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弥勒の剣(つるぎ)  作者: 真桑瓜
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博多へ

博多へ


朝早く、鈴と薫は堀に掛かった橋の袂まで弁千代を見送った。

「ベンさん、気をつけてね」

「首尾よく目的を果たせたならすぐに戻ります」

「薫、トトに手を振って」

薫の手を取って鈴が振って見せた。

鈴と薫に手を振って弁千代は博多へ向けて出立した。

ただ、目付きの鋭い商人風の男が、足早に鈴の横を通り過ぎたのを意識することはなかった。


*******


弁千代は大川、神崎を経て山越えで福岡藩領に入る道を取った。十五里半、急げば二日で城下に着く。

『今日は千石山辺りで野宿だな』

弁千代は神崎で身拵えを整え、山道に足を踏み入れた。

暫く行くと、後ろから旅人が歩いて来るのが見えた。かなり距離を取ってはいるが、付かず離れず弁千代に着いて来る。

『尾行がついたか・・・』

弁千代が足を止めると、旅人も足を止める。引き返して追っても逃げられれば追いつける距離ではない、顔もまだはっきりとは見えない。

『仕方がない、このまま行こう。追手も気付かれている事は分かっているようだ、無闇に襲っては来るまい』

そう思い定めて、弁千代は道を急いだ。

予想通り千石山付近で陽が落ちた。提灯を灯せば良い標的になる。仕方なく植林された杉の林に分け入って太い木の影に腰を下ろす。

『今夜は寝ずの番だな・・・』

弁千代は、振分荷物から雨合羽を取り出してまとい、刀を抱いて杉の木に背を持たせかけた。


*******


「誰だ!」

もう子の刻(午前〇時)は過ぎている。弁千代は人の気配に目を開き誰何すいかした。

「旦那・・・中武弁千代様でございますね?」

「そう言うお主はどこの誰だ?」

そっと首を振って声の主を探す。

「あっしを探しても無駄でござんす、あなた様に斬られるほど近くにはおりませんので」

「忍びか?」

「まぁ、そう言う事にしておきましょう」

「私に何用だ?」

「一つご忠告して差し上げようと思いまして」

「忠告?」

「立花壱岐様の為のお役目なら、およしになった方が身の為でござんすよ」

「ほう、それは聞き捨てならぬな。何故だ」

「相手が悪うござんす、下手に手を出せばきっと後悔する事になる」

「脅しか?」

「そう取っていただいても良ぉござんすよ」

「脅されて引いては武士の面目にかかわる」

「では、諦めてはくださらぬと?」

「くどいな」

「やはり、そう仰ると思っておりやした。では、ご忠告させていただきやしたぜ、せいぜいお気をつけなさいまし」

ふっと人の気配が消えた。

「恐ろしい奴・・・」

弁千代は大木に頭を着けて目を瞑った。


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