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お嬢様にピンチなし  作者: 碧衣 奈美
第四話 思い出話

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少年と

おまけとして、第一話の後日譚を最後に入れてます。

 たまにこんなほのぼのとした光景もあったが、やはり毎日が追い掛けっこの二人だった。リンネが捕まる日もあれば、ニルケが逃がしてしまう日もある。

 普通の子どもであるリンネを追うなら、魔法を使えば楽勝のはずのニルケだが、余程逃げられることが続かない限り、自力で追い掛けていた。

 魔法使いではない相手に魔法を使うなど、不公平過ぎる、という気持ちがあるからだ。相手は丸腰なのに、こちらは重装備をしているような。

 あと、年長者としてのプライドも少々。

 で、この日はリンネがうまく逃げて、屋敷の外へ抜け出した。

「待ちなさい、リンネ!」

 追って来るニルケから、リンネは人込みの中へと逃げていた。

「あれ、今日はねばるなぁ……」

 いつもなら途中であきらめるニルケだが、今日はずっと追って来る。いくらリンネの足が速くても、体力ではやはりニルケの方が上だ。このままではそのうち追い付かれる。

 せっかくまちの中までにげて来たのにぃ。

 そう思いながら、ちょっとよそ見した時。

 ドカッと人にぶつかった。その勢いで、体重の軽いリンネは後ろへひっくり返る。

「大丈夫? ごめんね」

「うん……へいき」

 リンネを起こしてくれたのは、濃い茶色の髪と瞳をした少年だった。十かそこらの年齢だろう。リンネより年上で、ニルケより年下。

 彼とは今までに街で会ったことがないし、服装もラースのものとは違うから、よその街の子だろう。

 妙に瞳が魅力的で、リンネは知らずその瞳に見入ってしまった。

 でも、そんなことをしている場合じゃない。ニルケと追い駆けっこをしていたのだ。いつまでもここにいたら捕まってしまう。

「あ、にげなきゃ」

「どうしたの? 追い掛けられてるの?」

「うん」

「じゃ、こっちへおいで」

 少年はリンネの手を引くと、人込みをすり抜けて走り出した。ある程度まで走ると、出店が並ぶエリアまで来る。その店と店の間に入り込んだ。

 二人は屋台の陰に隠れてしゃがむ。

「前へ逃げてると見せ掛けて、隠れてやりすごすんだ。相手は先へ進んだと思ってる。相手が通り過ぎたら、今度は逆の方向へ行くんだ。追い掛けて来る人が見えたら教えて」

「わかった」

 隠れて待っていると、人と人の間にニルケの姿が見え隠れする。

「あの人。みじかい金のかみで、背のたかいお兄ちゃん」

 リンネはニルケの方を指差して少年に教えた。

「あの人? てっきり悪い奴に追い掛けられてるのかと……」

 少年にすれば、ならず者みたいな人間に追われているのだと思ったらしい。

「ううん、かてーきょーしなの」

「なんだ、先生から逃げてるのか。勉強はある程度しておいた方がいいよ……ってね。ぼくもよく抜け出すけどさ。あの先生、嫌いなの?」

「ううん、今までのせんせーの中でいちばん好き。だって、ほめてくれる時はちゃんとほめてくれるもん」

