街の事情
ルエックの国を出る手前の街で昼食をとることにしたのだが、少年がひたすらよく食べるのにはリンネも驚いた。
カードウィントと名乗った少年は、五人前くらいならペロッとたいらげてしまう。最初は長い間、何も食べられないで閉じ込められていたからだろうと思っていたのだが、どうやら元々が何でもよく食べるタイプらしい。
彼と関わった少女は、どれだけの量をカードに与えていたのだろう。
「そんなに食べて、よく太らないわねぇ」
「これくらい、軽い軽い」
リンネは本気で感心していた。高さも幅もある大男ならともかく、一見するときゃしゃで、リンネと背も変わらない少年なのに。食べた物はどこへ入ってゆくのだろう。
「オレ、その分、じっとしていないからな。食った分はちゃんと動くから。それに元々が太るタイプじゃないみたいだし」
「リンネと同じですね」
「……どこが同じなのよ」
「食べるものはしっかり食べて、じっとしていないというところ。カードはリンネによく似てるんですよ。いわゆる、類友ですね」
「なーんか、食べて遊ぶだけって言われてるみたい」
「そう聞こえましたか? そのつもりで言ったんですけれど」
体力や行動力にかなわない分、ニルケの言葉はリンネをへこます。
「なぁ、リンはどうして祭りがあるってのに、わざわざじいさんの所へ行くなんて言い出したんだ? リンは祭りが嫌いなのか?」
「ううん、好きよ。でもね、今度の祭りは記念祭なのよね。いつもみたいに単純に楽しめるようなものじゃないのよ。変なパーティもあるしね。きっと家にいたら、あたしまでそれに出席させられるわ。ドレスなんか着せられて、きゅうくつな思いをしながらおしとやかにすることを強要されるのよ。そんなの祭りじゃなくて、拷問じゃない。これまで前夜祭で出店なんかがあったからそこでしっかり楽しんだし、パーティに引っ張られるならおじいちゃんの所へ行く方がずっといいわ」
リンネとしてではなく、エクサール家の娘としてパーティに出席しなければならない。あまりおかしなことをしては、父の名に泥を塗りかねないし、自分だって笑い者になる。
笑いたい者には笑わせておけばいい……とリンネだけならそう思うのだが、父や家そのものにも関係してくるのだ。小さな子どもならともかく、十五にもなってそれはマズいだろうと、さすがにリンネも考える。
そうなると、じっとしているしかなくなるではないか。
そんな楽しくない祭りなんて、祭りじゃない。記念なんて、誕生日と両親の結婚記念日くらいで十分だ。リンネとしては、街の子ども達と一緒にあちこち見て、走り回る方がずっといい。大人だらけのパーティなんて、リンネにすれば明らかに別世界のものだ。
「リンネ、変なパーティって……あれは国の名士が集い、国の発展を祝うものですよ」
リンネが言うと、怪しげな集会みたいだ。
「そんなの、大人だけでやればいいじゃない。面白くない行事にあたしを誘ってくれなくて結構だわ」
いかにも堅苦しいことの嫌いなリンネらしい。
とにかく、父が困っているというのもあったが、そういうものに出席しなくても済む、という理由もあって、リンネは自分だけでペンスの街へ行くことを申し出たのだ。
「何にしろ、オレにとってはようやく運が回ってきたって感じだ。リンが通り掛かってくれなきゃ、まだあの檻ん中で腹空かしてたな」
確かにもっと大人数であれば、カードの声を聞き逃していたかも知れない。これまでは家族で馬車移動だったから、同じ道を通ってもカードの声は聞こえなかった。今回は二人で騒ぐことなく進んでいたから声に気付き、近付くことができたのだ。
「よく餓死しなかったわね。やっぱり魔獣だと、そう簡単には死なないのかしら」
「んー、頑丈さはそいつの能力や魔力にもよるから、何とも言えないなぁ」
