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弥勒の剣(つるぎ)  作者: 真桑瓜
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薩軍抜刀隊

薩軍抜刀隊


その日、官軍主力は二俣口より前進、薩軍左翼が守る二俣口前面の高地に向けて進撃した。


「報告!政府軍の兵五百が田原神社付近の防塁ば破って接近中しちょりもす!」

伝令が息を切らして飛び込んできた。

「なにっ!直ぐに銃撃隊ば配置し、敵の進撃を食い止めい!」

その時、腹に響く轟音が轟いた。

「もう大砲ば撃って来たか!」

直ぐに伝令の第二報がもたらされる。

「敵は二俣口に山砲数門ば据え谷越しに砲撃、前進する敵兵を支援しちょる模様!」

「くそっ!」

薩軍四番隊隊長、桐野利秋は歯噛みした。昨日の戦闘で砲弾は全て撃ち尽くしたのである。

「砲弾はまだ届かぬのか!」

「まだです!」

「よし、残った銃弾を撃って撃って撃ちまくれ!何とか夜まで凌ぐのだ!」

「しかし銃弾ば撃ち尽くしてしもうちゃ、予備の銃弾が無くなりもす」

「馬鹿者!予備の銃弾はいざという時に使うもんじゃ!今がそん時やと思わんのか!」

「はっ!そうでごわした!」

「暗くなるまで辛抱すれば、こっちにも勝ち目はある!」

「隊長、そん勝ち目とはなんでごわっそ?」

「ふん、敵は平民の徴兵ぞ、武士の戦い方を見せてやるだけじゃ」

桐野はそう嘯くとニヤリと笑った。

「何が何でも夜まで持ち堪えるぞ!」


*******


昼過ぎから降り始めた雨が降り止まずに、奪った防塁を濡らしている。

死力を尽くして戦ったが薩軍の本陣を抜けなかった。

銃声も止んで、疲れ果てた官軍の兵士達は土嚢を枕に泥のように眠っていた。


「敵が来たぞ!」

歩哨の兵が叫んだ時には既に遅く、敵の白刃は目の前に迫っていた。

逃げる間も無く真っ向から斬り下げられた。

平民ばかりの官軍兵には、闇を切り裂いて迫ってくる薩摩の士族兵が悪鬼に見えたに違いない。

蜘蛛の子を散らす様に逃げ惑う。

銃剣で応戦し、銃身ごと額を断ち割られた兵もいる。

右側面の丘からも敵が雪崩れ込んできた。

「引け!本陣まで退却!」

官軍の指揮官が叫ぶが喊声に掻き消されて聞こえない。

漸く喇叭らっぱが鳴って兵が引き始めたが、薩軍抜刀隊の剣は容赦無く官兵の背中を斬りつけた。

「チェスト行けー!示現流の恐ろしさば見せちやれ!」

桐野、否、昔人斬り半次郎と異名を取った中村半次郎は奇声を発しながら斬りまくった。

暫くすると漸く官軍兵の数が減ってきた。

官兵が二俣口まで退却したのを見届けて、守備隊を残し桐野は自軍本営に戻った。

「隊長!輜重しちょう隊が来ます!」

部下の一人が叫んだ。

「ふん、間に合うたようじゃな・・・」


闇は薄くなり雨も止んでいた。


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