 これまでの先生は、できてもそれが当たり前、のような顔をしていた。

 でも、ニルケはリンネが答えをちゃんと出すと、しっかりほめてくれる。あの夜に言っていた通りだ。

 ほめられれば、やっぱり嬉しい。叱られることも多いが、勉強以外でもほめられる時はあるから、ニルケが家庭教師でなくてもリンネはきっと彼が好きだったろう。

「なのに、逃げるの?」

「いつもべんきょーしてたら、ばかになっちゃうじゃない」

「なるほどね……」

 リンネの言葉に、少年はくすくす笑った。

 ニルケが通り過ぎたのを見て、二人は陰から飛び出し、逃げて来た方向へと走り出す。

「ぼく、この街は初めてなんだ。あまり変な方向へ行くと、二人で迷子になっちゃうな」

「それならへーき。あたし、このまちに住んでるから。あんないしてあげる」

 もはや逃げおおせたと思っているリンネ。途端にガイドになってしまう。

 街のあちこちを回ったり、港まで行ったり。ラースを訪れた人が行くような所だけでなく、街の子供達の遊び場へも連れて行く。

「ここのおかし、とってもおいしいんだよ。あたしはねぇ、あのあかいアメが好き」

「あそこのおもちゃ屋さんにいるおじさんはねぇ、すっごく太ってるけど、うんと小さいおもちゃをつくるのがじょーずなの」

「あのしたてやさんは、あたしのかあ様もよくちゅーもんするの。うでがいいってひょーばんなのよ」

 宣伝料をもらっているのではないが、あちこちの店を宣伝するリンネである。

 途中、大道芸人がパフォーマンスをしているのを見付け、二人してそれに夢中になった。

 街をうろうろしている時、リンネはよくその大道芸人の彼を見掛けるし、何度か話をしたこともある。そのせいか、ちょっとした手品をする時に観衆の中から呼ばれ、彼のぼうしを持つお手伝いをした。

 その次に風船を使った手品をする時、今度は少年が呼ばれる。手品が終わると、風船を二つもらった。

 戻ると、少年はリンネと風船を分け合う。それを持って、二人はまた別の場所へと走って行った。

 もはやニルケのことは頭にないリンネである。

 それがいけなかったらしい。あちこち歩くうち、家庭教師が生徒の姿を見付けたのだ。

「いた、リンネ!」

「あや、みつかっちゃった」

 今度は少年を巻き込んでの追い駆けっことなる。また人込みの中を逃げ回り、ガイドどころではなくなった。

 おまけに、どうにかニルケをまいたと思ったら、今度は別の追っ手が現れたのだ。

「坊ちゃま、ここにいらしたんですか」

「あ、いけね」

 話さなかったが、少年も逃げていたのだ。

 見た感じ、追っ手はリンネの場合と同じく教育係……だろうか。がたいのいい二人のおじさんだ。普通の街の子よりちゃんとした身なりとは思ったが、いい家柄の子なのだろう。

 きっとリンネのように、ちょっと街を見たいから、と抜け出したのだ。その気持ちはリンネにもよくわかる。

「にげる?」

「いや、いいよ。そろそろ戻らなきゃいけないと思ってたしね」

 それにリンネが見た感じ、ニルケよりもさらに融通のきかなそうな顔をした人達ばかりだ。戻らないとお尻を叩かれるくらいでは済まないのかも知れない。こういうタイプは、きっといつまでもお説教をするのだ。……これはリンネの勝手な推測である。