「そういうものなの? ねぇ、ニルケ。魔物と魔獣って、何が違うの?」
リンネはこれまで魔物と呼ばれる存在と遭遇したことはなかったが、物語などにはよく登場するし、運悪く襲われたという人の話も現実に時々聞く。でも、細かい部分というのはあまりわからない。
「ぼく達の世界では、人間以外で魔力を持つ存在は魔物と一括りにされることが多いですね。もしくは、魔族とも言います。呼び方は人それぞれですね。その中で、ぼく達に馴染みのある獣の姿をしていれば、魔獣と呼ばれます。カードのような存在ですね。人間の姿になれるのであれば、魔力は高いと言えます。基本的な姿が人間とあまり変わらない場合、魔性と呼ばれることが多いです。性質によっては、それが精霊であったり、妖精と呼ばれますね。それ以外の姿であれば、だいたい魔物と呼ばれます」
「ふぅん、色々あるのね」
「獣の姿でも、人間と同じ言葉を持たないと単に魔物って呼ばれたりすることが多いかな。魔物って言い方が一番言いやすいみたいだし。あー、うまかった」
ニルケの説明に少し補足しつつ、カードは満足そうに息を吐いた。
「堪能しましたか? それでよく食べ過ぎにならないものですね」
「食べ過ぎって言葉、オレには通用しないって」
「余裕を持って来ていてよかったですよ。そうでなければ、ぼく達は今頃皿洗いをしています」
まさかこんなに食費がかかるとは思っていなかった。もちろん、これはニルケのお金ではなく、エクサール氏から渡されているものだ。リンネに渡すと何に使うかわからないので、ニルケに託されているのである。
「いいじゃないの、ニルケ。宿代と明日の食費さえ何とかなれば、足りない分はおじいちゃんにねだるわよ」
カードにすれば、神の言葉にも思えるであろうリンネのセリフだった。
☆☆☆
夕暮れと呼ばれる時間になる頃、オクトゥームの国トーカの街へ入った。
行程としては、とりあえず予定通りだ。おかしな道連れができたものの、一応は支障なく目的地へ近付いた、というところ。
「活気がない街だなぁ」
カードが周りを見回して感想を述べる。それにはリンネもニルケも同意見だった。
去年訪れた時は、もっと賑やかな雰囲気の街だったはずだ。今の時間は陽もずいぶんと傾いて薄暗くなってはいるものの、以前ならまだ多くの店が開いていたし、人通りもあった。
なのに、今は次々と店が閉められている。まだ空には一番星しか出ていないというのに。
「どうも様子が変ですね。みんな、足早に帰ろうとしているようで」
見ている間に、通りにいた人の数が減ってゆく。大きな通りが多いだけに、人がいないととても寂しい。
「とにかく、早く宿へ入りましょう。閉め出されたりしたら、今夜は野宿ですよ」
急いでいつも泊まる宿屋「三つ星亭」へ向かう。さすがに宿屋はまだ店を閉めていなかったが、今にも門を堅く閉ざしてしまいそうな雰囲気だった。危ないところだ。
宿屋の主人は、毎年同じ時期に来るリンネやニルケの顔を覚えていて、中へ入るとにこやかに出迎えてくれた。
丸い顔と丸い身体で、人の好さそうな口調は変わらない。頭だけは、去年より幾分か涼しげになっている。カードについては、見慣れない顔があるが新しい付き人だろう、くらいに思っているようで、特に聞いてくることもなかった。
「今年はえらく少人数なんですねぇ」
ニルケが宿帳に記入を終えると、受付近くに置かれたソファで、主人がお茶とお菓子で客をもてなす。
「ええ、我々だけで先に行くことになりまして」
ニルケは短い言葉で事情を説明する。別に詳しく事情を話す必要はないし、相手も深くは聞いてこない。
「ところで御主人、街の様子が去年来た時に比べてひっそりしているようですが?」
「あ……ええ……」
主人はそう尋ねられても、すぐには答えなかった。いつも明るい表情が暗い。
