表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弥勒の剣(つるぎ)  作者: 真桑瓜
250/277

沙希誘拐

沙希誘拐


あれから一ヶ月、三潴県警は筑後一帯の大捜索を行ったが、逃げた幹部連の行方はようとして知れなかった。

「無門巡査部長・・・」班長の亀井が弁千代に報告に来た。

「どうした、何か分かったか?」

「はっ、三日ほど前に朝倉航平らしき人物を見かけたと言う情報が入りました」

「どの辺りだ?」

「大木町の十件長屋の近くです」

「柳河が近いな?」

「はい、昔の藩境になります」

「あの辺りは寺や神社が多い、潜むには好都合の場所だ」

「では、寺社を中心に捜索を強化します」

「頼む」

「しかし、奴らどこまで手を広げているのでしょう?」

「この前捕縛した者を尋問した連中の話では、福岡、熊本、大分・・・宮崎の飫肥おび辺りも怪しいという事だ」

「ほぼ九州全域という事ですね?」

「それらの不平士族達が薩摩の西郷に呼応して決起したら、手に負えない事になる」

「反乱は起きるでしょうか?」

「案外近いかも知れぬな」

「それまでに少しでも奴らの力を削いでおかなければ・・・」

「そうだ、探索の手を緩めるな」

「はっ!」


亀井は姿勢を正し敬礼をして出て行った。


*****


「では、素振りはこれくらいにして“形“の一本目に入りましょうか」

「ああ良かった、素振りは卒業なのね」

「まだです、全然完成していません」

「でも、出来たから次に行くんでしょう?」

「最初に言いましたが素振りも“形“なのです。“形“は相乗効果でその質が上がって行きます。一つの“形”が六割ほど出来たら、上位の“形“に移った方が、一つの“形”が完成するまで待つより効果的なのです。“形“とはそう言う段階を経て我々を極意の世界まで導いてくれるものです」

