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9話  テルルの闘い

呪いをかけられたオレは武器を持つとレベル1 




戦士の道は閉ざされた、しかしそれでも鍛錬に明け暮れた。




あるとき森で重傷を負ったオレを助けてくれた美しい貴族の少女は




武器を持たないオレの強さを見つけてくれた。








これは武器をうまく扱えない庶民冒険者と




冒険を夢見る美しい貴族の少女が




気付けば、究極の体術と、至高のヒーラーへの道を歩む物語



7月1日 朝 不思議なくらいぐっすり眠れた


緊張感はある、でも恐怖はない、


「テルル、ちゃんと食っていけよ」


クロムさんはいつもと変わらない・・・

そう努めてくれている。


魚介のスープを口にする 温かい おいしい

ゆっくり食事をすませ、落ち着いている自分を確認する


うん、大丈夫だ!


「もう行くのか?」


「はい、決闘開始までは個室が用意されます、そこで過ごします」


「そうか、じゃあ行ってこい、オレは・・・」


「クロムさんはここで待っていて下さい、

 私、ここに帰ってきたい」


「ああ、分かった、ならここにいる」


「ありがとう」


テルルはオレの頬にキスをした

えへへ、と照れたように笑う彼女を見て

そうされることが、心地よいと感じていた。





「ふん、あと1時間でいよいよ決闘開始だ、、皆、油断するんじゃないぞ」


「ああ、分かってる、分かってるけど、しかしフランシウム 

 向こうは1人なんだろ?オレ達は4人、いくらなんでも負けることなんてないさ」


「そうですわ、フランシウム様、それにわざわざ今回テルル様を

 1人にするまでの必要もなかったのでは?」


「私もそのことをお聞きしたくて、

 テルル様のパーティメンバーは先日フランシウム様が

 圧倒なされたあの男でありましょう?であれば、実力差は明白

 わざわざ孤立させなくとも」


「いや!、ダメだ!、あの女にはそれだけではダメなのだ、

 上位貴族であるこのボクに対してのあの態度、

 力で勝つだけでばく、権力の差も見せつけねば気が済まぬ、

 ボクの言葉には従うほかないのだと、分からせるのだ!」





サマリウム王国 王都ユウロビウムの貴族達は沸き立っていた


ここは 王 プロメチウム8世の王宮 その中にある闘技場 

これから行われる決闘に立ち会うため、29ある王家、貴族家の

各当主そしてその後継となる者など、50名以上が集まっていた


決闘による命の奪い合いを禁じてはや100年、

そして、今回の準決闘も、この10年の間、行われていなかった


集まった者達は噂している、

これから戦う血気盛んな若者達のこと

そして血が騒ぐ、長い平和によって戦いの場から遠ざかっている自分達の

本来の姿を想像して、

それは王とて同じ、戦いを知らぬゆえの戦いへの憧れ

それは生涯を通じてレベル3にとどく貴族がその半数にも満たないことをみても

それはあきらか


「話によりますと、申し込んだのはダームスタチウム侯爵のご息女とか、

 なんともはや、驚きましたな」


「まったく、まったく、しかも上位のモスコビウム公爵のご子息への 

 決闘の申し込み、これはどうなりますか、刮目して見ましょうぞ」


「おお、モスコビウム家のご子息が先に入られるようですな、

 ほーー、4人のパーティですか」


「ふむふむ、なかなかに立派な装備、美しいですな」


その煌びやかな姿、装飾の施された武器、

会場の者すべてが、息をのんだ



「支援強化魔法を唱えておけ」


「え?、そ、それではルール違反に・・・」


フランシウムは仲間の魔法使い2人に指示する

しかし、それに困惑する魔法使い2人、

そう、戦闘前にその準備はルール違反!しかし、


「大丈夫だ、とがめられぬよう、話は通してある」


どこまでも卑劣 この男、狡猾


そしてそのころ、別室で控えるテルルに定刻の知らせ、

そして案内される、罠を張りめぐらせて待つその男のところへ!




