チカラの限り走りましょう!
目線を下ろすと、そこには見慣れた俺と言うか一般成人男性の体はなく、まるで子供のようにすべてが小さくなった体があった。さらに肌色は夏の日にこんがり焼けたような褐色で、さらりと目の前に落ちてきた髪は真っ白く柔らかな長髪だった。あと大事な事を言いたい。
胸が平らは当たり前だが「下」も平らだった!
「ギャーーーーーーー!!何じゃこれはーーーーーー!!」
口から飛び出た叫びは、やっぱり俺のイケボじゃない成人男性要素ゼロのかわいいボイスでした…
いつ俺の声優変わった??とポンコツな脳内ツッコミを入れながら、俺は股間を押さえながら崩れ落ちた。
「み、巫女様?!」「巫女様大丈夫ですかッ?!」「癒し手こっちだ!早く巫女様の元へ!!」「大変だッ、巫女様がお怒りだああッ!!早く、早く服をーーーッ!!」ざわざわ……
凍った水のような静寂に包まれていた遺跡は、俺?の叫びやらオッさん達のどよめきやら監督の的外れ怒声その他諸々によって、今は沸きたったごった煮の鍋の中のようなカオスに支配されていた…
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(嘘だろ…俺の「息子」が家出…そんなバカな話あるか?この前の飲み会で粗品とか冗談で言ったせい?)
股間を押さえながら失意に横たわる。そんな悲しみの全裸な俺に、手早く毛布のような布を巻きつけ颯爽と抱き抱えたモヒカン、マジ有能感ハンパない。ついでに胸圧ハンパない。優しく抱かれてるとは思うんですが頬にあたるお胸はカッチカチです!まあ、オッさんの胸がふんわり柔らかくても全く嬉しくないですけど…
監督達が円陣を組み、何か相談している。ヨシっと話が纏り、監督はモヒカンに近くの村に場所移動すると伝える。うなづき、ちょっと軽くトントンと跳ねるモヒカンと思ったら爆走が始まった。集団暴走だ。遺跡を抜け、夜闇のジャングルを監督を先頭に俺を抱いたモヒカン、その他大勢のオッさん達が猛牛のように走り抜ける。ところ所に光る石を頼りにモヒカン徒歩(走ってたけど)10分くらいで小さな集落についた。
「村長ーッ!村長の家はどこだーッ!!」
監督が吠えるとわらわらと村人が高床式住居から出てきて、少し奥まった先にある比較的大きな高床式住居を指差した。
「あ、あちらです…」
年老いた男が先導し、村長の家に辿り着く。
「村長、お役人様…「おいッ!今すぐに寝床を準備しろッ!!我が国の一大事じゃあああッ!!!!」
監督が物凄い形相でセリフ被ってきた…こわ…
まだ一言も発していない村長だったが、監督の鬼顔に国の危機ならぬ我が身の危機を感じて即行動を開始した。部屋の奥で奥さんや娘さんみたいな人達とガサガサやっている間、モヒカンは抱き抱えた俺を気遣いながらそっと床に座り、遺跡から走りっぱなしで切れた息を沈めていた。一方監督は若干息切れはしてたものの、怒った獅子のように俺達の周りをグルグル歩き回ってた…猛獣こわ…
「ど、どうぞ、こちらに…」
しばらくたった頃、村長が寝室に案内してくれ、木枠に薄い布団が乗ったどこか東南アジア風の寝床に寝かされた。なかなかお固めな寝具だったが、ファサリと被せてくれた上掛け(ただの布だが)からお日様の匂いがしてなんだか安心した…のも、束の間、また見知らぬ筋骨隆々腕に激しい刺青の白髪オッさん略して刺青が現れ、無表情で上掛けの中に手を突っ込み首や胸などを弄った!
「ヒャッ!ちょ!…や、ア、ヒャッヒャヒャヒャッハーッ!!」(やだ!!どこ触ってんのー?!)
あ、エッチなお触りではありませんでした…
「…ふう、どうやらお身体に異常はないようですね。天からお降りになる際にお疲れになられたのではないでしょうか?」
刺青はお医者様のようでした。最後は脈を確かめるように手首をそっと押さえて、そう監督に報告した。
「んん、そうか!お前がそう言うなら間違いない!」
怒れる獅子顔から優勝監督顔に戻った監督がガシッと刺青の肩を掴む。無表情だった刺青の表情が少し揺らいだ。多分、あのガシッはめちゃくちゃ痛かったんだろうな…後ろにいるモヒカンも若干引いてるもんな…
「…そうだ、念のため疲労回復の癒し風を当ててくれ!巫女様がご安心してお休みできるよう最高の風を頼むぞ!」
ぽんっと手を叩くいい事思いついたアクションをとりながら監督が刺青に命令した。
「はい、我が腕にかけて最高の風を…」
立ち上がった刺青がすううっと深くと息を吸い、まるで映画の中国拳法の気をためる動作みたいに両腕をゆっくり引いて腰で止める。こちらを見据えて…、
「な、なん…?!」
「ハアアアアアーーーッ!!!!」
ーーー気合いで刺青が手からなんか光るヤツ出した…!
「光るなんか」が俺に当たった瞬間、ブワッと息もできないような強い風が一瞬吹き荒れる。
「〜〜〜〜!!!!……??」
一瞬だった…。本当に一瞬だった…。
しかも、強風が吹き荒れたはずなのに、室内にはそんな強風が吹き荒れた様子がひとつもなかった…その証拠とは言わないが、薄い上掛けは少し捲れた程度で俺の体にのったままだった。
台風だと思った?じつはドライヤーの風です!みたいな、あれ?これドッキリです?みたいな…一体、何が起こったのだろうか…
「拙い風ですが、巫女様のお力になりますように…。」
ぽかーんとしている俺に、謎ポーズな一礼し刺青は後ろに下がっていった。
「うむ、これで一安心だな。」
満足気にうなずく監督に疑問その他色々と物申そうとしたら、突然意識が落ちた…
気遣いモヒカン、よいモヒカン。モヒカンに惚れそう。
あと村長空気ですまんかった。
全ては監督が悪いんです。ごめんな…
俺くんは一体いつまで俺くんなんでしょうか…
いっそ、このまま俺くんでもいいんじゃない…?とか思い始めてまいりましたよ!(冗談です)
そろそろみんなの名前出しますね…