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お嬢様にピンチなし  作者: 碧衣 奈美
第二話 銀の木の実と魔物の棲む島

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魔物のいる島

 この日はもう陽も暮れたので、リンネ達は近くの宿屋で泊まることにした。

 食事も終わり、明日の話になる。

「リンネは待っていなさい。魔物がいると聞いたのに、わざわざそんな所へ出向くことはありません。ぼくとカードで行きます」

「いやよ。あたしの弟の問題なのよ。なのに、人に任せっきりであたしがお茶を飲みながら待っていられると思う?」

 タファーロからさんざん脅かされたにも関わらず、リンネは行くと言ってきかない。

「ニルケ、俺が口を出す筋合いじゃないとは思うけどさ、連れて行った方がいいんじゃないかな。リンネならどこかの舟を拝借して、一人で漕いででも行くと思うぞ」

 リンネとニルケの口論に、ダルウィンが口をはさんだ。

「うん、オレもそう思うな。リンは絶対にじっとしていない」

 カードも同調した。

「確かにぼくもそうは思いますけれど……」

「……それって行動力があると褒められた、と思ってもいいのかしらね」

 素直にはそう思えない。

「大丈夫よ。あたし、魔除けのペンダント持ってるもん」

 リンネは十日程前に細工してもらった、白い石のペンダントを見せた。何か起こるかも知れない、と思って持って来たのだ。

「それ、ラグアードにも一度かけていましたね。何かと思ったら魔除けだったんですか」

「リンネ……それってもしかして、トーカにいた盗賊の持っていた物じゃないのか」

 リンネ以外、実際に盗賊が持っていたという魔除けの石を見たことはなかったのだ。ただ、持っていた、という事実を知っているだけ。

「あ、ダルウィン、よく覚えてたわね」

「リンネッ! 盗賊の持ってた物をずっと持っていたんですかっ」

「お、怒らないでよ。あたしだって思い出したのが、家に戻ってからだったんだもん。持ち主が現れたらちゃんと返すわよ」

「当たり前です。盗賊の持っていた物を持っているのがわかったら、リンネも同罪になりますよ」

「だから、返すってば。ばあちゃんとも約束したもん。とにかく、これがあるから魔物が出て来ても平気よ」

 ニルケは溜め息をついたが、こんなことでもめている場合じゃない。

「……わかりました。でも、あまり突飛なことはしないでくださいよ」

 とにかく、リンネを止めても無駄であるのはニルケもわかっている。

「なぁ、ニルケ。俺が加わっても、大丈夫だよな」

「ダルウィンも行くんですか?」

「リンネ、いいだろ」

 ほとんど行動隊長になっているリンネに、ダルウィンが許可を求める。

「あたしはいいけど……無理して来てもらわなくても」

「無理なんてしてないさ。ここまで関わったからな。それにここで置いていかれると、のけ者にされた気分になるからさ」

「ダルも物好きな奴だな」

「まぁね」

 こうして、ソイル島にはこのメンバーで向かうことになった。

☆☆☆

「ここ、本当に魔物がいるの?」

 周りを見て、リンネは誰に言うでもなくつぶやいた。他の誰もが同じ感想を抱く。

 次の日の朝、ニルケの移動魔法で、銀の実があるらしい、というソイル島に着いた。

 四人が現れたのは砂浜なのだが、白い砂の海岸線が延び、波も穏やかだ。人が来られない場所だからゴミもないし、たき火の跡のようなものもない。心地いい風が吹き、もう少し暑ければ泳ぎたくなる程だ。とても魔物の巣窟とは思えない。

「話をしていた様子では、タファーロが嘘をつくような奴とも思えない。あいつの島じゃないんなら、俺達を近付けさせないためにデタラメを言う必要もないはずだし」

「ぼく達を拒むなら、この島のことを話さなければ済む話ですしね」

「ここじゃなく、あの森にいるのかも。いかにもって感じだぜ」

 カードが島の中央を指差した。砂浜と違い、暗い雰囲気の森がある。この島のどれだけの範囲を占めているのか定かでないが、たぶん広い。

 そもそも、島全体がどれだけ大きいのかもわかっていないのだ。船で周囲を確認できればおおよその見当もつくが、船で来られないからニルケの移動魔法で一気に飛んで来た一行である。