「あれをご覧に、いよいよダームスタチウム家のご息女の登場ですぞ!」


会場から歓声が沸き上がる

ここは直径50メートルほどもある円形闘技場

その扉を開けて、テルルは奥へと歩みを進める

倒すべき相手のいる場所へ、そして王の前へ


正面奥に高い場所に座る王 その左右に各貴族達が並び、戦士たちを見下ろす


「これは、どういうことでしょう・・・?」


「はて、あの者、テルルと申しましたか、

 パーティの者はおらぬようですが、まさか1人で?」


「いや、いや、まさか」


「それよりも、あの出で立ち、何でしょう、

 手足には鉄の鎧をはめ、その身は魔法使いのよう、

 しかし杖も武器も持たぬとは」


不思議がるのも当然

その手足、鋼鉄のブーツとガントレット

その身は純白に青い刺繍のローブ

身につけた体術を発揮させるためドレスのようなそのローブには

腰の近くまでスリットが入り

鍛え上げられた美しい足がわずかに見えている


5人は王に向かい、その誇りにかけて闘うと誓い

左右へと別れていく

そして振り返り、互いに向かい合った


無手のテルル VS 剣を持つフランシウムと槍使いの男、魔法使い2人


戦いの始まりは王の声


「始めよ!」


すぐさま

「クイック」


フランシウムパーティの魔法使いが呪文を唱えた

レベル3の呪文、しかも詠唱破棄だ、

しかし、違う、これも罠!

予め詠唱済み、ルール違反


そしてこの者、実は入れ替えメンバー!

レベル3の魔法使いを雇い入れ、もとの1人は解雇

フランシウム、やはり狡猾!


クイックの呪文を受けてフランシウムのスピードがアップした


テルルは槍の男へ猛然と突進

その脚力、距離を一瞬で詰める

一直線に近づくテルルに槍の一撃が突き刺さる

しかし、よける、瞬きもせず、その勢いも殺さず、

矛先が喉をかすめていく


腰を落として潜り込み、槍を持つ手を跳ね上げた

そのまま肘を突き出し、ゼロ距離からの打撃、腹に突き刺さる!

強靭な脚力が生み出す至近距離からの爆発的肘打撃


「おげえええ!」


槍の男はうめき声をあげ、その体をくの字に曲げた

腹を抱え体を折り曲げ悶絶の表情で前に突き出すそのアゴに

テルルの後転2連脚が撃ち込まれる

乾いた打撃音が二つ重なるように会場に響きわたる、

倒れる槍の男、、そして見下ろすテルル!


「おのれーー!、調子に乗るなよ!」


フランシウムが襲いかかる、レベル3のクイックを受けて

あきらかにその速度は彼のレベルを超えている


怒涛の踏み込みから大上段の一撃を繰り出してきた

テルルの脳天に打ち込むつもりだ

テルルはガントレットをはめたその手を手刀に構え、

振り下ろされるその剣に対して右手手刀で切り結んだ


いや、そのままの勢いで振り抜いた、

テルルを捕らえたと思われた剣は彼女のその足元へと流れた

受け止めるのではなく、斬撃を斬撃で弾き落とす技、手刀切り落とし!


しかしクイックを受けたその剣はすぐさま返す!、まるで燕返し

鼻先でよけ、距離をとる、一旦離れる、そして呼吸と整える



静まり返っていた会場から声が上がる、歓声が沸き起こる

見たこともない技を使うその少女に、驚きの言葉を口にする

それは王の口からも、そしてテルルの父からも


「ダームスタチウム侯爵、あの者はそなたの娘であろう?

 あれほどの戦士ならば何故今までその名が余の耳に届かなかったのだ」


「おそれながら王よ、我が娘テルル・フォン・ダームスタチウムは

 魔法使いでございます、

 あのような技、私も見るのは初めてなのでございます」


「なんと、初めてと申すか、それにしてもあの技、あれは何じゃ、

 誰か分かる者はおるか?」


王のその問に答えられる者はいない、当然!

