チカラの限り頑張っていきましょう!
―――お父さんお母さん、お元気ですか?
なんやかんやで実家を離れた夏のあの日から、肌を撫でる風に秋の深まりを感じるこの頃、そちらはいかがお過ごしでしょう?風邪などひいてはございませんか?
ああ、こちらはご心配には及びません。風邪などどこ吹く風、それはもう、全身に漲る活力が目に見えると周囲から大称賛されている程度に元気ですので…
なんと言うか肉体が。超レベルで。すんごく元気です…
なんでこんな事になってしまったんでしょうか…
確かに我が家の合言葉、健康第一!元気が一番!は、しっかり守られておりますが…
んんんんー、やっぱお元気じゃないです!!
心がーーーッッッ!!!!
もうムリ!!ヤダー!!!!
『そっち』に帰りたあああああいぃぃィィィィ!!!!
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ブルリッ
無意識に身震いひとつしたらふと目が覚めた。
ぼんやりと目蓋を開くと、自室がいつもより暗い。目を慣らすように軽く瞬きをするが、まだ完全に覚醒しきっていないせいかハッキリしない。
(ーーーあー、今何時だろ…?)
この暗さはまだ朝ではないはず。今日は朝からバイトだし、できるならもう少しだけ惰眠を貪りたい。目覚ましなるまで寝たいは世の常、なんて誰にする訳でもない言い訳をふわっと考えながら、瞬きでも慣れない視界を手で塞ぐ。
…塞いだ視界に反して身体は朝を意識したのか、体の感覚が少しづつクリアになる。
…ん、あれ、頭が少し痛い。これ、もしかして熱があるヤツかな??身体もどこか冷えて固まったようなぎこちなさを…
「…え?」
本当に身体が冷えてた。
ぎこちなさを感じてゴロリと寝返りを打った視界の先には、墓石みたいなツルッとした石。
ーーーそう、部屋で惰眠を貪っていたはず俺はいつ間にか黒光りした冷たい石の上で寝ていたのだった。
「ッ?!」
慌てて飛び起き、つい数時間前まで自室だった場所を見回すと、さっきまで薄らぼんやりしていた視界が急激な覚醒と共にくっきり開けた。この目覚めの一撃は衝撃だった。
目の前に形取られた世界は、自室とは全く別な場所、柔らかい布団やある程度快適に保たれたこじんまりした室内とは縁もゆかりもない、冷たい黒い石壁に囲まれた遺跡?であったのだーーー
(……はっ、マジ?)
俺はこの遺跡―小さな運動場みたいな空間―真ん中の石の上でゾワリと震えた。
心の声は正直だ。実は衝撃の驚きポイントはこの異空間だけに留まっていなかったのだった。
…何故かと言うと石の周りには沢山の人々が何重もの円を描くように座り、そしてその全員がひれ伏していたのだからだ。
わかりやすい例えは、南米とかの古代文明で生贄の儀式をしてる挿絵みたいな感じ…ってわかりにくい〜〜〜!!!!いや、俺だってそんな生贄の儀式なんて見たことないから〜〜〜!!!!でも、これそんな感じだから〜〜〜!!!!…人は驚きすぎると思考が止まるって本当ですね…この間、わずか数秒みたいな心のテロップを流しながら、驚きすぎて固まってしまった…
どうしようもなく定まらない視線でぼんやり遺跡や人々の姿を見やる。あたりにはいくつもの篝火がパチパチと火の粉を爆ぜながら、夜の闇から黒い遺跡と無言で平伏す人々を照らしていた。
不思議な光景だ。いつかテレビみた海外の祭りのようにも見えたが、この静けさは祭りのそれじゃない。
じわじわと違和感に苛まれながら、ふと目線をあげると、ーーーああ、ここは外か。
頭上には見た事がない量の星達が煌めいて、まるでキラキラと言う擬音が本当に聞こえてきそうな現実離れした星空があった。