「木の実って言う程だもんね、やっぱり木のある所になってるんだろうなぁ」

「手に入れようとする物のそばには大概、障害がくっついてるものだしな。ってことは、あそこへ入るしかないか」

 ダルウィンは視界に収まりきらない木々を見渡す。今にも森全体が腕を伸ばして襲いかかってきそうだ。

 そうでなくても、あの森の中には魔物がいる可能性がかなり高い。タファーロの言葉を借りるなら、うじゃうじゃいる。

「突っ立っていても仕方ないわ。入りましょ」

 部屋にでも入るような口調で、リンネが歩き出した。

「相変わらず、怖いもの知らずだな」

 リンネが先に行こうとするのを遮って、ダルウィンがその前を行く。

「魔除けを持ってるなら大丈夫だろうけど、行く手を邪魔する草木には効かないだろ」

 森へ入るとダルウィンが剣を抜き、歩きやすいように道を造ってくれる。おかげで後を行くリンネ達は進みやすい。

「右か左か好きな方を言ってくれ。そっちへ進むから」

「ふたりはどっちがいいと思う?」

 リンネはニルケとカードに意見を求める。

「カードは何か感じますか」

「魔物が遠巻きにしてるってのは感じるけど、木の実の気配はぜーんぜん。ここから遠いせいか、木の実だから気配なんてないのか」

「ええっ、やっぱり魔物がいるの?」

 木の実より、今はそっちの方が気になる。一体、いくつの目が狙っているのだろう。

「きっとリンの魔除けが効いてるんだ。リンには近付けないし、ついでにそばにいるオレ達にも近付けないって訳」

「そっか。ちゃんと守ってくれてるのね。ばあちゃんは直接肌に着けてないと効果はないって言ってたけど」

「それ、カードは平気なのか?」

「あくまでも、持ち主に害をなそうとする奴限定だよ。ある程度まで近付いたら、波動みたいなものがそういう奴を遠ざけてくれるんだ。まぁ、ここにいるのは低級な奴ばっかりみたいだけどさ」