「何か悪いことでも?」
「実は最近、質の悪い盗賊が出るんですよ。食料店や剣などの武具を扱っている店なんかが狙われましてね。白状すると、一度うちも被害に遭ったんですよ」
「どうして宿が狙われるの?」
食料が欲しければ、そういう店へ行った方が収穫は多いはず。宿にも食料はあるだろうが、わざわざ盗賊が狙う程でもないだろう。カードみたいに余程空腹の盗賊、というのならわかるが。
「馬です。外につないでいた馬が立派だったもんで、泊まり客が金持ちだと知ったのですよ。わしもそこから狙われるとは思いませんでした。たとえ旅の途中でも、金を持っているだろうし、衣装も悪くないものを持っているだろうと」
「変わったものが奪えるかも知れないってところね。うちの馬、大丈夫かなぁ」
「あ、それはもう。ちゃんと馬屋に入れて戸を閉めてありますから」
最悪の場合、馬はどうとでもなる。だが、部屋へ押し入られたら……。ニルケは大きな金額の路銀を持っているし、もしもリンネがさらわれたりしたら大変だ。
「そんなに頻繁に出るのですか?」
「だいたい新月期ですね」
盗賊はここ半年前から月明かりのない頃を見計らい、街を襲っているらしい。金品の強奪はもちろん、放火までしようとしたと言う。大きな火事にはならなかったものの、被害は大きい。厳重に戸締まりし、警戒しても防ぎ切れない。
相手は二十人程の男達なのだが、力が強く、剣の腕もたつ者ばかり。以前、捕らえようとした役人や腕に覚えのある街の住民がいたが、相手にならずに大ケガをしたり、殺されかけた。それからみんな、逃げ腰になっているのだ。
今は新月期に入っている。だから、街の人々は早く家へ戻って行くのだ。盗賊がいつやって来るかと思うと、おちおち買い物もしていられない。
満月期は大丈夫かと言えば、それもはっきりしない。相手は盗賊。いつ気まぐれを起こして現れるかなんてわからない。万が一ということもある。
次第に街は活気がなくなり、このまま盗賊に狙い続けられるのなら、トーカの街はいつかさびれてしまうだろう。
「ねぇ、この街に魔法使いはいないの? いれば、戒めの魔法でも使って、一網打尽って風にいくのに」
「あいにく、ここには魔法使いはねぇ……」
リンネがちらりとニルケを見る。ニルケは気付かないふりをした。
「御主人、部屋の鍵をいただけますか」
「ああ、はい。こちらです」
「ありがとうございます。お世話になります」
主人から鍵をもらうと、ニルケは部屋の方へと向かう。
「あ、ニルケ、ちょっと待ってよ」
リンネは慌ててニルケの後を追った。カードは出されたお菓子をしっかり処分してから、その後を跳ねるようにしてついて行く。
「ねぇ、助けてあげないの? ニルケの魔法なら、すぐに捕まるんじゃない?」
「リンネ、ぼくの力を評価してくれるのは嬉しいですが、無理ですよ。二十人も一度にかけられる程、強い魔法はまだ使えないんですから。それにぼくたちが口を出す問題ではありません。これは役人の仕事です」
ニルケはリンネが入る部屋の扉を開けた。
「夕食までは自由にしても構いませんが、おとなしくしていてくださいよ」
ふてくされた表情のリンネを、ニルケは部屋へ押し込む。その後をカードが入ろうとして、ニルケは慌てて止めた。
「カード、どこへ行くんです」
「え? リンと一緒に」
「きみはぼくと同じ部屋です」
「何だよ、部屋が別々なのかぁ?」
「当然です。リンネは一応、女性なんですよ」
「……一応って部分に引っ掛かりを感じるわね」
ニルケはカードを引っ張って、リンネの隣りの部屋へ入って行った。
リンネは仕方なく扉を閉め、自分の荷物をその辺りへ放っぽり出す。
意味なく部屋をうろうろし、窓の外を眺め、ベッドの上に寝転がり……。
やがて、リンネは部屋を出た。
☆☆☆
