表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弥勒の剣(つるぎ)  作者: 真桑瓜
22/277

出立


出立



「弁千代、やはり行くのか?」無二斎が訊いた。

「はい」

「寂しくなりますね」玉がいまにも泣き出しそうな顔をした。

「長々と、お世話になりました」

「ベンさん、『草』の形はどうする」三雲が尋ねる。

「仕方がありません・・・」

「もう大丈夫じゃ、お前なら一人でも行き着くことが出来るじゃろう」無二斎が断言した。


約束の一年を待たず、弁千代は無二斎の元を去ることになった。

御前試合の後、弁千代は柔術指南役に推挙されたのだ。然し弁千代にはまだやるべきことが残っている、ここで武者修行をやめる訳にはいかない。

「殿様のお誘いをお断りする以上、ここに留まる事は出来ません」弁千代はそう言った。

お城には西郷を通して、丁寧に非礼を詫びる書状を届けて貰った。

西郷は、速水を柔術指南役に推挙する事を約束してくれた。

名君は全てを察し、弁千代の我儘を許してくれた。ただ、このままここに留まる事は弁千代にはどうしても出来なかった。


「達者でな」

「師匠も、どうぞお達者で」

「時には思い出してくれろ」

「玉様、必ず文を書きます」

「また会おう」

「三雲さん、その時はお手合わせ願えますか?」

「勿論・・・」

四人は暫し無言になった。

「何時迄も名残は尽きません。これにておさらば致します」

「うむ、さらばじゃ」

弁千代は深々と頭を下げると徐に踵を返し歩き出した。何度も振り返った。その度に皆手を振ってくれた。

道が緩やかに曲がり始めると、無二斎の家は見えなくなった。弁千代はもう振り向かなかった。ただ目の前が霞んでどうしようもなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