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7話  パートナー

「クロムの奴ならいないぜ、朝早くにどっかの貴族様の使いの者ってのに

 連れていかれたぜ、さあな名前までは憶えてないな・・・

 ああ、そういえば奴さん、こうしゃく様が何の用だなんて言ってたな」


朝、いつものようにギルドの前で待つ私のところに、

クロムさんは、現れなかった。

ギルドの扉が開くのを待って、窓口でクロムさんの家の場所を尋ねた。


本来なら個人の情報は簡単には教えられないとのことだったが、

ギルドマスターに強く頼み込んで教えてもらった、

私の素性がはっきりしていること、そしてクロムさんがレベル1であることから、

その身を案じての判断のようだった。


クロムさんの住む区画は町の北西に位置するI区画、

低所得者居住区だった、

ギルドで書いてもらった簡単な地図と住所を頼りに目的の場所を探した。

石造り2階建て集合住宅の2階角にクロムさんの部屋はあった。


ここでクロムさんは暮らしているのですね、


たずねてみると、部屋には誰もおらず、

隣の部屋の住人がその訳を教えてくれた・・・


こうしゃく・・・侯爵、公爵、

当然、我がダームスタチウム家ではないだろう、

父上が私の知らぬところでこのようなまねをするとは思えない。


ならば、それ以外のこうしゃくの爵位を持つ貴族は、7つ、


まずは同じ侯爵の爵位を持つ貴族の屋敷が立ち並ぶB区画で目撃者を探そう

もしそこで手がかりがあって、

どこかの屋敷内にクロムさんが連れていかれたのなら、

同じ爵位の貴族同士、まだ話がつけやすい。


できるなら、そこにある我がダームスタチウム家以外の3つの屋敷の

何れかで見つかることを願っていた。


しかし・・・


結果的に無駄に時を費やし、より望まぬ方向に事は進んでいった。

いやな予感かする・・・


A区画、

この王国の貴族の中での最上位の爵位である公爵家は

全部で4つ存在する、その4大貴族のすべての屋敷がこの区画にある。


普段、とくべつな用事でもなければ階級が上位の者達が住む区画へ

足を運ぶことなどありはしない、まして今のように1人でなどありえないのだが、

やむことのない胸騒ぎが私を突き動かした


私はまずA区画の中でも自分の住むB区画から見て

一番近い場所にある貴族の屋敷に行ってみることにした。


行ったからといって、なにができるとも限らない、

相手に拒否されれば下位である私は屋敷に入ることはできない、

クロムさんの無事を願いながら歩く私の視線の先に見えてきたのは、

モスコビウム公爵の屋敷だった、


その風格漂う立派な建物はその広い敷地中央付近に位置し、

装飾の施された巨大な門までの間には素晴らしい庭園が広がっていた


広い、この1等地であるA区画にあって、

ダームスタチウム家の3倍、いや4倍はありそうな広さだわ・・・


そのとき、私は、その門が開いていることに気が付いた、

何か様子が分かるかもしれない、

そう思い駆け寄り、門の前に立って中を見た・・・

そこで私の目に飛び込んできたものは、


警備の者らしい男達に両手を持たれ、その足を引きずられ、

門の外へ運び出されようとしているクロムさんの姿だった、


「クロムさん!」


私は叫んだ、そしてその開いた門をくぐり、

だらりと気を失っている彼のそばに駆け寄った。


「何故、こんなことに・・・!?」


彼を引きずるように運ぶ者達から奪うようにして

私は意識の無い彼の体を抱きかかえ、そこにいる者達に言った


「何故このようなことを、許しませんよ!」


何度も打ち据えられたのだろう、

血の混じる汗を滴らせ、クロムさんは私の腕の中にいる。


「これは、誰かと思えばダームスタチウム侯爵家のテルル様、

 当家に何かご用ですかな?」


その声の主に目をやると、それは以前私を

冒険者会議と称するお茶会に誘ってきた者だった。


「あなたは、あのときの・・・」


「おや、憶えていて下さったとは光栄だ、ですが改めて名乗らせていただこう、

 私はフランシウム・ダーム・モスコビウム、

 当モスコビウム公爵家の第一継承権を持つ者だ」


見ればフランシウムだけでなく、

あのとき私に声をかけた彼の友人の男性、そしてその場にいた女性達の顔もあった。


「私はテルル・フォン・ダームスタチウム、

 ダームスタチウム侯爵家第一継承権を持つ者です、

 私の友人にこのような仕打ち、訳をお聞かせ願いたい」


「ふん!、その低レベルな庶民冒険者のことかな?

 あなたは今、友人とおっしゃったようだが、聞き違いかな?」


フランシウムの言葉に周りの者達は笑い声を上げた。


「なに、なに、そう怖い顔をしないでいただきたい、

 私はただご教授願っただけなのですよ、

 私達の誘いなどには目もくれなかった冒険者テルルが自ら選んだパートナー!、

 ならばどれほどの強さだろうか・・・

 私でなくとも興味がわくというもの!、そうではありませんか?」


「はい、その通りでございますフランシウム様」


「ああ、そうさ!、そうだともフランシウム」


まるで返事をするよう躾けられたペットのようだ、

このフランシウムという男にしても、

長い平和で貴族は腐ってしまったのか!


「そう、だから我が屋敷に招いて手ほどきを受けることにしたのさ、

 模擬戦の形でね!」


っ!、模擬戦・・・!?


「あなた達、なぶったのですか!、・・・よくも、

 よくも私のパートナーを!、私は、あなたを許さない!」


「はーーはははは!、そうですか、私を許しませんか!分かりました、

 では、あなたからの準決闘の申し込み、正式に受けましょう!

 ここにいる者達が証人です」


な!、なにを・・・!?


「あなたは上位貴族である当家の庭に無断で立ち入り、

 そして合意の上で行われた試合の結果に憤慨し、

 あまつさえ私を許さないと公言した、

 そうお互い名乗った上でね、

 これはもはや決闘の申し込み以外の何ものでもない」


「そ、それは・・・」


しまった、罠だ、初めから、


「テルル。準決闘のルールはご存じですね?

 申し込まれた側に、場所と日時の決定権があることを」


「・・・もちろんです、存じています、」


「よろしい、では日時と場所は追って知らせましょう、

 ではその男、あなたの弱いパートナーを連れてお帰り下さい!

 --おっと、大事なことを、

 この決闘で私が勝ったらあなたには、

 その男と別れて私のパーティに入ってもらいます、いいですね!

 ふはははは、楽しみです」


下劣な男め!


「お・・・おい、パートナーとか・・・分かれるとか、

 誤解を招くいいかた・・・を・・・」


ーーっ!、クロムさん、


「しゃべらないで、すぐにこんな傷、私が回復させるから・・・」


クロムさんを背負い、門を出た。

私達をあざ笑い見送る彼らの視線から一刻も早く

彼を遠ざけたかった、

私は背負ったその体の重さを自分の心に刻み付けるように歩いた、

そして私は声を出して泣いた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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