 たとえ低級でも、数が多ければそれはそれで困る。とりあえず、魔除けのおかげで前には行けるようだし、なくさないようにしなければ。

「それで、どっちへ行く?」

 適当に進んでいたダルウィンが、もう一度指示を仰ぐ。

「ねぇ、ニルケは何も感じない?」

「残念ですが。カードが無理なら、ぼくではもっと無理ですよ。勘で行くなら、リンネの思う方へ行けばどうです?」

「あたしの勘で?」

「リンネの運と勘は、なかなかいいと思いますよ。魔法使い相手に、うまく家を抜け出すんですから」

 こういう所でそういう例えはやめてほしい……。

「もうどっちでもいいわ。適当に進んでよ。どうせ真っ直ぐのつもりでもどっちかに曲がっちゃうだろうし」

「目的地から離れても、後で文句を言わないでくれよ」

 結局、一任されたようなもの。ダルウィンは言われた通り、適当に切り開きながら進んだ。

「どうせ誰もわかんないんだし、どっちへ行ってもそのうち辿り着けるわよ」

「リンって楽観的に考えるなぁ」

「ここまで来たのよ。見付けられなきゃ、そんなの嘘だわ」

 これは楽観的と言うより、単なる思い込みかも……。

 一行は目的地がどちらともわからず、すでに方角もさっぱりのまま進んでいた。

 リンネの魔除けで魔物は寄って来ない。カードは近くにいると言うが、幸い他の三人にその気配はしなかった。ベイジャも言っていたが、相当強力な魔除けのようだ。

「今更こんなこと聞くのも変だけど、リンネはこんな所へ来て怖いと思わないのか?」

「思ったら来てないわ」

「見事な即答だな」

 全く怖くないとは言わないが、必要であれば行く。今はラグアードのために来なければならない。

 リンネにすれば、それだけのこと。

「リンネが怖いのは、ぼくの作るテストくらいでしょう」

「……点数さえなきゃ、怖くないもん」

 リンネにすれば、あんなものは悪趣味という他ない。

「じゃあ、やっぱり怖いんですね」

「あのねー、だからあたしは」

 突然、リンネのセリフが途切れた。誰もがハッとして見ると、リンネのいた所が地滑りを起こしたようになっていて、リンネは土と一緒に流されていたのだ。森の中を歩いているつもりだったが、地面には緩やかな傾斜がついていたらしい。足下の草を排除しながら進んでいたので、意識していなかった。

「リン!」

 カードが一番早く反応し、狼の姿に変わるとその後を追って地面を滑っていく。

「くそっ。俺が通った時は何ともなかったぞ」

 ダルウィンとニルケも一拍遅れて滑るが、すでに二人の姿は見えなくなっていた。

☆☆☆

 バッシャンと水の音がした。少し口の中に入ったが、塩の味はしない。湧き水のようだ。土に染み込んだ雨が流れているのかも知れない。

「う……びしょぬれだわ」

 リンネは水が湧いてたまっている所、よく言えば泉のような所へ落ちていた。

 固い地面だったらケガをしていただろう。それを思えば、濡れたくらいで文句は言えない。落ちたついでに、そこの水で身体に付いた泥を流しておいた。

 身体を点検してみたが、少しすり傷がある程度で骨折やねんざはしていないようだ。

 あーあ、と思っていると、後ろでバッシャンという音。びっくりして振り返ると、そこには狼姿のカードがいた。

「なんだ……カード。魔物が出たのかと思った」

「リン、無事だったな」

 カードはぷるぷると首を振って、水を飛ばした。

「あー、びっくりした。いきなり足の下がなくなったと思ったら、次の瞬間には水の中だもん。こんなに滑り落ちる程、登ってた気はなかったんだけどな。これって、魔物の仕業かしら」

「ペンダントは無事なんだろ? それなら自然なことだと思うよ」

 魔除けのペンダントは、リンネの首からちゃんと下がっている。つまり、魔除けはちゃんと働いているはず。ということは、あれは偶然に地滑りが起きてしまったのだ。

「ねぇ、ニルケとダルウィンは?」

「さぁ、オレ達の後を追ってきたのは見えたけど……落ちて来ないな。どこかでコースが変わったかも」

 二人が追って来ようとしていたのは、カードの視界の端にも映っていた。なのに、時間が経っても姿を現さないのは、他の所へ滑ってしまっていると思われる。

「それって……こういう場所ではマズくない? はぐれちゃった……」

「不可抗力だから、仕方がないよ。誰のせいでもないし、こうなったら木の実ついでに二人も捜そうぜ」

 ニルケとダルウィンは「ついで」にされてしまった。

「とにかく、こんな水たまりから出よう」

 リンネとカードは泉を出た。そこからは木々の間から森の外が、つまり砂浜がすぐ近くに見えている。滑り落ちたことで、入口付近へ戻された形なのだろう。

 降り注いでいる光が暖かそうだ。枝葉に遮られてこの周辺が暗い分、浜はとても明るく感じる。

「一度、外へ出ないか?」

「そうね。ちょっと違う空気を吸ってから、気分を変えてがんばろっか」

 すぐに意見はまとまった。水がなかなかに冷たく、少し寒くなってきたのだ。暖かそうな陽射しがとても魅力的に思え、ふたりはすぐに浜へと出る。

 いい天気は相変わらず。冷たくなってしまった身体も温まり、服も次第に乾いてきた。来た目的がもっと気楽なものであれば、ひなたぼっこでもしたい。

「魔物がいるのはともかく、人間がこんなきれいな島へ来られないなんてもったいないわね。身体を休ませるにはいい場所だと思うけど。それとも、人間が来ないからこんなにきれいでいられるのかしらね」

