第4話 創星竜の試練〈中〉
今、僕は第二の試練の部屋の前にいる。ただ中から不思議な気配を感じる。
グリザルの事前情報によると次の試練に登場するゴーレムは第一の試練の時より小型のアイアンゴーレムだそうだ。ただ、雷を纏って電磁加速するんだと。早いから動きを止めてから核を砕けと教えられたから捕縛系統はいくつか準備してるんだけどなぁ...なんか嫌な予感がする。
⦅宿星神殿 開陽の間 第二の試練》
部屋に入り、目にしたのは事前情報通りの小型ゴーレムだ。ただ1体ではなく2体いて、さらに見覚えのある大鎌と杖を持っている。ってことは...
「これ、どういうことか説明あるよな?グリザル、クリスタ。」
『流石にわかるわな。』
『やほー拓くん』
声は目の前のゴーレムからではなく頭の中に響くような形で聞こえた。念話ってやつかな。僕の予想通りグリザルとクリスタだったようだ。
『まずは第一の試練突破おめでとう。俺たちもみてたぜ。あの戦いぶりを見て星咬が第二の試練を変更するって言い出してな?もとのゴーレムじゃ試練にならないとか言って急遽俺達が相手をすることになったって訳だ。』
『私達が直接相手をしたら流石に勝負にすらならずに終わっちゃうからこーやってゴーレムを操作して相手をするのよ。手加減はしないからね。』
「つまり第二の試練の相手は弱体化したグリザルとクリスタってことか。」
『そーいうこと。さ。始めよっか。あ、ちなみに試練の難易度が変化したからここで私達に勝ったら報酬として新しいスキルをプレゼントしていいって星咬が言ってるんだよね!だから頑張ってね!』
『話は以上だ。好きなタイミングでかかってこい。』
そういって一度距離を取り始めた。好きなタイミングで初めていいってことだからとりあえず大まかな道筋立てるか。
杖を持っていることからしておそらくクリスタゴーレムは後衛だ。直接的な攻撃より補助や回復を優先するはず。対してグリザルゴーレムは前衛。武器の腕では当然負けている。そこに強化まで入ると手に負えなくなる。ならば先にクリスタゴーレムを無力化して遠距離からグリザルゴーレムを叩く。つまりは1手目でグリザルゴーレムを吹き飛ばさなければならない。
クリスタゴーレムに辿り着くまでにグリザルゴーレムが邪魔をしてくるのはわかっている。そこをつく。
僕は自分にしか聞こえない声量で唱える。
「展開【身体強化】反撃展開【風槌】」
反撃展開は展開された魔法陣に術者以外の何かが触れると魔法が発動する。身体強化と同時に使うことで魔法陣のカモフラージュをし、全力でクリスタゴーレムを目指す。
『させるかっ』
僕が駆けだしたと同時にグリザルゴーレムも動き出す。クリスタゴーレムは予想通りグリザルゴーレムに補助魔法をかけている。
グリザルゴーレムが僕めがけて鎌を振るう。鎌を避けつつ、ゴーレムのボディに魔法陣を仕込んでいた右手を添えるように当てる。狙い通りに圧縮した風の砲弾を作り出し相手にぶつける魔法【風槌】が発動しグリザルゴーレムが吹き飛ぶ。
『やばっ』
その隙にクリスタゴーレムの近くまで接近することができた。
「少しおとなしくしていて。展開【束縛】続けて展開【絶界】」
逃げれないように拘束魔法【束縛】をしたあと、空間的つながりを遮断する特殊結界魔法【絶界】によって無力化に成功した。
『まさかここまでやるとは思ってなかったぜ。速攻でクリスタ沈められちまった。甘く見すぎたな。ちっ。ここまでしていいとは言われてねぇがまぁいいだろ。死霊の世界の扉を開く。世界展開《死霊世界》』
空間に亀裂が入り、割れた。周りの景色はさっきの神殿ではなく多くの墓がある墓地に変わっていた。
