第5話 創星竜の試練〈下〉
グリザルたちと別れてから魔力の完全回復を待ち、最後の試練を行う部屋へと向かった。
⦅宿星神殿 揺光の間 第三の試練》
天使たちとの戦いの後はすでになく、きれいになった部屋の中心に炎を纏った巨大な石像がある。これが試練最後の敵、灼熱の巨人騎士。擬似魂魄を付与され自立行動しスキルを使用してくる特殊なゴーレムだ。その身に纏う炎の熱がこちらまで伝わってくる。グリザルの事前情報によると1000度の溶岩の鎧を纏い、周囲を段々とマグマに変えていくらしい。つまり、時間をかけて倒すことは難しい。だが、星咬の作成したボディは硬く、おまけに水や氷属性の攻撃は蒸発するからダメージにならないし、風は巨体と重量という問題から効きづらく、大地は硬すぎてこちらが先に砕ける。つまり、五元素系統はあまり効かないと考えた方が良い。今待機してあるほとんどの魔法に対する耐性と高い物理防御。時間を掛けずに倒すことは難しかった。だが、今はシリウスがある。光の属性を持ち、かなりの鋭さがあるこの剣なら止めは刺せる。まずは牽制も兼ねて五元素系統で応戦してみるか。ほとんど効果ないけど。
「展開【風刃】」
風の刃を作り出し飛ばす。命中はしたが傷一つついていない。硬いな。やはり五元素系統では厳しいか。幸い、動きは遅い。うまく立ち回ればもう少し弱点などを探れるだろう。身体強化し動き回って撹乱しつつ、攻撃パターンを割り出すか。
「展開【身体強化】」
加速して背後に回り込む。ラーヴァゴーレムは全方位に溶岩弾を展開していた。次の瞬間すぐ近くを溶岩弾が通り過ぎ頬に熱を感じた。その溶岩弾は床にぶつかりマグマ溜まりができる。まだ後ろから3発の溶岩弾が追いかけてくる。床のマグマ溜まりを避けつつ魔法を発動する。
「展開【魔法破壊】」
魔法は術者が術式を構成する際に込めた魔力で実体化している。そして込めた魔力を保持しておく核が必ず存在している。それを強制破壊し消し飛ばすのがこの【魔法破壊】だ。【魔法破壊】は命中したのだが何故か溶岩弾は消えない。
「つまり、あれは魔法じゃないってことか。展開【物理防壁】続けて展開【耐熱防壁】」
一応移動できるように地点固定式の結界ではなく移動できる物理防壁と耐熱防壁を展開し溶岩から身を守る。ぶつかった溶岩が弾け、床が溶けてマグマ溜まりが出来る。僕は防壁を維持しながら考える。
「物理防壁で防げたということはあの炎弾は魔法じゃない。だけどそれじゃあ追尾してきた理由がわからない。」
本当に?いや、違う。あの追尾の仕方は魔法じゃなきゃありえない。必ずタネがあるはずだ。考えろ…音波拓。
「そうか。溶岩弾の素はラーヴァゴーレムの周囲のマグマ。それを魔法で飛ばしているんだ。つまりゴーレムは溶岩を操ることができるわけじゃない。まずしなければならないのはスキルの正確な把握か。あのゴーレムがスキルでできることを知れば魔法によるものかスキルによるものかを判別できる。魔法の場合のみ【魔法破壊】で潰せばいい。防壁はまだ持ちそうだし、【鑑定】。」
ゴーレムが所持しているスキルは3つ。
【不変〈熱〉】・・・熱による状態の変化を無効化する。
【共有】・・・作成者が習得している魔法を使用することができるゴーレム専用スキル。発動するための魔力は作成者から供給される。
【灼熱領域】・・・自身の周囲に超高熱空間を生成する。世界系権能へと至ることも可能。
おそらく【灼熱領域】で作り出したマグマを【共有】で使えるようにした星咬の魔法を使用しているんだろう。今回用意している【魔法破壊】の数はさっき使ったのを省いて残り12。避けれる溶岩弾は避けて、厳しいものを迎撃していけば近づくことは出来る。【不変】は今から使う魔法には関係ないし、近づくことができれば勝機はある。
「シリウス、【充填開始】展開【物理防壁】二重展開【耐熱防壁】」
