表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢様にピンチなし  作者: 碧衣 奈美
第二話 銀の木の実と魔物の棲む島

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/149

島のヌシ

 リンネとカードは走りにくい砂浜を走り、声が聞こえた方へと向かっていた。しばらく走っていると、呻き声のような音がリンネの耳にも入ってくる。

「ねぇ、カード。やっぱり砂浜のどこか……なの?」

「うん。あっちの方、何か群がってる」

 立ち止まったカードの示す方をリンネが見ると、何かに群がっている黒っぽい鳥の群れがいた。海鳥だろうか。エサになる何かに群がっているのだろう。声はそちらから聞こえてくる。

「リン、行ってみる?」

「うん。あの二人じゃなさそうだけど、ここまで来たら、ちゃんと確かめないと気がすまないもん」

 近付くと、二、三十羽はいそうな鳥達がやけに大きなものに群がっているのがわかった。その大きなもののあちこちを、鳥達はついばんでいるのだ。

「サメかクジラでも陸に上がってきてるのかしら」

 まだ少し距離があるので、鳥達が何に群がっているのかは見えない。感じからして魚ではなさそうだが、他にこれといって思い当たらなかった。

「あれさ、オレの間違いじゃなかったら、人間の形してるみたいだ」

「ええ? だって人間にしたら大きすぎるわよ」

 遠目で見た限りでも、馬二頭分の大きさはありそうだ。いくら長身でも、人間の域を超えた大きさ。

 リンネは信じられず、疑問を解明すべくそちらへ近付く。その臆することない様子に、ダルが言った通り、本当に怖いもの知らずだなぁ、とカードは思った。

 リンネが近付くと、鳥達はいきなり一斉に飛び上がる。その羽ばたきで砂が舞い上がり、リンネは目を閉じて顔を手でかばう。

「うううっ……」

 鳥達についばまれていたものから、低い声がした。さっきから聞こえていた声だ。

 魚が声を出すはずがない。いや、探せば広い海の中には鳴く魚もいるだろうが、呻く魚はあまりいないだろう。

 鳥がいなくなり、ようやく全貌が見えた。

 カードの言う通り、そこに見えたのはうつ伏せではあるが、確かに人間の形。

 しかし、その大きさは……予想はしていたが、やはり普通の人間ではない。

 横たわっている人間形のそれは、二階建ての家のそばに立てば、頭が屋根よりも高い所に来るであろう大きさ。つまり巨人だ。巨人のサイズとして、これが普通なのかどうかはわからないが、とにかく人間にはあり得ない大きさ。

 あの鳥達が群がっていたのは、巨人の身体だったのである。くちばしでつつかれ、あちこちから出血していた。無事な所を見付ける方が大変だ。これではどんなに丈夫であっても、呻きたくなるだろう。

「大丈夫? 鳥は逃げたわ。しっかりして」

 リンネは頭の方へと走り、砂に手をついて巨人の顔を覗き込む。顔だけで、リンネの身体の半分はありそうだ。

 ここにニルケがいたら、絶対に近付かないようにさせるよな。……オレもそうした方がいいのかな。

 ちゅうちょなく巨人に近付くリンネを見て、カードは少し悩む。だが、巨人が襲って来そうな様子はなかった。少なくとも、すぐに動ける状態ではない。

 巨人に髪はなく、カードより薄い褐色の肌。腰回りにかろうじて布が残っているようだが、ほぼ裸。ゆっくり上げた顔の表情はよくわからない。目が白く光っているのだが、その目には瞳がない。故に、どこを見ているのか判断しかねる。

 リンネに声をかけられ、巨人は少しずつ身体を起こした。

「あの鳥どもは……」

「よくわからないけど、逃げたわ」

「逃げた? まさか……あの鳥は魔物がのり移った鳥だ。お前のような少女に怯えて逃げたと言うのか」

 そんなことを言われても、逃げたものは逃げたのだ。

「とにかく……助かった」

 身体を起こし、砂浜に座った巨人は長く息を吐く。巨人はジーブと名乗った。

「ねぇ、身体、痛いんじゃない? この島に薬になるものはあるかしら……」

 少しの傷なら服を少し割いて包帯にしてもいいのだが、相手は身体が大きい上に、傷も一つじゃない。そんなことをしたらリンネの服がなくなってしまう。いや、なくなっても足りない。

