破寺
破寺
山賊は二人だけではない、必ず仲間が居る。いずれ追ってくるだろう。
二人の亡骸をそのままにして弁千代は先を急いだ。
手に、人を斬った感触が残っている。
道に被さるようにして突き出した大岩の下を潜った。
目の前に山門が見えた。禅宗の三解脱門だ。
「この廃寺は禅宗のものだったのか・・・」
弁千代は少し迷ってから石段を登った。ここが山賊の棲家なら先手を打った方が良い。
朽ちかけた山門を潜る。
人の気配は無い、どうやら山賊の棲家では無さそうだ。
確かにここは目立ち過ぎる、役人に調べられればおしまいだ。
正面に本堂が見える、その右が庫裡、左が禅堂だ。
本堂の後ろには方丈が有るはずだが、此処からは見えない。
暗い本堂に入った、空気がひんやりしている。本尊仏は無かった。
ギクリとした、本尊仏があるべき所に・・・人が居た。
ようやく目が慣れてきてそれが分かったのだ。
墨染の衣を着た僧が、こちらに背中を向けて座っている。
結跏趺坐、目は・・・瞑ってはいないはずだ。
「血の匂いがする・・・」
「・・・」
「お主、人を斬って来たな」
「・・・」
「不殺生戒・・・生命を殺めた者は地獄に堕ちる!」
「私は武士です・・・命を奪うのも奪われるのも武士の宿命」
「喝!」
「ヒッ!」
「のぼせるな、坊主!」
「・・・」
「おっと、坊主は儂だった」
墨染の僧は、ゆっくりとこちらに向き直り顔を見せた。
僧は、意外にも若かった。きっと弁千代の兄より幾つか年嵩なだけだろう。
「貴方は・・・昨日の朝、同じ船に乗っておられた御坊様」
「拙僧の名は胤舜、旅の雲水だよ」
「私は・・・」
「中武弁千代殿・・そうでしたな?」
「はい・・・」
「船の中で加藤という侍に名乗っておられた」
「ああ、それで・・・」
「儂はこの寺を再興するために此処に来た」胤舜は言った。
「再興?」
「そうじゃ、寄進を募って建て直すのよ」
「どなたかのご命令で?」
「儂は人の命では動かん、儂が勝手に動いておる。本山も儂がする事なら仕方がないと諦めておる」
「しかし・・・」ただの雲水にそんな事できる筈がない。
「そんなことよりお主、儂を手伝わんか?」
「手伝う?」
「山賊を退治するのだ。奴らが居てはこの寺の再興も覚束ん」
「しかし、先程不殺生戒を破った者は地獄へ堕ちると・・・」
「わははははは、地獄に堕ちる覚悟なら、とうに出来ておるわい」
「・・・」
「この寺の再興は儂の道楽だ。どうせ人生などに意味は無い、ならばやりたいことをやれば良い」
この僧は破壊僧だ。弁千代はそう思った。しかしどこか惹かれるものがある。
「どうだ?」
「分かりました、やりましょう」
そういう事になった。