「ふ〜ん、昔の人は案外合理的だったのね」

「その様な稽古法を捨ててしまうのは、もったいないとは思いませんか?」

「そうね、ちょっとだけそう思えるようになって来たかな?」

「良かった・・・では一本目に入ります・・・このように構えてください」

「あっ、それ私と太刀合った時の構えね」

「そうですが・・・」

「なんて言う構え?」

「言っておきますが構えに決まった形はないのです」

「嘘、剣術には五行の構えってあるじゃない、今じゃあんまりお目にかからない構えもあるけど」

「それは便宜的に決められた構えです。そもそも剣術では斬り終えた姿勢がそのまま構えでなければなりません」

「え〜、そうなの?」

「ですから斬り終えた姿勢から次の斬撃が出せなければ意味が無いのです。一度剣を戻したり振り上げたりしてから次の斬撃に移るなど愚の骨頂」

「酷い、私ずっとそうやって来たのに!」

「今までやった事は綺麗さっぱり忘れて下さい。それが出来なければもうお教えすることは出来ません」

「分かったわよ、忘れれば良いんでしょ、忘れれば!」

「そう言う事です」


*******


「もう、頭にきちゃう!『一度振り上げてから斬るなんて愚の骨頂です』・・・だって!」

「そんなこと一朝一夕にできるわけないじゃない!」

沙希は木剣をはかまの紐に差して、ブツブツと独り言を呟きながら家まで帰ってきた。

家の方に曲がる路地の入り口に、人影が見えた。

「沙希殿!」人影が沙希を認めて駆け寄って来た。

「朝倉のおじさん、慌ててどうしたの!」

「大変だ!親父さんが暴漢に襲われて大怪我をした!」

「ええっ!誰に!」

「分からない、警察の奴らかも知れない」

「父がそんな簡単にやられる筈がない」

「なんでも恐ろしく強い手練れがいたとか・・・」

「手練れ?」沙希の頭に無門巡査部長の顔が浮かんだ。

「とにかく、一緒に来てくれないか?」

「分かりました!」

沙希は袴の股立ちを取って、駆けて行く朝倉の後を必死で追いかけた。


*******


「沙希ちゃんはどう?」味噌汁の腕を啜りながら鈴が訊いた。

「まだ疑いが消えません。半信半疑でやってるから、どうしても今までの癖が出てしまう」

「素直な良い娘なのにね」

「見かけによらず頑固です」

「でも、靜馬君、辛抱強く教えているじゃない?」

「それは・・・沙希さんの中に光るものがあるからです。他に他意はありません」

「そう、でもあなたの稽古にはならないわね」

「そうでもありません、教えていると何かしら気付く事もありますから。でも今度先生が非番で帰って来たら一日中お相手して頂きたいと思います」

「きっとベンさんもそのつもりで帰って来るわ」


食事を終えて箱膳を台所へ運んでいると、玄関から訪を告げる声がした。

「頼もう、こちらは無門弁千代殿のご自宅か?」

「は〜い、ただいま参ります」

鈴が玄関に出てみると、固太りの男が立っていた。

「どちら様ですか?」上がり框に膝をついて鈴が訊ねた。

「私はこちらの道場でお世話になっております、廣岡沙希の父親です」

「まあ、沙希さんのお父様・・・失礼いたしました。むさ苦しい所ですが、どうぞお上がりください」

「いえ、ちょっとお尋ねに参っただけですから」

「何でございしょう?」

「沙希は今日稽古に来ましたでしょうか?」

「ええ、来られましたよ」

「いつ頃帰りましたか?」

「稽古が済んで畑仕事を手伝って貰いましたから・・・そうですねぇ、夕七つ過ぎにはここを出たと思いますが?それが、どうかしましたか?」

「まだ戻って来ておらんのです」

「ええっ!」

「心当たりを方々探しましたが何処にも居なくて・・・それで思い立って此方をお尋ねしたと言う訳です」

「そうですか、ちょっと待ってください」鈴は奥に向かって声を掛けた。「靜馬君、沙希さん何か言ってなかった?何処かに寄るとか・・・」

靜馬が奥から現れて鈴の横に跪いた。

「佐伯靜馬です」軍蔵に向かって頭を下げた。

「お主か・・・沙希から噂は聞いておる。若いが腕が立つと」

軍蔵が靜馬を睨んだ。

「いえ、まだ未熟者です・・・それより沙希さんが戻っておられないとか?」

「お主には関係無い」

「行き違いになったのではありませんか?」

「ここにおらんのなら別を当たるまでだ・・・失礼した」

鈴に頭を下げて軍蔵が出て行こうとした。

「ちょっとお待ち下さい!」鈴が呼び止めた。「靜馬君、あなた一緒に着いて行きなさい。何か分かったらすぐに知らせて」

「分かりました」

「それには及ばぬ!」軍蔵が声を荒げた。

「いえ、沙希さんに、もしもの事があったら私の責任ですから」靜馬が言った。

「沙希の親は俺だ、お主に責任などと言われる筋合いは無いわ!」

剣もほろろの言い状である。男親としてはわからぬでもないが・・・。

「お待ちください。沙希さんがもし危険な目に遭っているとしたら、一人でも多い方が良いのではありませぬか?」鈴が軍蔵を諌める。

「いや、俺一人で十分だ」

「何を言っておられるのです、沙希さんは女の子なのですよ?何かあってからでは遅いのです!幸い、私の夫が県警に奉職しております。近所の人に使いを頼んで知らせておきますから、貴方は一度家にお帰りになって、沙希さんが帰っているかどうかお確かめになったら如何いかがです?」