 一人のおじさんがこちらへやって来た。いかにも教育係の長、という顔だ。

「坊ちゃま、もうお戻りください」

「……うん、わかったよ」

 正直なところ、少年はもう少し遊んでいたいと思っているような表情だ。しかし、おじさんの有無を言わさない口調で詰め寄られると、頷かざるをえない様子だった。

「お嬢さん、ダルウィン坊ちゃまはお帰りにならなくてはいけませんので」

 リンネの着ている服装が街の子とは少し違うのを見て判断したのか、少していねいな言い方で告げられた。

 でも、言葉の裏に「お前なんかと遊んでる暇はないんだよ」などと言われているような気がしたリンネである。

 少年はおじさん達に連れて行かれた。だが、何か言ってその腕から逃れ、リンネの方へまたやって来る。

「これ、あげるよ。街を案内してくれてありがとう。楽しかったよ」

 少年は、持っていた風船をリンネに差し出した。

「うん。あたしもたのしかった」

「じゃあね。また会えるといいね」

 笑顔で言いながら、少年はおじさん達のいる方へと走って行った。リンネは少年が人込みの中に消えてしまうまで、手を振っていた。

 ふいに、ポンと頭に手がのせられる。

「はい、捕まえました」

 いつの間にやらニルケが後ろに来ていたのだ。今からダッシュしたって、相手がいくらニルケでもすぐに捕まえられる。今日はニルケの粘り勝ちだ。

「さっき一緒にいた子、ラースの子ではなさそうでしたね。どこの子ですか?」

「知らない。でもおともだちなの」

 あのおじさんは彼のことを何て呼んでいただろう。一瞬のことでよく覚えてない。それに、リンネは自分の名前を彼に教えてなかった。

 でも、またいつか会えるような気がする。きっと……。

「さぁ、今日はしばらくサボっていた書き取りをしますよ」

「えー、やだぁ。他のにしようよ」

「駄目です。リンネに必要な勉強は、まず読める字を書く、ということですからね」

 やっぱりリンネは逃げようとして、でもすぐに捕まえられた。

「もう今日は逃がしませんよ。ちゃんと書けるようになるまで、部屋から出しませんから」

 そう言ってニルケはリンネの身体をひょいと小脇に抱える。これをされると、足が地面を離れてしまうのでリンネでも逃亡は無理だ。

「やーん、おろしてよぉ」

「部屋に入ったら下ろしてあげます」

 ニルケはリンネを抱えたまま、エクサール家へと歩き出す。

 今日はあきらめたリンネ、明日はどうやって抜け出そうかと早速計画を練り始めるのだった。


☆☆☆


おまけ・カードがエクサール家へ来た日


 ムルアの国ペンスの街にある祖父母の家から戻って来た、娘と家庭教師。

 だが、エクサール家の主人であるラグスはその二人の横に、もうひとり加わっているのを見た。

 確かここを出る時はリンネとニルケの二人だったはずなのに、見覚えのない少年が一緒にいるのだ。

 誰か使用人が共に行った、ということはなかった。街の子がたまたま来ただけ? いや、ラースは北に位置する街で、彼のように褐色の肌の人間はいない。よそから移ってきたということもあるが……。

「父様、ただいま」

 遊びから帰って来た時のように、晴れ晴れとした顔のリンネ。実際、遊んで来たようなものだ。

「おじいちゃんはちゃんと言いくるめておいたから、安心していいわよ」

「リンネ、言いくるめ、はないでしょう」

 ニルケがリンネの言葉遣いを注意する。

 リリアの父ガーネズの誕生日に、リリアを連れて毎年ペンスの街へ行く、というのがエクサール家の恒例行事である。

 だが、今年はその日とルエック独立百周年記念祭が重なってしまった。大切な記念祭であり、ラースを代表する名士であるラグスが欠席することはできない。

 だが、ラグスがリリアと結婚する時にガーネズが出した条件が、毎年リリアを連れてペンスの街へ来ること、というもの。大事な一人娘なのだから、最低一年に一度は顔を見せに来い、というのである。

 もし行かなければ後でどんな文句が飛び出し、話がとんでもなく飛躍してしまった場合、離婚させる、という話まで出て来かねない。

 まぁ、本当に離婚はさせないだろうが、次に顔を合わせた時、長い長い文句を聞かされるのはわかっている。

 それを知ったリンネが、自分が先にペンスの街へ行き、父のフォローをする、と申し出たのである。

 祭りは好きだが、どうせ前夜祭の方が楽しい。当日は名士が集うパーティとやらに、リンネも出席しなければならない。街の祭りとは違って堅苦しいこと、この上ない。

 そんなのに出るくらいなら、ペンスの街へ行く方が面白いとばかりに言い出したのだ。

 リンネを道中やよその街で一人にすると、どこへ行くかわかったものじゃない。あちらこちらで珍しいものを見付けたら、間違いなくそちらへ引き寄せられてしまう。

 それでは、ちゃんと着いただろうかと心配のしどおしになってしまい、精神衛生上よくない。ラースの街で遊び回るのとは違うのだ。

 しかし、こんな状況では仕方がない。ラグスは渋々ではあったが、ニルケに監視を頼んで一緒に行くなら、という条件で許可をしたのだ。

 で、リンネ達は無事ペンスの街へ着いたが、孫とその家庭教師しかいないのを見て、ラグスが考えた通りにガーネズが文句を言ったと聞かされた。リンネはルエックの国の大切な行事があると説明したが、それでも渋い表情のままのガーネズ。

