表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弥勒の剣(つるぎ)  作者: 真桑瓜
14/277

敵討


敵討




無二斎が、荒磯と向き合っていた。

「誰だ、お前?」荒磯が言った。

「あやつの柔術の師匠じゃ。不肖の弟子の仕出かした事、このとおり謝る」そう言って無二斎は頭を下げた。

「柔術か・・・大したこたぁねえな」荒磯が嘯く。

「が、然し。弟子の仇は師が討たねばならぬのが武士の習慣い」

「何?あいつの仇を討つと言うのか。老いぼれ、気でも狂ったか」荒磯は信じられんと言う顔をした。

「至って正気じゃ、試してみるか?」

「試す、何をだ?」

「儂がお主を土俵の外に押し出したら、儂と勝負をするというのはどうじゃ」

「ふん、ほざいたな。お前のような枯枝が俺を押し出せるはずが無かろう!」

「だから試すのじゃ」そう言うと無二斎は両手を荒磯の胸に当てた。

荒磯は反射的に身構える。

「行くぞ」

無二斎が前に出ると、荒磯がズズッと下がった。慌てて荒磯が腰を落とす。

然し、まるで暖簾を押すように荒磯の躰は土俵を割った。

「オー!」と客席から歓声が上がった。荒磯は呆然としている。

「どうじゃ?」

我に返った荒磯が無言で頷いた。もう引っ込みがつかない、顔が引き攣っていた。


両者、仕切り線を挟んで立った。

「爺さん頑張れ!」客席から野次が飛ぶ。

荒磯は二、三歩後ずさる。無二斎はただ立っている。

腰を落とした荒磯は、然し、無闇に突っ込んではこなかった。無二斎に尋常でない何かを感じ取っていたからだろう。

無二斎が、まるで無人の野を行くように歩き出した。

荒磯は更に下がる。無二斎は止まらない。

荒磯は徳俵に足が掛かったのを感じると同時に、猛然と無二斎にぶつかって行った。

二人がぶつかった瞬間、無二斎の躰は重さのない物体のように反対側の徳俵まで飛んだ。

荒磯は何の手応えも感じなかったが、その勢いのまま突進した。

「これで最後じゃ!」諸手で無二斎の胸を勢いよく突いた。

客席から悲鳴が上がる、あの諸手突きをまともに喰らったら無事でいられる筈が無い。

ところが、飛んで行ったのは荒磯の方だった。手が無二斎に触れた瞬間、電撃を受けたように硬直し、後方に吹っ飛んだのだった。

受け身を取る余裕も無く、荒磯は土俵に転がった。

「う〜ん・・」息が止まったのであろう、荒磯は苦しそうに身悶えた。




「弁千代殿!」無二斎が土俵の上から弁千代を呼んだ。

「は、はい!」

「三雲の様子を見に行く、案内を頼む」

「承知しました!」



三雲は神社の社務所に寝かされていた。

投げられた時、咄嗟に両手で後頭部を庇った為、軽い脳震盪を起こしただけで済んだ。

然し、目は呆然と天井を見つめている。医者は当分は安静にするようにと言い置いて帰っていった。


「三雲、大丈夫か?」医者が帰ると無二斎が訊いた。

「先生、私は・・・」

「よい何も言うな、お前が無事で良かった」

「はい・・・」三雲は泣いていた。

「ここでしばらく厄介になって、元気になったら儂の家に来い」

「はい、有難う御座います」


三人は、三雲を残し帰路に着いた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