「あんたの旦那が巡査部長だと言うことは知ってる。だが俺は人の指図を受けるのが大嫌いなんだ!」

軍蔵が撥ねつけると、鈴の顔色が変わった。

「あんたの娘の事なんだ!最善のことをしておかなけりゃ後で後悔しても知らないよ!」

昔の素性が知れる蓮っ葉な江戸弁でまくし立てたものだから、軍蔵だけでなく靜馬までもが目を丸くして鈴を見た。

「分かったら、さっさと靜馬君を連れてお行き!」


二人は叩き出される様にして玄関から飛び出した。

「おっかねぇ嫁さんだ、無門巡査部長はさぞ尻に敷かれてるだろう?」軍蔵が気の毒そうに靜馬に訊いた。

「私もさっきのような奥様は初めてです・・・」

「ははは、愛妻家の巡査部長に敬意を表して、お主に手伝ってもらう事にするか」

「はい、お手伝いします」

「では着いて参れ!」


軍蔵は下駄を脱いで手に持つと、裸足で駆け出した。


*******


家の中に明かりは灯っていなかった。

「まだ帰っていない・・・」

玄関の前に立つと軍蔵が呟いた。

「お父さん、戸に何か挟まっています!」靜馬が言った。

「馬鹿!俺はお前の親父じゃねぇ!」

「そんな事より早く見てみて下さい!」

「お、応・・・」

軍蔵が手に取ると折り畳んだ手紙だった。

開くのももどかしく読んでみると、大変な事が書いてあった。

「こ、これは・・・」

「どうしたんです、なんて書いてあるのですか!」

「沙希が・・・さらわれた・・・」

「なんですって!」

「返して欲しかったら羽犬塚はいぬづかの天元寺に来いと書いてある」

「天元寺・・・それほど遠くは無い、急ぎましょう!」

「いや、相手は分かっている。今は沙希に危険は無い」

「どうして分かるのですか?」

「俺はある仲間から抜けようとしている。だが、奴らは俺を失いたくないのだ、沙希を傷付けたら俺が協力しないことを知っている」

「だったら、尚の事早く行って沙希さんを安心させてやらなくちゃ」

「そうだな・・・」

「何を躊躇ちゅうちょしているのです?」

「沙希の居場所が分かった以上、お前は帰れ・・・」

「何故です?」

「お前が奴らの顔を知れば、奴らはお前を放っちゃおくまい」

「貴方はどうするのですか?」

「俺は・・・やはりあいつらの仲間から抜ける」

「では、沙希さんは!」

「俺が助け出す!」

「貴方一人では心許ない!」

「娘を助けるのに人の力は借りん!」

「馬鹿な!貴方はそれで良いかも知れませんが、沙希さんはどうなるのです!」

「沙希も武士の娘なら分かってくれるさ」

「子供は親の持ち物では無い!貴方の意地のせいで沙希さんが不幸になるなんて・・・私は許せない!」

「お前・・・」

「どうしても一人で行くと言うのなら、ここで私を斬ってからお行きなさい!」

靜馬が軍蔵の前に立ち塞がった。

「何故そこまで沙希の事を気にするのだ?」

「沙希さんは私の初めての弟子だからです!」

軍蔵をめつけてキッパリと言い放った。

「・・・なら着いて来るがいい。だが命の補償はせん」

「もとより覚悟の上」


軍蔵と靜馬は、暗い夜道を天元寺に向けて走り出した。


*******


「沙希殿、悪く思わんでくれ・・・」朝倉が沙希に詫びた。

沙希は寺の本堂の太い柱に縛り付けられていた。

須弥壇しゅみだんの燈明と燭台しょくだいの明かりだけではよく見えないが、周りには十数人の男達が刀や銃を持ってたむろしているようだ。

「朝倉のおじさん、なぜこんな事を?」

「あの日・・・貴女の父上は我々の仲間を抜けると言った。だが、今軍蔵を手放す訳には行かぬのだ。軍蔵ほど軍事に長け腕の立つ者はいない、我々の目的を果たすにはどうしても軍蔵の力が入り用なのだ」