 リンネはゆっくり深呼吸した。

「リン、何か声が聞こえる」

 不意にカードが緊張に満ちた口調で告げた。

「何かって何? 魔物?」

「ちょっと遠くてはっきりしない。呻き声みたいだったけど」

「まさか、ニルケやダルウィンのいる方向じゃないでしょうね」

 これまで何もなかったからスルーしていたが、魔物が現れなかったのはリンネが魔除けを持っていたからだ。

 しかし、今はリンネから離れてしまったことで、ニルケとダルウィンは魔除けの効果を受けられない。つまり、魔物に襲われる可能性が高くなったということ。

「んー、森の中ではないみたいだけど」

「場所がどこであれ、もし魔物だったらあたしがそばへ行けば逃げるはずでしょ。あの二人ならどうにでもなるだろうけど、行きましょ」

 カードが声がするという方向へ、リンネはちゅうちょすることなく走り出した。

☆☆☆

 木に身体がぶつかる。とっさに身体を丸めたので、衝撃は多少なりとも逃がせただろう。それでも、痛みがじんわりと広がってすぐには立てない。

「っつうー……おーい、生きてるか、ニルケ」

 ダルウィンが、自分と同じように身体を木にぶつけたニルケの方を向く。ニルケもかなり強く身体を打ち付けたようだが、どうにか顔を上げた。

「息はしてます。……止まりかけましたけれど」

 二人はのろのろと身体を起こした。お互い、泥だらけだ。しかし、これだけで済んだのだから、まさに不幸中の幸い。

「魔物に襲われるのもいやだが、何もしないうちに森でのたれ死にするのもいやだな」

「近くにリンネやカードはいないようですね。どこで方向を間違ったんでしょう」

 周りを見ても、彼らの影らしいものはない。

「後を追ったのはいいが、ほとんど押し流されてただけだからな。泥の気紛れで、違う場所へ運ばれたか」

「カードがリンネに追い付いてくれていればいいですが」

 こんな森の中で一人になるのは危険だ。カードは魔獣だから生き延びられるだろうが、リンネは力のない女の子。魔除けのペンダントがあっても、この森でさまよう時間が長引いた時にそれが水や食料にはなってくれないのだ。

 魔物でない獣が出た時も危ない。リンネは剣を持っていないし、自分自身を守る術を待たないのだ。

「リンネも心配だが……今は自分達の心配をした方がよさそうだぜ」

「そのようですね」

 じわじわと、二人の周りを醜悪な空気が包み込む。魔除けのペンダントを持ったリンネがいなくなり、この森に巣くう魔物達が近付いて来たのだ。

 ダルウィンが剣を構えた。途端に、右横から太ったネズミのようなものが飛び出して来る。しかし、あっさりとダルウィンの剣で二つに斬られた。

「おいでなさったようだぞ、ニルケ」

「いつかこうなるのは予想していましたよ」

 後ろから、同じような魔物が五、六匹襲ってきた。ニルケはそれを火の魔法で焼き尽くす。

 しかし、安心はできない。周りには数え切れない魔物がこちらを狙っている。ネズミ程の大きさのものがほとんどだが、中には犬やねこくらいの大きさのものもいた。

 カードは低級な奴ばかりと言っていたが、こんなに数がいると相手にするのはやはり大変だ。それらの全てが、爪なり牙なりの鋭い武器を持っている。

 ニルケの出した火を見て魔物達は一瞬ひるんだが、それもわずかな間。再び次々と二人に飛び掛かった。

「くそっ……あの魔除け、本当にすごい威力だったんだな」

 なくなった途端、この始末だ。リンネが持っていなければ、森へ入った途端にこうなっていたのだろう。

 休む暇もなく、魔物は襲い続ける。仲間が殺されても気にしていない。

「どうにかここを抜け出さないと、キリがありませんよ」

 どれだけ剣を振り回し、魔法を使っただろうか。時間感覚がなくなってしまう程長く、同じことを繰り返しているような気がする。このままだと、そのうち二人の体力がなくなって、魔物のエサだ。