「父様がもし欠席してここへ来ていたら、帰ってから周りに何を言われるかわからないわよ。父様だけならともかく、母様だって何を言われるか。国の大切な式典なのに、病気でもないのに夫婦で欠席して、とか何とか。おじいちゃんは母様がひどいことを言われても平気なの? こういうのって、死ぬまで……ううん、死んでもこそこそ言われたりするのよ。二百年記念祭の時には、あの家の主は昔夫婦で式典を欠席したらしいぞ、なんてことをあたし達の孫やひ孫が言われるかも。それで構わないの?」

 リンネの口撃は、盗賊や魔性相手に限られたことではなかった。

 こう言われてガーネズが黙ってしまったのを、リンネは「丸め込んだ」と表現したのだった。

 で、記念祭が終わる頃に戻って来たリンネ達。

 だが、二人で行ったはずなのに……数が増えている。

「リンネ、その子は?」

 こう聞いた時点で、すでにラグスはどうもいやな予感がしていたのだ。

「カードウィントっていうの。父様、彼をここに置いてあげてもいいでしょ」

 紹介の後はすぐにお願い。リンネはどこの誰でどこで会って、どんな過程で彼を連れて来たのかなど、見事に抜かしている。いつものことである。

「どこの子なんだ。見たところ、リンネとあまり年が変わらないようだが、両親は?」

「生まれて数ヶ月くらいで別れたな。ってことは、もう七、八十年くらい経つ……もっとかな」

「なん……だって?」

 出て来た数字がどうも桁違いなので、ラグスは自分の耳がおかしくなったのかと思った。

「父様、カードは狼の魔獣なの」

 何でもないような顔で、本当に気にしていない口調でリンネが説明した。

「なっ……魔物だって?」

「うん、そう」

 カード自身が答えると、さっと黒い狼に姿を変えた。いきなり目の前で変身されて、ラグスは驚きを隠せない。手品ではなく、本当に魔力でもって姿が変わったのだ。叫ばなかった点を、むしろほめてほしい。

「リッ、リンネ! どうして魔物を連れて歩いてるんだ」

「どうしてって……なりゆきよ。あと、魔物じゃなくて魔獣ね」

 娘の答えに、ラグスはめまいを感じた。どんななりゆきがあったら、魔獣を家へ連れて来るような状況になるのだ。

「彼はおじさんが思われてるような魔獣じゃありませんよ」

「ニルケ……きみがいながら、どうしてこんなことになったんだ」

 ラグスは力が抜けたように、ソファに座り込んだ。

「やっぱりオレ、来ちゃマズかったかなぁ」

 狼のカードがリンネの顔を見上げる。彼はリンネが旅をするならボディガードをする、と言ってペンスの街へついて行ったのだが、まさかラースの街まで一緒に来ることになるとは思っていなかった。