「でも父は、一度言い出したら絶対に引かないわよ」

「だからこうして貴方を人質にした」

「甘いわね、おじさん父の事を何も分かってない」

「分かっているさ、軍蔵は我が子の為なら何でもする。目的を果たすまで貴女を預かっておきさえすれば良いのだ」

「父は気が短いのよ、それまで我慢できるかどうか・・・」

「我慢させるさ・・・貴女の為に」

「朝倉さん、誰かが石段を登って来ます」

見張と思しき男が報告に来た。

「一人か?」

「いえ、二人です」

「二人?」朝倉の言葉尻が上がった。

沙希も身動きが取れぬまま首を捻る。

「誰だろう・・・」

小さく呟いていた。


*******


「報告します、羽犬塚の天元寺に士族が集まっていると言う知らせがありました」

「誰からだ?」

「寺社を探索していた密偵からです」

「よし、残っている者を集めろ、直ぐに出動だ!」

「はっ!」

弁千代は馬の支度を部下に命じた。

「朝倉航平がいるかも知れないな・・・」

二十名ほどの部下を連れて、弁千代は天元寺へ向かった。


「あのぅ、無門巡査部長はおいでかね?」

農民らしき中年の男が三潴県警の玄関先で立番の巡査に訊いた。

「巡査部長に何の用だ!」若い巡査が権高に言った。

「へい、奥様からお手紙を預かって来たんでやす」

「なに、無門部長の奥様にか?」

「へい、さいでやす」

生憎あいにく部長は捕物に出動された。手紙は俺が預かっておく、ご苦労だった!」

立番は男から手紙を引ったくった。

「へい、宜しくお願ぇしますだ」

男は頭を下げて踵を返した。

「これだから、官憲は嫌ぇだよ・・・」


*******


「廣岡さん・・・」見張に立っていた顔見知りの武士が言った。

「娘を返して貰いにきた」

「その人は?」

「娘の知り合いだ、娘が攫われたと知ってどうしても行くと言って聞かないのだ」

「軍蔵・・・」境内から声がして朝倉が手燭を持って現れた。

「朝倉、沙希を返して貰おうか」

「返さぬ・・・と言ったら?」

「刀にかけても取り戻す」軍蔵が鍔元に手を掛けた。

「まあ、入れよ」朝倉が言った。「その前に刀は預かるけどな」

「朝倉さん、連れの男はどうします?」

見張の男が訊いた。

「ひょろい青二才じゃ無いか。問題は無い」

「分かりました」

男が刀を受け取ると靜馬を通した。

「俺が話す、お前は大人しくしていろ」軍蔵が振り向いて小声で言った。

朝倉が踵を返すと暗くて見えなかった境内の様子が、うっすらと見えた。

かつての仲間が、刀に手を掛けて此方を見ている。何人かは銃口を此方に向けて構えていた。

本堂に上がると沙希が柱に縛られていた。

「酷いやりようじゃないか?」

「仕方が無かったのだ。ここへ連れて来てお主がいないと分かったら、いきなり暴れ出して手に負えなかった」

「銃で脅したのか?」

「あのままではこっちが全滅だった」朝倉が薄く笑う。

「ふん、そうだろうな」

「お父さん・・・」

「沙希、もう少しの辛抱だ」

「分かった、でももう一人は・・・だれ?」

「お前のお師匠さんだ」

「靜馬さん!」沙希の声がうわずった。

「どうしても行くと言って聞かんのでな、連れて来た」

「沙希さん、私が必ず助けます」

「馬鹿、それは俺の台詞だ」

軍蔵が靜馬を睨んだ。

「再会の挨拶はそれくらいにして、本題に入ろうか?」朝倉が言った。

「言った筈だ、もう俺は抜ける」

「この状況が分かっていないようだな?」

「分かってるさ」

「なら、なんで・・・?」

「ここで俺が折れたら、娘に示しがつかねぇんだよ」

「廣岡さん、またそんな事を。ここは沙希さんを助けるのが先決ではありませんか!」

靜馬が叫んだ。

「うるせぇ!」

「お父さん!」

沙希が軍蔵を呼んだ。

「なんだ、沙希?」

「お父さんの好きにして!」