受付へ行くと、そこには誰もいない。そのすぐそばの部屋は食堂になっていて、さらにその向こうは厨房だ。夕食の準備が進められているのだろう。いい香りがしてくる。
「リン」
カードがやって来た。リンネが部屋を出た音を聞いていたのだろう。リンネとしては、なるたけ音はたてないようにしていたつもりだが、さすがにカードにはわかったようだ。だてに獣の耳は持ってない。
「ニルケは?」
「難しい顔して、本読んでたぜ。……リン、何か悪だくみしてない?」
「失礼ね、そんなことしてないわよ」
リンネは言いながら、宿の主人からお茶をもらった時に座っていたソファに腰をかけた。
「だけどさ、盗賊を捕まえてやりたいって思ってない?」
「……思ってる」
人様の物を盗むなんて、絶対に許せない。まして、未遂であっても人殺しなんてなおさら。きっと本当に誰かが亡くなったとしても、盗賊達は気にもかけないだろう。
どうにかして罠を張ることはできないだろうか。ニルケが協力してくれれば、捕まえることも不可能ではないはずなのに。
何も盗賊相手にケンカしてくれ、なんて頼んでない。ちょっと動きを封じてくれれば、それでいいのに。そうしたら、リンネが一人ずつぶっ叩いて縄をかけて、役人に突き出してやるのだが。
「オレ、協力するぜ」
「本当?」
「リンにはメシを食わせてもらった恩もあるし、暴れるのは好きだし」
カードは白い歯を見せてニッと笑った。
「あたしね、盗賊にだって色々な事情があって、仕方なくやってる人もいるんじゃないかと思うの。だけど、同じ所ばっかり狙うっていうのはよくないわよ。おまけに、放火したり人を殺そうとするなんて、もっての他だわ。ニルケは口を出す問題じゃない、なんて言うけど、もしトーカの街がこの盗賊のせいでさびれたら、きっと盗賊達は別の街を狙うわよね。それがラースの街じゃないって誰が言える? それなら、出るって可能性の高いらしい今夜のうちに片付けた方がいいじゃない」
「リンの言いたいことも、わからないではないけどさ。今夜来るかな」
「今まで来てたなら、きっと来るわ。でなきゃ、月が満ち始めるなんてすぐだもの」
リンネの口調は、ぜひ現れてほしい、と言っているようなもの。
「で、リンには何か計画でもあるのか?」
「うー、今から考える」
頼もしいことである。
「やあ、えらく物騒なことを計画してるじゃないか」
そんな声をかけられたが、ニルケではない。声が違うし、そもそも彼はあんなしゃべり方をしない。
驚いたリンネが振り返ると、ニルケよりも少し若い男がいた。濃い茶色の髪は長く、適当に後ろで束ねられている。着ているものが、ちょっとほこりっぽい。顔も同じく少々汚れてはいるが、目鼻立ちは整っている。濃い茶の瞳に妙に惹き付けられた。
身なりはそんなにいいようには見えないが、リンネはそんなことを気にしない性格だ。街の荒くれ者なんかもっとほこりっぽいし、汚れているのが当たり前、という部分もある。 そんな人間とも付き合っているリンネなのだから、彼などまだきれいな方だ。怪しいなんてことも思わない。旅人なら、ほこりっぽいのも当然だろう、と。
ニルケがこれを聞くと、初対面の場合だけはもう少し疑うということを知ってください、と言うはず。
「誰?」
一番ストレートな質問をしながら、リンネは頭の片隅で何か引っ掛かったような気がした。彼とは会ったことがないのに、どこかで会ったことがあるように思えたのだ。
「俺はダルウィン。きみは?」
「あたしはリンネ。この子はカード」
ダルウィンと名乗った男は、リンネ達の向かい側のソファに座った。
「あなたもここの泊まり客?」
「まぁね」
その答えに、リンネは少し首を傾げる。