「俺が援護する。ニルケ、移動魔法やってくれるか? 一度森から出よう」

「その方がいいですね。わかりました」

 今までより強い炎を出して、少し魔物を遠ざける。それから、ニルケは移動魔法の呪文を唱え始めた。

 その間、無防備になってしまうニルケの前にダルウィンが立つ。攻撃魔法を使わないニルケを狙って、魔物が襲いかかった。そこをダルウィンの剣が光る。

 やがて、二人の周りに移動の魔方陣が浮き上がった。

 あとわずかで移動ができる、という時。

 ニルケの背後から、普通の犬よりも大きな魔物が飛び出した。なるたけ木のそばにいて、後ろからの攻撃は受けないようにしていたつもりだったが、相手はわずかに木の影から見えていたニルケの肩をその鋭い爪で引っ掻いたのだ。

 後ろから、しかも魔法を行っていて気が回らなかったため、ニルケはよけられずに左肩を深く傷付けられた。

「ぐっ……」

 ほぼ完成しかかっていた魔方陣は、呪文が途中で切れたために消えてしまう。

「ニルケ! こいつっ」

 すぐにダルウィンがニルケを襲った魔物を斬り捨てた。

「ニルケ、死ぬなよ」

「ぼくはいいですから……あっちの相手をしてください」

 ニルケの流れる血で、魔物達は余計に食欲をそそられたような顔になる。ゆっくりと獲物を追い詰めるように、周りから少しずつ間合いを詰めて来た。一気に飛び掛かって来られたら、ダルウィンも勝算は少ない。

「こんな奴らの胃袋に収まるなんて、俺はごめんだぜ」

「リンネに笑われてしまいますよ、こんな所で死ぬなんてドジだとか何とか言われて」

「冗談が言えるなら、少しは余裕があるか?」

「死ぬ気でやれば、一つくらいは何かできるでしょうね」

 そうは言っているが、ニルケは立っているのが精一杯という様子だ。

 じりっと魔物達が一歩近寄る。その動きに合わせ、二人も一歩引く。だが、すぐ後ろには木。もう後ろへは逃げられない。

「ダルウィン、炎を出して何とか突破口を作りますから、そこから逃げてください」

 いきなりそんなことを言われ、ダルウィンはニルケを見た。

「そういうニルケはどうするつもりだよ」

「ぼくは走れません。走ってもすぐに追い付かれます。少しでも食い止めますから、リンネを見付けてください」

 確かにこういう状態で走っても、追い付かれるのはあっという間だ。走る前からニルケは苦しそうに息を切らしている。

「自分だけ犠牲になるって? 冗談じゃない。俺に一生後悔させる気か」

「ここで二人が餌食になるよりはずっといいと思いますが」

「俺は喰われるつもりもないし、誰かをこいつらのエサにする気もない」

 ダルウィンは周りの魔物を見回し、大きな声で怒鳴った。

「おい、お前ら。来るなら俺にかかって来い。残らず斬ってやる」

 その声に触発されたのか、木の枝や地面にいた魔物が一斉に襲いかかってきた。

「おしっ、来やがれっ」

 ダルウィンが地面を踏み締め、剣を構えようとした。

 が、いきなりガクンとひざが折れた。いや、折れたのではなく、足が地面にめり込んでいる。

 そう思ったのは一瞬で、次の瞬間には足だけでなく身体全体が地面の中へ潜って行った。そばにいたニルケも巻き込まれて。さらには、襲いかかろうとして近くにいた魔物の一部も一緒に。

「うわっ、何だよ、さっきは……」

 ダルウィンの真下を中心にして、地面に穴があいたのだ。身体を支える物は何もなく、二人は底の方へと落ちて行く。

 落ちながら、二人は残った魔物達が大きな悲鳴を上げているのを聞いた気がした。

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