「いや、いいんだ。すぐに治る」

「わ……すげーや」

 横でカードが感心したような声を出す。確かにジーブの言う通りだった。あちこちあった傷が、見ている間に治ってゆくのだ。出血は止まり、傷が消えてゆく。

「なるほどね。薬はいらないみたい」

「そんなに力があるのに、どうしてあんな鳥が追っ払えないんだ?」

 ジーブの傷は、二人が感心しているうちに全て消えてしまった。これだけの治癒力があるなら、魔力もそれなりにあるはず。魔力が大したものでなかったとしても、その太い腕を振り回せば、魔物が乗り移った鳥相手でも追い払えそうなものだ。

「私の力の源になる石を失ってしまった。それがないために、この島は魔物が棲み付く島になりはててしまってな……」

 そう言えば、タファーロが話していた。自分が生まれる前は、魔物の島ではなかったらしい、と。

「あの鳥は普通の海鳥だが、肉体を持たない魔物に操られている。そして、私を襲うようになった。私の身体は見ての通り、治癒能力が高い。あいつらについばまれてもすぐに治ってしまう。だから死ぬこともできず、傷ができる度に苦しまねばならなかった。力の石がなければ、あんな鳥すら払うこともできない」

 上空や少し離れた海の上で、さっきの鳥達はまたジーブを襲うチャンスがないかと狙っているようだ。

 魔物は肉体を持たない。海鳥はいくらでもいる。ジーブが振り払ったとしても、取り憑かれた海鳥の代わりはいくらでもいて、魔物本体は傷一つ付かない。延々とジーブを襲い続けることができるのだ。

「それじゃ、ジーブの力がなくなったから、ここは魔物の棲む島になったの?」

「ああ。ざっと百年には、いや、もう少しなるか。どこから来たのか、私の力がなくなったのをいいことに魔物が棲み、元々海流の加減で人間は近付かなかったが、魔物のせいでさらに近付かなくなった」

 カードは閉じ込められて三十年と言ったが、こちらの方は三倍以上だ。

「どうしてそんな大切な石を失ったのよ」

 力の源というのなら、命の次に大切なものではないのか。

「海鳥が謝って飲み込んでしまってな」

 話を聞くと、どうやら何かの拍子で海鳥がその石を飲んでしまったらしい。ジーブにすれば、最悪の偶然。

 その鳥は島から陸地へと飛んで、どこかで排出。その後、たまたま見付けた人間がそれを磨いたりして売りに出す。そして色々な人の手に渡って……今はどこにあるのか。

「力の源ねぇ……」

「その石には、魔除けの力もある。そのせいもあって、石の力が失われた途端に魔物が島へ来たんのだろう」

 魔除けかぁ……え、魔除け?