この宿はウェルカムドリンクが出されるような、少しばかりいい宿屋だ。リンネはいちいち聞いたことはないが、たぶんトーカの街でトップレベルの宿泊施設のはず。大きな街ではないのでトップレベルと言っても知れているが、この街のなかでは良質のもてなしがされる。だから、エクサール家は毎年ここに泊まるのだ。
しかし、申し訳ないが、目の前にいる青年はこの宿に泊まれるような格好には見えなかった。宿に泊まるのだから旅をしているのだろうが、その身なりは野宿する回数の方が多いように思われる。いくら道中で汚れたと言っても、それなら部屋で身支度をそれなりに調えてから出て来そうなものだ。
リンネの表情を読んだのか、青年の方から説明する。
「本当はもっと安い宿へ行くつもりだったんだ。それなのに、その宿の主人が盗賊が来るからその間は営業しない、なんて言うんだよ。あそこは狙われないと思うけどなぁ。野宿でもよかったんだけど、見回りに来た役人がここへ放り込んだんだ。こんな時期に野宿なんてとんでもない、とか言ってさ。余計な死体ができるのがいやなんだろうな。貧乏旅行に迷惑な話だ。ここを出たら、どこかで旅費を稼がないとな」
そういう事情ならわかる。
山や森で盗賊が身ぐるみをはぐ、というのはよく聞く話。ただ、そういう目に遭うのは運もあるだろう。
だが、今のこの街は高い確率で盗賊が現れる。店舗を主に狙っているようだが、わずかでも足しにするために身ぐるみをはぐ、ということもするだろう。人殺しをちゅうちょしないのなら、ありえる。
彼にすれば確かに迷惑な話だが、その役人のおかげで命が助かるかも知れないのだ。いわゆる、命あっての物種である。
「それで、あたし達の話を聞いてたの?」
「ここへ来た時、一生懸命しゃべってたからさ。あれじゃ、聞くなって方が酷だぞ」
リンネは夢中になると、よく周りが見えなくなってしまう。彼が入って来たことにも気付かなかった。ニルケに聞かれていたら、大目玉だ。
カードはきっと気付いていただろうが、ここは宿屋なのだから他にも人は通る。それに彼から悪意を感じなかったので、何も言わなかった。
「それで、計画はたてられそうか?」
「わかんない。二十人近くもいるって話だし、一度に捕まえるのは無理よね」
いくらリンネでも、大の男を二十人も相手にはできない。ニルケがここにいれば、一人でもリンネには無理です、と突っ込むところだ。
「いいじゃないか、一度に全員を捕まえられなくても」
ダルウィンのあっさりした言葉に、リンネは目を見開く。
「じゃあ、一人だけでもいいってのか?」
「ああ、十分じゃないか」
カードの言葉に、ダルウィンは大きく頷いた。
「どうしてぇ? 一人捕まえたって、あとの十九人がまた悪さするじゃない」
「そうなる前に、その一人から聞き出せばいいじゃないか、仲間の居場所を。隠れ家を押さえれば、残りを捕まえられる」
ダルウィンの提案に、リンネはひたすら感心する。
「同じ街を襲うってことは、隠れ家が何軒かあったとしても近辺にあるはずだ」
「そっかぁ。何も全員捕まえようとしなくても、後にまわしておけばいいんだぁ」
役人達もきっと、一度にやってしまおうというのがよくなかったのだ。隠れ家や盗賊達が寄りそうな場所を見付けてしまえば、明るい時にでも捕まえられる。
「ところで、リンネ。本気でやるつもりか」
「うん」
当然のようにリンネは答える。
「もしかして、相手がどういう奴らか聞いてない、とか?」
「聞いてるわよ。力も強いし、剣の腕もたつって。すごい集団みたいね」
「それでも?」
「やるわ。だいたい噂なんてものは、恐怖と混じり合って誇張されていくものなのよ。力があろうが、人間である以上は弱い部分もあるの。そこを狙うのよ」
とんでもないことを始めようというのに、リンネはやたら楽しそうだ。
「きみみたいな女の子、初めてだよ」
「でしょうね」
そういう部分はリンネも認めているのだった。