が手を使って話した矢先に


「お前ら何がしたいんだ?三角形のようなものを作っておるが一体何だ?」


 エックス、ワイ、ゼットが目力を使って三角の形をしたものを見せた。ワイの口から粉のようなものを吹き、ゼットの口から火が噴いた。


「危ない!半透膜を張れ!粉塵爆発を防げ!」


 ナトリウム、バリウム、カルシウムは槍を投げて大きな膜を作り上げてエックス、ワイ、ゼットの頭部から膜を設置した。そのおかげで玉座の間にいる者は傷一つ付けることなくエックス、ワイ、ゼットの自爆に終わった。


「半透膜ってこんなに強度あったかな?コバルトはどう思う?」


 コバルトに問いかけたフラーレンだったがコバルトの目に写ってたのはボロボロになったドモルガンの国の服だった。

 その夜、アクリロニトリルとその一行は泊まってる家へと向かって休んでいた。そんな中ドアのノック音が聞こえた。フラーレンが開けるとそこには紅茶を勧めてくれた小さな男の子がいた。その男の子の手にはアルカリ王の手紙と淹れたばっかりのアールグレイが持たされていた。


「王様より手紙とアールグレイをお持ちしました。今夜はゆっくり休んで欲しいとの事です。また何かあったら僕に言って下さい!」


 さっきの事態が無かったかのような元気さだった。フラーレンはその元気に笑顔で答えたが受け取った後に疑問を投げた。


「君はなんで幼いのに王様のもとで働いているの?そして名前は何かな…?一応アクリロニトリルさんとプロパノールさん、コバルトがいるから伝えたいの…」


 その少女の質問に対して男の子は答えた。


「僕はアルカリ王とマグネシウム王妃の間に生まれました、ジュラルミンと言います。名前の由来は分かりませんがアルミニウム皇太子のように強くどこにいてもすぐに駆けつけれるようなそんな人になりなさいと言われましたのでそれがきっかけだと思っています」


 しっかりしすぎていてフラーレンは硬直した。笑顔で答えた後、3人に小さな男の子の正体と王様からの手紙、そしてアールグレイをカップにいれてそれぞれ楽しんだ。


「手紙の内容なんだろう?」


 手紙の内容を見るべく封を解いた。


"アクリロニトリルとその一行へ"


爆発の件についても疲れたでしょう。あの後ドモルガン3人組の遺体を処理した際、水酸化ナトリウムをドモルガンの王フォーミュラーの城の地下に隠してあることが分かった。ちょっとしたパズルのようなものを持っており、それが合言葉になるようだ。アルミニウム皇太子を交えて明日、ドモルガン国へ入国しスパイ活動を行いながら水酸化ナトリウムを取り返す。勿論、ワシの側近が水酸化ナトリウムを作ってくれたようだからそれを褒美として与える。作戦の詳細は明日話そう。ただし、このスパイ作戦はコバルトとフラーレンにはすまないが塩基国で待ってもらう事とする。理由はそれも同日話す。城にて待つ。 アルカリ王23世


 コバルトとフラーレンは何か気に食わない部分があったものも言う通りにしようとアイコンタクトを取った。

 夜明けと共にアクリロニトリルは城へ向かった。プロパノールは3人分の食事を作るために食材を購入しに行った。コバルトとフラーレンは今持っている荷物を整理しては実験器具を掃除して綺麗にしていた。

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