湯浅vs.関
湯浅vs.関
「こりゃまた細っこいのが出てきたな」五郎が言った。
「しかし勘は良い」
「体格はうちの関の方が上だな」
「剣術は体格だけでは無いのはお主も知っているだろう?」
「そりゃある程度腕が上がってからだ。最初のうちは体格が物を言う」
「まぁ、見ているが良い」
「お手並み拝見といこうじゃねぇか」
「次鋒は前へ!」吉永が東西に控えている剣士に顔を振り向けた。
湯浅と関は、はっ!と返事をして立ち上がると開始線まで進み出た。
ゆっくりと竹刀を構えながら蹲踞の姿勢を取る。
「剣術で試合うように・・・」吉永が言った。
暗に見苦しい取っ組み合いはするなと言っている。
「ちえっ、最近の剣術が大人しくなるはずだぜ」五郎が舌打ちをした。
「西洋式のスポーツマン精神という奴か」
「命のやり取りに決まりなんかねぇだろ」
「これも近代化と言うのだろうな」
「いけ好かねぇ、俺たちゃさっさと引退しちまおうぜ」
「まだ、最後の御奉公が残っている」
「分かってるよ・・・」
「勝負三本・・・始め!」
試合が始まると直ぐに、関が気声を発して湯浅を牽制した。
湯浅も声を上げてそれに応じる。
二つの剣尖が触れ合ってカチャカチャと音を立てた。
関が上から剣尖を押さえると、湯浅も持ち上げて来る。
湯浅が関の竹刀を下から刎ね上げると、関は上から叩き落とす。
互いに相手の出方を窺っていた。
ふと、関の手元が上がった。
湯浅が迷わず踏み込み、空いた右籠手に竹刀を叩き込んだ。
「籠手あり!」吉永が宣した。
出籠手が決まった。
「ほう、思い切りのいい奴だな」
「以前は迷い剣だったのだ、徹底的に打ちのめした」
「手荒な奴だ」
「お主に言われたくは無い」
「ふん・・・」
関は不用意に手元を上げたことを悔いた。
『しかし、迷い無く打って来るやつだな・・・ならば』
「二本目始め!」
関が床を蹴った、竹刀の切っ先が真っ直ぐに湯浅の喉元に向かう。
湯浅は迷わず突き返して来た。
「もらった!」
関は右に躰を倒し竹刀を寝かせる。
乾いた音が場内に響き渡る。
「胴あり一本!」吉永の右手が上がった。
「抜き胴か・・・見事だ」弁千代が言った。
「どうでぇ、これで勝負は振り出しだな」
「なぁに、これからさ・・・」
湯浅は関の胴打ちが効いたのか、面を押さえて咳き込んでいた。
「大丈夫か?」吉永が訊いて来た。
「大丈夫です・・・」
湯浅は大きく息を吸い込むと開始線に戻った。
『まだ反射神経に頼っているな。反射を抑える反射神経が必要だと無門部長は言っていた・・・』
湯浅は正眼に構えると関を見据えた。
「三本目・・・始め!」
関が間断無く打ち込んで来る。こちらに反応の隙を与えないつもりだろうか?。
『しかし無門部長に比べたら、打ち込みが甘い。その分動きが良く見える』
湯浅は関の攻撃を捌きながら、冷静に技を見極めた。
『見せ技や誘い技が多いな、こちらが反応したら返し技を使うつもりだ。よし、本気で打ち込んで来るのを待ってやろう』
そう決めると、湯浅は目を半眼に閉じた。
関は焦っていた、いくら打ってものらりくらりと躱される。
一向に誘いにも乗ってこない。
そろそろ体力も尽きてきた。この辺で決めないと時間切れだ。
『刺し面で誘って、胴を抜く。ギリギリまで面の軌道を変えなければ必ず乗ってくる』
決めた途端に床を蹴った。
剣尖が湯浅の面に近づいた。湯浅の手元がそれにつれて上がって来る。
『掛かった!』
剣を寝かせて軌道を変えた・・・
関の剣尖が迫って来た。反応しそうになる躰を漸く抑え込む。
あとは胴を空けてやればそこを狙って来るだろう。
誘いに乗ったように手元を上げた。
関の躰が傾ぐ。
翻った関の竹刀を上から叩き落とした。
一瞬、関の顔が上がってこちらを向いた。
その頭に向かって竹刀を打ち下ろす。
心地よい衝撃が両の腕に伝わった。
「面あり、勝負あった!」
審判の吉永の声が聞こえた。
「関の馬鹿が、墓穴を掘りやがった」
「いや、良くやったさ」
「余裕だな」
「これで対だ」
「次は中堅の綿貫か」
「西郷に従わなかった二人のうちの一人だな」
「奴は薩摩のくせにタイ捨流だ」
「そうか、楽しみだな」
「俺もだ」
試合は中盤戦に入った。




