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8話  誇り

呪いをかけられたオレは武器を持つとレベル1 


戦士の道は閉ざされた、しかしそれでも鍛錬に明け暮れた。


あるとき森で重傷を負ったオレを助けてくれた美しい貴族の少女は


武器を持たないオレの強さを見つけてくれた。




これは武器をうまく扱えない庶民冒険者と


冒険を夢見る美しい貴族の少女が


気付けば、究極の体術と、至高のヒーラーへの道を歩む物語



それからほどなくして、決闘に際しての正式な書面が屋敷に届けられた。

その内容は、


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

テルル・フォン・ダームスタチウムより


フランシウム・ダーム・モスコビウムに対し


申し込まれたる決闘


格式 準決闘にてとり行うものとする

場所 王都ユウロビウム王宮内 闘技場

日時 サマリウム王国歴 303年 7月1日 正午


形式 5名以下のパーティによる戦闘



王都ユウロビウム貴族ギルドマスター

ネオジム・オール・オガネソン 303.6.3

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


というものだった、


それを見た母は卒倒して、寝込んでしまった、

父は・・・泣いている、


それにしてもフランシウムめ、

王宮内闘技場でパーティ戦とは・・・

その場所は貴族以外立ち入ることのできない場所、

つまりは貴族でないクロムさんは参加できないということだ、


下劣極まる!


「父上、親不孝な娘をお許しください、ですが人としての誇りにかけて

 どうしても引けなかったのでございます、

 ただ、父上のお立場を思うと申し訳なく思います」


「貴族がその誇りにかけて闘うは宿命、それは致し方あるまい

 しかし、お前の中にそのような熱きものがあろうとは・・・

 私のことは気にするな、我が子の誇りを曲げさせることなど、

 それこそ親の恥、お前はお前の道をゆけ、よいな」


「はい父上、ありがとうございます、

 ・・・母上にも辛い思いをさせること、許してほしいとお伝えください」


「うむ、あれは今、混乱しとるだけじゃ、あとで私から言ってきかせよう

 それより、どうなのだ?勝てるのか?」


今回の決闘格式である準決闘とは、命を奪うことを禁じた形での言わば模擬戦である

そのため、絶命の危険のある攻撃魔法などの使用も禁じ手とされる

つまりは、パーティ戦と言いつつ、その実は

戦士同士の戦いなのである

幾重にも張り巡らされた罠・・・

父は、届けられた書面の内容からそれを察し、私の身を案じていた


「分かりません、ですがみすみす、あちらの思惑通りになるつもりなど

 毛頭ございません!

 私は今日これより決闘の日まで家を出ます!

 父上も当日は決闘に立ち会われることと存じます

 次にお会いするのは王宮内闘技場です

 それまで、しばしお別れです」


「あの者のところへ行くのか、もう心は決まっているのだな」


「はい、では行って参ります」


さて、今から約1か月か、まずはクロムさんの家に行きましょう、

私は大きめのバックに身の回りの物を詰め込み、

家で娘さながら屋敷の門を出た。

そして以前訪ねたときの記憶を頼りにクロムさんの家をめざした


町をこうして歩いてみると、今まで気づかなかった色々なものがあるのね、

貴族街から外れた場所にこの町の本当の姿はあるんだわ、

物を売る店、市場、そこで働く人々・・・

貴族は王を守り、王国の民を守るためにある、

なのにその暮らしを知らなすぎる、

私もそれは反省しなくてはならないことだわ、


私の屋敷があるB区画からクロムさんの住むI区画までは

それほど離れてはいない、

町のあちこちを眺めながら歩いても、それほどの時間はかからずたどり着いた

ちょうど3時の鐘が鳴ったところだった、


今日の朝、私はいつもの時間にはいけないと、

クロムさんのところには使いの者を出してあった。


クロムさん、いるかしら、

突然押しかけてビックリするかしら、どうしよう、

なんだか、急に緊張してきちゃった、


クロムさんの住む集合住宅は石とレンガを積み上げて作られた

古い2階建ての建物で、2階のクロムさんの部屋に行くには

中央通路を抜けて裏庭へ行き、そこからの階段で2階へ上がる構造となっている

その階段を上がり、左右に伸びる広い通路を端まで行った角がクロムさんの部屋だ


軽くノックをしてみる・・・反応がない、留守だ、

ドアに手をかけてみると、カチャリと開いた、

あら?開いてる・・・


「クロムさーん、いらっしゃいますか?おじゃましますよーー」


恐る恐る中に入ってみるが、やはり誰もいない、


クロムさん、今日はきっと1人で森に行ったのね、

怪我とかしなければいいけど・・・

そうだ、きっとおなかすかして帰ってくるでしょうから、

何かおいしいものでも作っておいてさしあげましょ!