 リンネとカードは顔を見合わせる。

「あの、その石はどんな感じの石?」

「白い小さな石だ。ぼんやりと光っていて、私の爪の半分にも満たない小さなものだ。リンネの手でも包み隠せる。そんな小さなものが源なのだから、私の力も知れているがな」

 魔除けの石なんて、いくらでもある。が、ジーブの話を聞いていると、最近見た物とものすごーく似ている気がした。

「あのね、もしかしてこれじゃないかしら」

 リンネが服の下から、白い石のペンダントを取り出した。

「ああっ、それはっ……」

 ジーブの驚きようから見ても、この石の持ち主が彼なのは間違いなさそうだ。

 石を失ったのが偶然なら、戻って来たのもとんでもない偶然。

「頼む、私にこれを譲ってくれ。命とこの石以外なら、私の持つ物は何でもやる」

「何か持っていそうには見えないけどなぁ」

「いらないわよ、お礼なんて。持ち主が見付かったら、ちゃんと返してあげるつもりだったんだから」

 リンネは首からペンダントを外し、巨人に渡した。ニルケやベイジャにも約束したが、リンネは本気で自分のものにしようなんて思っていなかった。

「ごめんね、持ちやすいようにペンダントにしちゃったの。できるだけ傷は付けないようにしてもらったんだけど」

 リンネは自分の身体の半分は楽に掴めてしまいそうな巨人の手に、ペンダントを置いた。

「ああ……本当に私の石だ。もう戻らないとあきらめていたのに……」

 ジーブは大切そうに、両手でペンダントを包み込んだ。

「ありがとう……ありがとう。これでこの島から魔物を追い出せる」

 力の源である石を取り戻したジーブは、色は変わっていないのだが、心なしか身体が光っているように見えた。

 石を持ち、ジーブは両手を胸の前で組んだ。すると、何だか足下が今までよりも少し暖かくなってきたような気がする。

 海の上で鳥が騒ぎ出した。森の方も何だか騒がしい。

「何……どうしたの?」

「ジーブがあの石の力で、この島の魔物を追っ払ってるんだ」

 カードに言われて空を見ていると、海鳥から黒い煙のようなものが現れた。

「あれがジーブをついばんでた正体さ」

 海鳥の身体から次々に煙は出て行き、どこかへ逃げようとする。だが、島の方から急に強い風が吹き、煙は掻き消されてしまう。

「あ、消えちゃった。逃げたの?」

「いや、魔物の最期。一番低級だけど、一番やっかいなんだよな、あいつら。何にでも寄生するから。けど、きっかけ一つですぐに死ぬ。風に消されたから、もう大丈夫だ」

 カードの説明を聞いているうちに、今度は森の中から獣の悲鳴のような声。

「今度は何?」

「森にいた魔物を消してるんだ。これであの二人がもし森にいても、どうにかなるよ」

「そうなの? よかった。……ねぇ、あの石って魔除けでしょ。魔物を寄せ付けないってことはわかるけど、魔物を消したりできるものなの?」

「そこはジーブの力だよ。石の力と相乗効果でってところかな」

 しばらく悲鳴が響いてうるさかったが、徐々に森は静かになっていった。

「ああ、やっと元通りだ。これで私の島に戻った」

 落ち着いた声でジーブはつぶやいた。海上では元に戻った鳥が鳴きながら飛んでいる。

「私の? じゃあ、この島ってジーブの島なの?」

「私しかいないので、そう言っているだけだ。棲み始めて五百年は経つか」

 他にいるのは、海鳥や森にいる虫くらいのもの。この巨人は島のヌシ、ということだ。

「まさかヌシみたいな奴を助けるなんてな」

「本当にそういう存在っているのね。あ、そう言えば、どうして浜には魔物があまりいなかったの? あなたの周りには海鳥がいたけど、他の魔物っていなかったわよね」

「あの森のように、暗く湿った場所が奴らのテリトリーになる。海の塩は、あのような低級の魔物にとっては毒になるから出て来ない」

 塩には悪しきものを清める力を持つ、というのは聞いたことがある。それは本当だったのだ。

「取り憑いた魔物はその海鳥が海に住める体質だから、問題がなかったのね。とにかく、この島から悪い魔物は消えたってことでしょ。よかったわね」

「この石を持って来てくれたおかげだ」

「役に立ててよかったわ」

 この巨人のために、と持って来た訳ではないが、結果オーライ。

「次は私が役に立ちたい。そもそもリンネ達はなぜこの島へ来た? ここには魔物がいると聞いてはいなかったのか?」

 今はニルケがそばにいないので、リンネが事情を説明する。二回もニルケが説明するのを聞いていたので、リンネは横道にそれることなく無事に説明できた。

「銀の実か。確かにそれはこの島にある」

「本当? やったぁ」

 島のヌシが言っているのだから、間違いない。

「そこまで案内しよう。それならば私にもできる」

 ジーブはひょいとリンネを自分の肩に乗せた。

「きゃあ、すごーい。高いし、楽だし、気持ちいい」

 塀を乗り越えたりする程なので、リンネは高い所は平気だ。しかも動くのだから、面白くないはずがない。

 はしゃぐリンネを乗せて、ジーブが歩き出した。その後ろをカードがついて行く。

「リン、はしゃいで落ちるなよ」

☆☆☆

 目を開けると、明るい光が入って来る。眩しくて目を閉じ、それからもう一度ゆっくり目を開けた。

 森の外へ放り出された……か。

 ダルウィンは身体を起こし、周りを見回す。どこをどう移動したのか、森を少し離れた所にいる。目の前にはぬかるみが池のように一面に広がり、その中央には低いが岩山のような島がある。