クロムとテルルしか知らない、

他の者は知るチャンスもない技なのだから


「王よ、ご覧ください、槍の者が立ちますぞ」


テルルに打撃を打ち込まれ倒れた槍の男は、まだ終わっていなかった

何故!この男、テルルの攻撃をものともしない強さなのか、

いや、違う!このときテルルは考えていた、

そして修正していた、

自身の強さと相手の強さ、その差!


「ヒーリング」 「クイック」


2人の魔法使いが傷ついた槍の男に回復と強化の魔法をかける

フランシウムに続きこの槍の男にもレベル3のクイックがかけられた

クイックは対象となる者の速度をアップさせる魔法だ

フランシウムと槍の男は、おそらくレベル2、それがクイックを受ける

限りなく3に近いレベル2だ、


そしてテルルはその戦力差を計っていた。正確に、慎重に、

その結果・・・


「大丈夫・・・本気でやっても殺さずに済みそうだわ」


ガントレットの拳をガチンと合わせ、テルルは狩りを開始する

彼らは気付かない、しかし、それは狩る者、狩られる者

テルルの目に映るのは獲物!


再び槍の男へ向かう


「相手は1人だ、同時に攻撃するんだ!」


フランシウムは指示する、しかし間に合わない、

すでに目の前に迫る相手に男は槍を突き出す、

しかし、それが当たり前だと言わんばかりにあっけなく、

テルルは身を翻しよける、

そしてその動きは同時に攻撃の動き


翻し反転した勢いで後ろ回し蹴りが槍の男の足首の骨を砕く

声を出す間も与えずそのアゴに下から拳を叩き込む

脳を揺らされ前方に倒れ込む男のそのアゴに、再び後転2連脚!

一度目の2連脚、テルルは探っていた、しかし今は違う、

骨の砕ける音とともに、崩れ落ちる、


槍の男 戦闘不能!


「おのれーー!きさま!、このボクに何故逆らう!侯爵のくせに、

 身分をわきまえろーー!」


フランシウムは叫んだ、

自分の力が及ばない目の前の何者かに、

こいつはいったい何なんだ?



何だって思い通りになった、

気に入らないものは、すぐに目の前から消えた、

なのにこいつは違う、何故だ、

あいつか?あいつを痛めつけたからか?

たかが庶民じゃないか、はいて捨てるほどいる庶民じゃないか、

そんなことで、たかがそんなことで、ボクに文句を言うなよ、

ボクは貴族だぞ、公爵なんだ、

この国の4大貴族家の後を継ぐ特別な人間なんだ!

それなのにーー!


「死ねーー!」


フランシウムの剣は、その全力でテルルに振り下ろされた、

しかし、先ほどと違いテルルは手刀に構えない、

そのままその切っ先に向かって踏み込んだ!

そして、

その頭を真っ二つに割られたと誰もが思ったそのとき、

テルルの両手が振り下ろされる剣を両側から挟み込むように打撃を加え、

なんと、叩き折った


砕けた刃は空を舞い、後方へと飛んだ

フランシウムの折れた剣はテルルを傷つけることなく、ただ振り抜かれた


両手を下に垂らし、その首を無防備にさらすフランシウム

そしてテルルが回転しながら跳躍した

その攻撃、右後ろ回し蹴り、そして、左回し蹴り、

ーー旋風脚ーー、

アゴとこめかみをとらえる、

弾かれたように倒れ、そのまま動かなくなった、


フランシウム 戦闘不能!


テルルはゆっくりと2人の魔法使いのところへ近づいた


「負けを認めて彼らを治療するか、

 このまま私に意識を刈り取られるか、選びなさい」


ーーっ!、その言葉が本気なのだと、彼女達は理解した

とまらない震えが、告げていた。


「まいりました・・・」

「私達の負けです」


開始後 17分 決着がついた



クロムさん、勝ちましたーー

はやく帰って、いっしょに美味しいもの食べたい!



ここまでお読みいただきありがとうございます。

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