持ってきた自分の荷物を部屋に置いて、食材の買い出しに行くことにした

もちろん、買い置きの食材がここにあるか、確かめたが、

見事に何もなかった。

やはり、ひと通りの物を買ってこなくてはいけないようだ、

一応、鍋とナイフくらいはあるようだけど・・・

しかたない、それも買ってしまおう!


調理場は裏庭にカマドがいくつかあったようだ、

きっと共同炊事場なのだろう、

そこでの作業をするつもりで献立を考えながら市場へ向かった。


さーーて、何をこしらえましょうかーー、

っふっふ、お金はしっかり持ってきてあるし、

当面は困らないはず、少し奮発して美味しいもの食べてもらいましょ、




「ちょっとクロム、あんたいつの間にあんなベッピンの嫁さんもらったんだい」


久しぶりに1人での狩りを終え、

報酬を受け取るために寄ったギルドからの帰り道、

6時の鐘の音を聞き、住み家にたどり着き

いつものように中央通路を通って裏庭へ行こうとしたとき、

ここに住む者達がオレを見つけて、声をかけてきたのだ


「何のことだ?」


訳がわからず、聞き返すと、

ほらほら、こっち来な、と、背中を押され、裏庭の炊事場へと行くと


「あっ、お帰りなさい、お疲れさまでした」


微笑みながら駆け寄るテルルの姿があった


はて?、うーーん、これは・・・


「何してる?」


ごはん作ってますって答えを期待してるわけじゃ、ないからな、


「今日からお世話になります!」


あーー・・・そうきたか、


「決闘の日時が決まりました、7月1日です。

 詳しい話はごはんの後で、ちょうど出来上がったところです、

 ここで食べましょ、皆さんも良かったらご一緒に」


そう言って、テルルはここの住人達にも食事をふるまった。

どうやら、でかい鍋やフライパンなど用意したらしく

皆に分けても十分な量を作っていた。




「そうか、決闘の条件等は理解した、この王宮内闘技場には貴族と王族以外

 立ち入ることができないってことは、オレは入ることができないってことか」


「はい、初めからクロムさんの参加を不可能にしたうえで、

 あちらはパーティ全員で私1人と戦うつもりなのでしょう」


「テルルを自分達のパーティに引き入れるためのデキレースか・・・

 なるほど、それで決闘までの1か月、オレから無手の体術を習い

 1人で戦って勝つと、そういうことだな?」


「はい!その通りです」


「なるほど・・・で、これは何なんだ?」


食事を終え、話を聞くため、オレの部屋に場所を移していた

しかし、部屋へ来てみれば、すでにテルルの荷物が運び込まれてあった、

何してんだよ、ほんとに、


「何なんだ?と、おっしゃいますと・・・?」


「この荷物、君の身の回りのこまごまとした物だよ」


「キャッ、中、見ないで下さいよ、もう!」


「あ、いや、とにかくだな、何故生活に必要な物をオレの部屋に持ち込む」


「ここで暮らすために決まってるじゃないですか!」


「何故、ここで暮らす」


「・・・・・・」


「もう一回聞く、何故ここで暮らす」


「・・・・・・」


「おーーい、ちゃんと答えーー」

「意味がわかりません、ぜんぜん意味がわかりません!」


「な・・・何を、言ってるんだ、」


「だって!、卑劣な罠を仕掛ける悪のパーティに

 1人で立ち向かおうとするパートナーを侵食を共にして応援しようとは

 思わないのですかーー!?」


「いや、そ、それと、これとは、話が・・・」


「違いません!、私が負けて私をとられてもいいのですか?」


「と、とられるって、そりゃあれだけど・・・でも別にオレのってわけでも・・・」


「私のパートナーはクロムさんしかいません、もう心に決めてあるのです!