 何が起こったのかよく理解できないが、とにかく魔物の手からは逃れられた。危ないところを、あのいきなり現れた穴のおかげで助かったのだ。

 身体はどうしようもなく泥だらけになっているが、命があればそれで充分だ。海に入れば、泥なんてすぐきれいに流される。

 横を向くと、同じように泥だらけのニルケが倒れていた。左肩からは出血が続いている。

「ニルケ、おい……ニルケ」

 傷には触れないよう、ニルケの身体を揺する。しばらく何の反応もなく、ダルウィンは少々焦ったが、やがてまぶたがかすかに動く。

「う……ダルウィン?」

「ああ、俺だよ。わかるか?」

「魔物は……ぼく達は助かったんですか?」

「ああ、俺達の運も捨てたもんじゃないぜ」

「お互い、ひどい格好ですね」

「傷は痛むか?」

「この格好以上にひどいものです」

 ダルウィンはとりあえず、自分の袖を破ってニルケの傷を止血する。早くまともな手当てをしたいが……せめて傷口を洗えたらいいのだが、どう見てもそういうことができる環境ではない。

「あれは……もしかして実がなってませんか?」

 ニルケに言われ、ダルウィンは振り返った。

 ダルウィンもさっき見た、ぬかるみの中央にある岩でできたような島。そのてっぺんに細く白っぽい木が一本あり、枝に小さな実がなっているのだ。

 その色は……期待のしすぎでなければ銀色。

 まるで鈴が取り付けられたように見える。あの木が動けば、鈴の音色が聞こえてきそうだ。陽に当たってきらきらと光っている。

「……そうだぜ。おい、やったな。探していた実を見付けたぞ」

「あとはリンネを見付けるだけですね」

 今ここにリンネがいれば、大喜びしているだろう。その顔も浮かんでくる。あの元気な少女は無事でいるのだろうか。

「せっかく探し物の一つは見付けたんだ。あれをもらってからリンネを捜しに行こうぜ」

 ダルウィンはぬかるみへと近付いて行く。

「どうする気です、ダルウィン」

「決まってるだろ。あの実をもらって来るんだよ。リンネを捜している間に木が消えたりしたら困るだろ」

 ダルウィンはぬかるみに足をつけた。だが、足はそのままずぶずぶと沈んでしまう。

 どこまで沈むかとやってみたら、どこまでも沈んでゆく。片足が全て入っても、まだ底には達しない。

「おいおい、どれだけの深さがあるんだよ」

 ダルウィンは重くなった足をどうにかして抜くと、周りを歩いて長い枝を探してきた。それでぬかるみの深さを測ろうとしたのだが、ダルウィンの身長よりも長い枝が全て入っても、まだ底についたという手応えはない。