もう一度防壁を張り直し、シリウスに魔力を充填しながら駆ける。シリウスに魔力を込めている間は魔力を操作しづらくなるため魔法が安定しにくい。今は魔法で応戦するよりも防御に徹した方がいい。
「あっちぃなぁ。だがここまでくれば…」
最低限の充填が終了した時には、ゴーレムとの距離は約8メートルほどの所まで近づけた。。ここまで来るともう【灼熱領域】の中だ。【耐熱防壁】が限界に近づく。これが無くなったら確実にに焼け死ぬだろう。ここで勝負を決めるべく一つしか用意していない特殊結界を使う。
「展開【不滅の聖域】」
30秒間、結界の外からの攻撃をを全て防ぐ魔法を使う。これで詠唱の時間を稼ぐ。今から使う魔法は高ランクの光属性の剣を媒体として使用する魔法だ。試練が始まるまでは剣なんて持ってなかったから当然【魔導書】には記録されてない。だから詠唱の時間を稼ぐ必要がある。
「極光は、我に味方する。我は光を操りし者。光の聖剣は我が手にあり。」
左手に光が宿る。それをシリウスに添える。
「聖剣抜刀」
鞘から剣を引き出すように手を動かし、シリウスに極光を纏わせる。すると刀身が白い光を纏う。
「シリウス【|充填終了【チャージエンド】【開放】」
シリウスに充填した魔力を全て光として解放し、纏った光をさらに強くする。
「光を纏いし聖剣は敵を切り裂き、勝利をもたらす。」
シリウスをラーヴァゴーレムの核がある胸のあたり目掛けて振るう。
「【極光ノ聖剣】っっ!」
魔法発動までジャスト30秒。結界が消えると同時に光の斬撃が飛ぶ。ゴーレムは腕を交差させ防御の構えに入ったが、核は腕と共にその一撃で見事に両断された。
何故、核を容易く切ることができたのか。それは聖剣魔法【極光ノ聖剣】に秘密がある。この魔法は聖剣魔法という。属性的には光属性魔法に分類されるが、実は光だけでなく切断の事象属性というものを持つ。とりあえず事象属性の話は置いておく。聖剣魔法を簡単に説明すると、地球、ルーン問わずに逸話の聖剣の能力を自身の保持する剣に与え使用するというものだ。だが親和性やその他の問題でこの魔法を実質使えるというラインで使用しているのは創星級神器《聖天》を持つ聖王のみだ。拓の場合はシリウスの持つ能力【充填】と【開放】でブーストしたことで【極光ノ聖剣】が再現できたのだ。
「色々驚かされたが、まぁ何はともあれ試練の突破おめでとう。拓。」
星咬が地面のマグマを消しながらこちらに向かって歩いてくる。
「受け取れ。」
僕の前にたどり着いてすぐ、それまで腰に吊っていた《星空》を、鞘ごと差し出してくる。僕は両手で支えるように受け取った。
「初代星王星咬が汝、音波拓を《星空》の正式後継者と認める。汝に星の導きと祝福があらんことを。」
そう言って星咬が手を離した瞬間、前よりも遥かに多い量の情報が送り込まれてくる。その膨大な量の情報を処理しきれずに、僕は意識を落とした。
僕は夢を見た。
最後の瞬間までこの世界を箱庭としてしか見ていないお前たちの思い通りにはさせない、と神に抗い続けた男の姿を見た。
男はその命が尽きる最後の瞬間まで諦めなかった。自らの力と願いを《星空》へと刻み、次の世代へと全てを託した。
男は願った。自らの力と願いを受け継ぎ、世界を変える者が現れることを。そして、800年たった今、僕が現れた。
僕は男の前に立ち、言った。
“あとは任せろ”と。
これは《星空》に刻まれた記憶を夢として見ているだけだから当然本人には届かない。
だが僕は、男が最後に“任せた”と言い、微笑んだような気がした。
次で神界は最後です。旅立ちですね。やっと物語が動き出します。ただ作者が今宿題に追われているので気長にお待ちください。
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