吉右衛門の焦り
吉右衛門の焦り
「どうでぇ、弁千代。藩士たちの教育は進んでいるかえ?」城の書院に弁千代を呼んで、吉右衛門が問うた。
「半々というところです」
「何がだ?」
「死を恐れぬのが武士だと思っている者達が半数はいます」
「だろうな、今までそう教わって来たからな。人の考えはそう簡単に変わるもんじゃねぇ」
「理解はしていても、私のやり方は迂遠なのだと言われます」
「ああ、手っ取り早く強い兵を作るにゃあ、真っ向斬りと袈裟斬りと、突きを徹底的に仕込んで、がむしゃらに突進する訓練をするのが一番だからな」
「皆、そう思っているようです」
「しかしこれからは鉄砲大砲の時代ぇよ、そんなことをしていたら落とさなくていい命も落としてしまわぁ」
「しかし、やはり武術は万人向けではありません」
「そこを何とかしてもらいてぇんじゃねぇか、敵味方、どちらの兵が死んでもその戦は負けだ。無敵たぁ敵が無ぇという事よ。血を流さず、双方が立ち行くようにすることが武士の仕事よ」
「はい、私の力の及ぶ限り・・・」
「今、この藩にはお前ぇに敵う侍はいねぇ。そこを上手く利用するんだ。嫌だろうがこれも方便だ、坊主だってあの世と地獄を上手く使ってらぁ」
「あははは、坊さんと一緒にされちゃ適いませんね」
「頼んだぞ、俺たちが思っている程、時間はねぇんだ」
「御意!」