「こいつ……もしかして底無し沼か」

 もしかしなくても、これは底無し沼だ。こんな所に入っては、命がいくつあっても足りない。

 木はすぐそこに見えている。だが、ジャンプして届く距離ではない。どれだけ大股になっても、十歩以上は必要だ。こんな泥では、泳ぐなんてことも無理。

 ニルケの移動魔法で、と一瞬思ったが、肝心の本人はとても魔法を使える状態ではない。自分の傷を治すための治癒魔法も使えないのだから。

「ここまで来て、おあずけか。冗談じゃないぞ」

 だが、どう足掻いても、ダルウィンには無理だ。普通の人間にここを歩くことはできない。

「すぐそこに探していたものがあるのに……」

「ダルウィン……」

 ニルケが力のない声で呼んだ。

「どうした?」

「誰か……来ます」

 ニルケの言う方を見ると、確かに人影のようなものがこちらへ近付いて来る。少し妙な形ではあるが、かなり大きな人影だ。あれも魔物の仲間だろうか。

 剣はあるが泥にまみれ、数多の魔物を斬っていたので刃がこぼれてしまっている。相手をすることはできるだろうが、これでは心許ない。と言って、短剣なんかではなおさらだ。

 まずは隠れて様子を見る方がいいのだろうが、ニルケを動かせない。かなり身体が参ってしまっている様子だ。

「くそっ……せっかく木の実が見付かったのに手が届かないわ、新手が来るわ」

 グチりたくもなる。あと一歩なのに、どうにも踏み出せない。

 向こうから狼の遠吠えがした。人影のそば、足下にいるのが見える。

「こんな島にも狼がいるのか……って狼? まさか」

 ダルウィンは、もう一度目をこらしてよく見た。

「おーい、ダルウィーン」

 妙な形をしていると思ったら、かなり大きな人間の肩に別の人間が乗っているのだ。

 そして、肩の上にいる人間が手を振る。あの声はリンネだ。

「リンネ? おーい、リンネかぁ」

 ダルウィンも叫び返した。

「リンネよーぉ」

 返事する声は確かにリンネだ。一瞬、魔物が化けているのでは、とも疑ったが、それはないだろうと思い直す。こんなに目立つような登場の仕方を、魔物がするとは思えない。本物のリンネだからこそ、あんな大男に乗ってこちらに手を振る、なんてことができるのだ。

 やがて、リンネを乗せた巨人が着いた。遠くから見ても大きかったが、近くに来るとなお大きい。家が歩いて来たみたいだ。

「ダルウィン達も森を出て……え、ニルケッ、どうしたの」

 血と泥にまみれたニルケを見て、リンネは急いで駆け寄った。

「ちょっと不意を突かれてしまったんですよ」

「もうこの島に魔物はいないわ。これ以上の傷は増えないからね」

 リンネは片方の袖を惜しげもなく破った。それを傷口に当てる。リンネの服は泉で泥を落としたから、二人のものよりずっときれいだ。

 さらに残った片方の袖も破り、ニルケの顔を拭く。

「ねぇ、ニルケの傷、治せない?」

 リンネはジーブの方を向いて尋ねた。

「すまない。私は自分の治癒能力が高いので、他のための治癒魔法は使えない」

「そっか。あれだけ簡単に治れば、そんな魔法はいらないわよね」

「いいですよ、リンネ。少し楽になったみたいです」

 心配させまいと、ニルケが薄く笑った。

「それにしても、リンネは誰とでも友達になれるんですね」

 一緒に行動しているのだから、敵対はしていないはず。カード以外にも人間ではない存在と友好関係が結べるとは、驚く他ない。

「あ、彼? あの魔除けの石の持ち主だったの。ちゃんと返したからね」

「はいはい。わかりました」

「リンネ、銀の実はあそこにある」

 巨人の声に、リンネはそちらを向いた。さっきまでダルウィンが見ていた、ぬかるみの中にある岩山。その頂上に立つ木。その枝には、小さな銀の実があった。

「へぇー、話には聞いてたけど、あれがそうなのか」

 カードも話のみで、実物を見るのはこれが初めてだ。

「だけど、あそこまで行くのは難しいぞ。なんせここは底無し沼なんだから」

 すでに試してみたダルウィンは、見事に汚れた自分の足を見せる。他の部分と違う色の泥がべったりとついている。

「ええっ、どういうこと?」

 リンネはジーブの顔を見た。

「そういうことだ。あの実は、手に入れるのがとても難しい」

 この島まで来るのも難しかったのに、まだ問題が残っているのか。

「リンネは私の石を返してくれた。だから、泥を固め、あそこまで行けるようにしてやる。しかし、私ができるのはそこまでだ。その後はリンネ次第」

「あたし次第? だってあそこまで行けるようにしてくれるんなら、手に入るんじゃないの? まだ何かあるとか……」

 ジーブが魔除けの石を失って魔物が棲み出す前、何人かの人間があの銀の実を取りにやって来たことがある。その頃、ここはまだこれ程にぬかるんではいなかった。

 しかし、岩山に着いても銀の実を手に入れられず、たとえ手に入れてもこちらへ戻って来たら銀でなくなった、ということもあったという。別の実になってしまったり、枯れてしまったりと、まともな状態で手に入れた者はなかったらしい。

 そこまでは話してくれたが、なぜ手に入らないのかをジーブは教えてくれない。

「つまり、この銀の実を手に入れた人は、過去にいないって訳?」

「私がこの島に棲むようになってからはな。それ以前にはいたようだ。成功するかどうかはリンネにかかっている。あの木は人を見ているのだ」

「責任重大ねぇ」

 でも、ラグアードのためにどうしても必要なのだ。呪いを解くというあの銀の実が。

「考えても仕方ないわね。いいわ、歩けるようにしてくれる?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