「そのつもりだ」

言うなり軍蔵は手近かな燭台を手で弾き飛ばした。同時に発射された弾は軍蔵を外れて畳に穴を開けた。

影が揺れて銃の照準を狂わせたのだ。

焦げ臭い匂いが漂う。

「馬鹿者!味方に当たるぞ!」朝倉が叫んだ。

軍蔵が朝倉に飛び掛かり刀を奪った。

靜馬は横で刀を抜きかけた男の手を押さえ、当身を喰わせる。

そのまま刀を奪うと身を屈めて脛に一太刀浴びせた。

悲鳴を上げて敵が転がった。

「殺すな!」軍蔵が叫ぶ。

「分かっています!」

声を頼りに斬り付けて来る敵の脛を、低い体勢のまま左右に薙ぎ払う。

刃が斬撃の切間きれまなく鮎のようにひらめいた。


*******


「なんだ、今の銃声は?」

弁千代は馬を止めて耳を澄ませた。二発目は聞こえて来ない。

「急ぐぞ!」

弁千代は馬の尻に鞭を当てた。

寺に近付くと、人の争う音が聞こえて来た。

「明かりをつけろ!提灯ちょうちん龕灯がんどうをありったけ灯すんだ!」

部下達は手に手に明かりを持って境内に雪崩れ込んだ。


*******


いきなり境内が明るくなった。敵の姿がよく見える。

銃口が此方を向くのが分かった。

「靜馬さん!」沙希の絶叫が上がった。

脇腹に激痛が走る。うずくまると敵の刃が頭上に迫った。

その刃を跳ね上げながら軍蔵が飛び込んで来た。

返す太刀で敵の右手の親指を斬り落とす。これでもう刀は持てない。

「しっかりしろ!」

腕を取って立たされた。

「だ、大丈夫です」

「靜馬!」

サーベルを持った弁千代が駆け寄って来た。

「先生・・・」

「お前がなぜこんな所に?」

「事情の説明は後だ!先に片づけっちまえ!」軍蔵が叫ぶ。

境内ではまだ、士族と巡査の戦いが繰り広げられている。

「心得た!」

弁千代は靜馬を本堂に残して境内へと駆けて行った。


靜馬は沙希の縛られている柱に歩み寄った。

「もう、大丈夫です」

刀で沙希の戒めを切る。

「靜馬さん・・・」


やがて戦いは終息し、不平士族の一味は全員縄を打たれて連行された。

軍蔵と沙希、それに靜馬も事情聴取の為に三潴署に身柄を拘束された。

靜馬は署に呼ばれた医者によって治療を受けたが、幸いかすり傷で済んでいる。

翌日、無罪放免となった三人は、朝の光の中を大木町の沙希の長屋へ向かって歩いていた。

「俺はな、無門巡査部長と太刀合ってから、あの集まりから抜けようと思ったんだ」軍蔵が言った。

「どうして?」沙希が訊いた。

「終わった事にいつ迄も不平不満を言っていても始まらねぇ。それよりも俺はもっと大きな楽しみを見つけたんだ」

「それは何ですか?」靜馬が訊ねる。

「お前の先生に勝つ事さ」

「えっ!」

「嘘だよ、勝ち負けなんて本当はどうでもいい。ただ、俺も剣の道を極めたくなったのさ」

「お父さん・・・」

「沙希、お前まだこの男に礼を言ってなかっただろう?」

「う、うん・・・」

「ちゃんと言わなきゃ駄目だ」

沙希が首筋を赤くして靜馬を見詰めた。

「ありがとう・・・ございました」

「い、いや・・・」

「でも、貴方の太刀筋を見て分かった気がする」

「何でしたっけ?」

「斬り終わった姿勢がそのまま構えになる事」

「そ、そう・・・それは良かった」

「靜馬とか言ったな?」

「はい」

「俺からも礼を言う。本当にありがとうな」

「いえ・・・」

「これからも沙希を宜しく頼む」

「は、はい!」


靜馬は二人と分かれて、鈴が報告を待つ妙心館へと足を早めた。


*******


弁千代が机に着くと一通の手紙が置いてあった。

開けてみると鈴からで、沙希がいなくなったと書いてある。

『大丈夫、もう解決しました』


弁千代は小さく呟いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