 カード自身はエクサール家にある程度まで近付いたら、そこで離れるつもりでいたのだ。

 それをリンネが「よかったらうちへ来ない?」と誘ってくれた。

 意外な申し出に驚いたが、カードはリンネのことが気に入っていたので嬉しい。しかし、素直について行っていいものだろうか。

 ニルケの方を見ると「行ってから決めても遅くないと思いますよ」と言うので、ついて来たのだ。その時の状況を見て、ということで。

「カードはリンネを助けてくれたんです。途中、盗賊に遭った時、リンネを守ってくれたんですよ」

 ペンスの街へ向かう途中のトーカの街で、リンネ達は盗賊に遭った。リンネが無謀にも捕まえてやる、などと言い出し、さらには何だかんだでさらわれてしまった。

 それをニルケとカード、その街で知り合ったダルウィンという若者と一緒に助けに行ったのである。

 色々とあったのだが、リンネがさらわれかけた時にカードが助けてくれたのだ、とニルケは説明した。

 本当はさらわれて、売られそうになるまでに話が進んでいた。

 そんなことを言うと、いくらリンネの父であり、豪気なラグスでも卒倒しかねない。

 盗賊が現れて危ない目に遭いそうになったが、カードがリンネを守る協力をしてくれた……と危険な部分は省き、ニルケは当たり障りのない部分を話したのだった。少なくとも、嘘ではない。

「カードにとっても、リンネは恩人なんです。彼が魔獣とは言っても、滅多なことはありませんよ」

「そう……なのか」

 ニルケの説明で、ラグスも少しカードを見る目が変わってきたようだ。

「オレ、全然自慢にならないけど、魔力はあっても術は使えないから」

 確かに自慢にならないが、この際、その方がラグスの心境にもいい影響を及ぼす。

「難を一つ言えば、食欲が旺盛すぎるということくらいですか」

 その言葉に、ラグスがぎょっとなる。その食欲を満たすものが何か、というのを考えてしまったのである。

「カードってば、本当においしそうに食事するもんね。料理人もきっと作り甲斐があるわ」

「やっぱりこの辺だと、魚がうまいのかな」

「何だっておいしいわよ」

 ふたりの会話からして、食事は普通のようである。ラグスは少し安心した。

「いいでしょ、父様」

 なかなかいい返事をくれない父にせまるリンネ。

「何日か行動を共にしましたけど、いい子ですよ」

 ニルケも口添えしてくれる。

「泥棒よけの番犬くらいにならなれるぜ。ケンカも負けない自信あるし」

 さりげなく、カードも自分を売り込んでおく。悪党相手なら、狼の姿でも人間の姿でも強い。それはリンネ達の保証付き。

「許してくれないなら、あたし、またこのままどこかに出て行くから。しばらく帰って来ない」

 リンネなら、やる。絶対に、やる。それはリンネを知る人なら誰でもわかる。

「わ、わかった。許可する。好きにしなさい」

 リンネの脅し文句が効いた。

「やったぁ。父様、ありがとう」

 リンネはラグスに抱き付き、両頬にキスをした。

「カード、来て。母様とラグアードに紹介するから。あ、母様の前では男の子の姿の方がいいわね」

 リリアの前でいきなり狼の姿を現したら、間違いなく失神する。弟のラグアードなら、のんびりしているし、さすがにリンネの弟と言うべきか、多少のことでは驚かない。

 リンネに連れられ、人間の姿になったカードは家族に紹介されるべく、部屋を出て行く。後にはラグスとニルケが残された。

「昔はリンネもよく捨て犬や捨て猫を拾って来たが……とうとう魔獣まで拾うようになったか」

 リンネが幼い頃拾って来た動物は、弱ってすぐに死んだり、よそのもらい手に引き取られて行った。でも、今度は他にもらい手が現れることはないだろう。

「大丈夫ですよ、そんなに心配されなくても。カードは悪い魔獣じゃありませんから」

 ニルケがフォローする。

「まぁ、ニルケが言うのだから、本当に大丈夫だろうが……」

 ラグスはニルケを信用している。何と言っても信頼する親友の息子だし、もうこの家に来て九年が経つ。その間、ニルケは確固たる信用を得ているのだ。

「ああ、問題が一つ残ってました」

「何だ。まさか熊にも変身する、なんて言うんじゃなかろうな」

「いえ、カードはリンネの性格によく似てるんです。これからますます賑やかになるでしょうね」

 ラグスはそれを聞いて、ソファからずり落ちた。

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