「すげえな、なんだ、これ…」
うっかり声に出してしまう。と、同時に近くにいた人がガバッと顔を上げた。
「ひっ…?!」
目が…あった…
その瞬間、
「巫女様ーーーッ!!降臨ーーーッ!!ウオオオオオーーーッ!!」
絵に描いたようないかついオッさんが、絵に描いたような美しい星空に向かって猛々しい雄叫びを上げていた…
響き渡る野太い雄叫びは、周りにいた平伏した人々に伝染した。人々(よく見たらだいたいオッさん)は一斉に立ち上がり、天に向かって吠えた。
「「「オオオオオオオーーーッ!!!!」」」
まるでサッカースタジアムで味方が点を決めた時の言葉になっていない地鳴りのような群衆の雄叫び、まさにそれだった(但し、まわりにいる観客にあたる人数はたった50人くらいだったけど)
そして石の上の蚊帳の外、状況がちっともわからない俺は、とんでもない声量の雄叫びに恐怖でおしっこチビりそうになっていた…
(体感で)5分くらい続いた狂気の雄叫びがやっと鎮まる頃、俺が乗っかっていた石の一番近くに陣取っていた筋骨隆々のオッさんが突如片膝をつき、俺に向かって頭を下げた。それに続いて周りの天に拳を突き上げていたオッさん達も波が引くように一斉に同じ体勢をとった?
キンっと空気が冷え固まって静寂を生み出した。
あまりの静寂に、俺があまりの緊張感にゴクリッと唾を飲み込んだ音すら爆音のようだった。
心臓が緊張と恐怖でドクドクと脈打つのがたまらなく辛い。耐えきれず体に震えがくる。そろそろ歯がカチカチなりそうで涙目になった時、筋骨隆々マンが口を開いた。
「偉大なる拳神の巫女様、我が拳国へお降りくださり、」
「「「アザーーーースッ!!!!」」」一同礼
「は?」(いま何て?)
大きいオッさん(主にボディーが)達は体育会系でした。わかりやすい事は良い事ですねって、いま何て言った??体育会系感謝の言葉、アザースッに惑わされかけたけど、いま謎ワード重ねて言いましたよね??
恐怖から一転、困惑顔の俺をよそに膝づいた筋骨隆々マンは体育会系よく通る声で語りはじめた。
「我々の長年の悲願は今この時達成されました。120年前に三代目様がお役目を果たされた以来、我が国は拳神様のお声が届かなくなり、徐々に国力は衰退の一途…領地は常に隣国に脅かされ、辺境の村などは戦争と言うよりは侵略されるがままの酷い有様でした。だがそんな苦境の中、とうとう御心の兆しが現れ、巫女様がこの地に降り立ったのです!!貴き拳の巫女様!!どうぞこの拳国の要となり、非力な我々を導き下さいま…せ…うっ…グスッ」
一息に情報を浴びせかけた筋骨隆々マンはとうとう感無量になった!甲子園の優勝監督みたいに!
…いやいや、そうじゃなく…
「すいませ…んん?!」
先生ー!今、唐突に気がついた事がありまーす!
ハイ、どうぞ!
「あの、俺の声、なんか変なんですが…?」
「「「????」」」
俺を含め全員がハテナ顔になった。
「…巫女様?もしかしておかげんでも…?」
筋骨隆々マン改め監督の隣にいた、筋骨隆々モヒカン頭略してモヒカンが気をきかせて口を開く。このモヒカン、モヒカンの割には良いモヒカンみたいだ(偏見)
「な、なんだってーーーッ??!!ハッ、大変だああッ!!!!誰か、誰か巫女様にお召し物を!!!!」
監督が大事な事に気付いた…
俺も気付いた…
「全裸じゃん…」
ーーーそして自分が自分じゃなかった事に。
はじめて連載小説を書いたので少しずつ進めていきますー(鈍足更新
次回、俺くんの詳細が出ます。
ヤッター!俺くんの名前つくよ!
改稿追記
大した修正じゃないけど国名のふりがなをカタカナに統一しました。特に意味はありませんw