『これは俺の武器タナトスが作り出した異界だ。名を《死霊世界》という。今後のためにも一つ教えてやろう。一部の武器にはこのように異界を創ることができる世界系権能を持つものがある。世界系権能で作った異界は武器の属性によって様々な秩序を得る。《死霊世界》なら死霊関係の魔法が強化されたり、生きている者の能力を低下させたりって感じだ。そこに周りの人間を巻き込むことで自分が有利な状況を作り出すことができる。この異界から出る方法は3つある。一つ目は術者を倒す。2つ目はタイムリミットを待つ。3つ目は別の異界で上書きする、だ。』
「つまり僕が勝つにはグリザルを倒すしかないってことだ。」
『そういうこった。さぁ、第二ラウンドと洒落込もうじゃないか。魂刈られたく無ければ防ぐことだなっ!死神流大鎌術《刈リトル者》』
鎌に黒いオーラを纏とわせ切りかかってくる。さっきの言葉通りなら当たると魂持ってかれるってことだろう。僕はシリウスを抜き的確に捌いていく。だが、一度距離を取って魔法で攻めなければこのまま押し負けるだろう。
「展開【多重炎弾】続けて展開【多重風弾】続けて展開【多重石弾】」
ほぼ零距離のはずなのにダメージが通っている気がしない。
「展開【風槌】」
風の槌を当てるかさっきとは違い鎌で防がれあまり距離を取ることができなかった。
『突き放して魔法の間合いに持っていきたいようだが、さっきのようにはいかねーぜ。』
「ならこればどうだっ!展開【波滝】」
『うおっ』
滝
空中に大量の水を作り出し一方向へ流すことで波を作る魔法【波滝】のお陰でなんとか距離を取ることができた。
今までと同程度の魔法じゃ決め手にかける。ならば魔導書に入れていない魔法を使うだけだ。何気にこれが僕の初めての魔法詠唱か。これに限っては僕の魔導書の容量の4分の1近く持っていくから即時展開は厳しいんだよな。
「緋き炎を纏いし龍よ、ここに。」
炎が螺旋を描き、目の前に龍の形を取る。
『おいおい。嘘だろ。龍喚魔法だと…」
「我が意に従え。顕現せよ【焔龍《赫》】」
炎がはっきりとした龍の形を取った。
「燃やし尽くせ、灰も残さずに!」
『ゴァァァァァッッ』
吠えたような動作をし、グリザルゴーレムに向かう。対するグリザルゴーレムは一切動かない。
『これは、俺の負けだな。』
そんな声が聞こえた次の瞬間、焔龍はグリザルゴーレムを喰らい、消し炭にした。術者がいなくなったため異界が消え、もとの景色に戻る。
「ふぅ。」
「グリザル、流石に世界は反則よ。」
「いや、だってあのままじゃボロ負けだったじゃねーかよ。てか、文句言うなよクリスタ。お前今回は俺に最初に補助魔法かけた以外何もやってねーじゃねーかよ。」
戻ると、いたはずのクリスタゴーレムも消えており、代わりにグリザルとクリスタが口喧嘩をしていた。
「2人とも落ち着いて。」
「拓くん、さっきの私にやったみたいにコイツ封印してよ。」
「クリスタ落ち着いて。ほら最初に言ってたスキルって?」
「あー、うん。手出して。」
出した手に触れ、スキルの贈与をする。
「このスキルは?」
「俺の持つスキル【魂魄魔法】だ。魂への直接攻撃とかできるようになるぞ。これは特殊属性だからスキル持ってないと発動できないからな。」
「グリザルの…ありがと。手数が増えるよ。」
「礼なら不要だ。お前が勝ち取ったんだからな。この調子で《星空》も勝ち取ってこい。」
「頑張ってね。拓くん。」
「ありがとう。2人とも。」
僕は、2人に見送られながら部屋を後にし、最後の試練へと向かった。
5話もすぐに上げます。
あと少しで物語が動き出すと思います。