 それともクロムさんは私以外の人を簡単にパートナーにできるのですか?」


「それはまあ、たしかに、テルル以外オレのパートナーはいないとは思うけど」


キャリア8年でレベル1の冒険者とパーティ組もうなんてもの好き、

そうそういるわけないしな、


「オレのパートナーはテルルしかいないだなんて・・・キャッ」


「いや、そういう意味じゃ・・・お前がパートナーとか言ってるから、

 つい・・・パーティメンバーだから」


「それにですね、私、あんな連中に負けたくないんです!」


話きいてないな、この娘


「クロムさん、あのとき私のために無抵抗で耐えてくれたのでしょ?」


「な、何言ってんだ、そんなことは、」


「分かっています、だって体術なら彼らを容易く倒せること、

 あのときは分かっていましたよね、」


「あーー、考えすぎだ、加減が分からずあのときの熊みたいに

 腹に穴をあけちまったらまずいからな、こわくて、できなかったんだよ」


「ウソです、ならば彼らの持つ武器を砕いてその戦意を失わせることなど、

 容易かったはず、でもそれをしなかったのは、

 私や私の家に害が及ぶのを案じてのことなのでしょう?」


うーーん、すっかり読まれてる・・・

オレが単純なのか、テルルが鋭いのか・・・


「だから、お願いします、私は負けたくない!私達の誇りにかけて」


この娘、言い出したらきかないんだよなーー


「分かった、今回のことオレへの嫉妬心も原因の一つだろう、

 そういう意味ではテルルが決闘をする羽目になったこと、

 オレの責任だな、しかしだ、あれだぞ、寝るときとか、

 部屋の端と端で一番離れた場所で寝るんだぞ、いいな」


「うふふ、クロムさんへの嫉妬、私達の仲をうらやんで?・・・ッキャ」


「話きけーー!」



翌日から早速、体術の訓練を開始した、

ただし日々の生活のこともあるため、一日の始め、まずすることは狩り

それをギルドで換金、その後訓練という流れと決めた


テルルの戦士レベルは当然1であるため、

武器を持たない状態のオレはそれに合わせるための手加減を

まずは覚えなければならなかった。


安全を考えてオレが模擬刀を持ってレベル1の状態でテルルと戦えば

同じレベル1同士、確実にテルルをレベル2の寸前まではあげられるだろう、

しかし、それでは間に合わない、

危険を承知でより実戦的な訓練を繰り返した。


もちろんそれはテルルの強い希望であり、

頑として譲ろうとしない条件だった。


「クロムさん、今回のこの訓練の中で体術のスキルも同時に考えませんか、」


「体術のスキル?、うーーん、オレはそういうの苦手でな、思い浮かばない」


「私が考えてみますから、それを試してみて下さい」


「ああ、分かった、テルルが思いつくものがあれば、試してみよう」



それからというもの、ひたすら過酷な訓練の日々が続いた、


「いいか、拳での突き、手刀、肘、膝、蹴り、

 それらの攻撃力をひたすら強化するんだ、いくぞ!」


「はい!」


来る日も来る日も、


「遅い!もっと速くだ」


「速さに気をとられて打撃を軽くするな!」


「技をつなげて連打にしろ!」


「防御と攻撃をわけるな、踏み込め!1拍のなかにおさめろ!」



そして、今、オレはどのくらいのレベルでテルルと模擬戦闘をしているのだろう・・・

手加減がうまくなっているのは、たしかだろう、

しかし、決してそれだけではない、

テルルは強くなっている。


「もう一度だ、いくぞ!おおーーーりゃ!」


「はぁーー!、はっ!」


オレの拳をかわすのと同時、打撃音が重なるように響いた、

テルルの2連撃を体に受けたのだ、

もちろんオレの武器を持っていない今の状態であるからダメージはない、

しかし、体の芯に伝わるものがあった。


「ふう、このくらいにしておこう」


「・・・はい、ありがとうございました!」


オレ達はやれるだけのことはやった、


そして



「とうとう明日か、テルル、恐くはないか?」


最後の訓練を終え、部屋で食事をとりながら、オレは聞いた


「正直、少し怖いです、でも大丈夫、

 今日までクロムさんと積み上げたものを信じます」


「ああ、そうだな、明日オレはそばにいられない、

 だがお前は1人じゃない、それをわすれるな」


「はい、私がんばります、負けたくないんです・・・

 でもやっぱり少し怖い、

 今だけでいいです、少しだけギュッとして下さい」


ぎゅっ!?、って、な、なに?


テルルはオレに近づき、おでこをオレの胸に押し当てた

オレは震えるその肩を抱きしめた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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