4話 うわさ
呪いをかけられたオレは武器を持つとレベル1
戦士の道は閉ざされた、しかしそれでも鍛錬に明け暮れた。
あるとき森で重傷を負ったオレを助けてくれた美しい貴族の少女は
武器を持たないオレの強さを見つけてくれた。
これは武器をうまく扱えない庶民冒険者と
冒険を夢見る美しい貴族の少女が
気付けば、究極の体術と、至高のヒーラーへの道を歩む物語
屋敷に帰った私を見て母は泣き出した、そして夜、父も私の前で泣いた
うーーん、
両親を泣かせてしまった、さすがに心が痛んだ、
私は親不孝な娘なのだろうか・・・
しかし、この心の熱い想いは抑えられないのだ!
ごめんなさい、お父様、お母様、今度からは心配させないように、
ちゃんとバレないようにうまくやりますから!
許してください。
それにしてもしばらく外出禁止とは、これは予想以上に辛い、
なにが辛いって暇なことだ、
暇でやることがないので、森での一件について
いろいろ調べてみた、
クロムさんの言った呪いについて、屋敷の書庫で
それらしい文献をしらべたが、しかし手がかりになるものは、
見つからなかった。
クロムさんは言っていた、レベルアップの感覚はあると、
しかし、それでもレベル1なのだと、
そして武器を持つクロムさんはレベル1、
あの日、イノシシ系モンスターを最後倒したときのクロムさんの状況・・・
それらの状況から私は仮説を立てた・・・
もし私の仮説が正しいのなら、ふふふ、クロムさん、早くまた会いたいわ!
オレは数日ぶりにギルドへ来ていた
退治した森のモンスター達がドロップした魔石を鑑定、そして換金するためだ
世界にはびこる魔物達は魔にとりつかれ魔物化する、
そのとき体内に魔石を宿すのだ。
魔物の強さに対して、魔石の大きさや純度は比例する。
それらを倒したモンスターから抜き取ってギルドへ提出するのだ。
オレは、魔石数個をギルドの窓口の女性に渡した。
「鑑定とそのまま換金を頼みたい」
「あ、クロムさん、ごくろうさまです、少々お待ちください、すぐに調べますので、」
窓口の女性はオレから受け取った魔石を奥へと持っていった、
それと入れ替わるように奥の机に座っていたギルドマスターが
さっきまでその女性がいた窓口に近づいてきてオレに話かけた
「クロムお前、無茶してるんじゃないのか?、
お前のレベルが上がらないことは知っている、
しかしさっき預かった魔石・・・お前のレベルで狩る相手じゃないだろ、
ありゃどう見てもレベル3以上だ」
「ああ分かってる、しかし自分のレベルに合ったモンスターを
いくら狩ってもダメだったんだ、
だったら対象のモンスターのレベルを上げて狩りをするしか
オレのレベルを上げる可能性は残ってないんじゃないかと思ってな」
「そうか、まだ諦められないんだな・・・
なあクロム、もしもお前の気持ちにケリがついて、
別の生き方をしようと思ったなら、オレのところで働かないか?、
ここには引退した冒険者だからこその仕事もある、」
「ああ、そう言ってくれることはありがたいよ、でも、
もうしばらくはかかりそうだ、すまない」
オレがどれほど戦おうと、そのレベルが1であることをここのギルドマスターは知っている
もちろん他の者も皆、口には出さないが気が付いているだろう、
何故、口に出さないのか、それは・・・
レベル1のまま森に行くことがどれほど過酷で恐ろしいことなのか、
すべての冒険者が経験しているからだ。
誰もがレベル1からスタートし、自身の弱さを思い知り、
震えながら必死にレベル2へ上がる。
そしてさらに生きるため、レベルを上げる。
例えば戦士レベルとは、すなわち武器を使った場合に発揮できる攻撃力であり
より強い武器を扱える体力そのものなのだ、
そしてスキル、これはそれぞれの武器を使用しての技、
例えば戦士レベルがいくら高くても弓のスキルを鍛錬しないままでは
弓そのものを使えない、
つまり高い攻撃力を発揮するためレベルを上げ、それを効率良く使うため高度なスキルを身に着けるのだ。
魔法使いも同じだ、
絶対的な魔力がレベル、使える魔法がスキルなのだ、
そしてオレにはそれが無い・・・
だから皆、自分達が必死に抜け出た恐怖の場所で永遠に彷徨うオレを
直視できないのだ、そのころの自分を思い出すことを恐れているのだ。
もちろんオレに魔法使いの道がないわけでもないだろう、
しかし、どうしてもその気にはなれなかった、
おれは戦士として冒険者になりたい気持ちが強かったし、
適正検査でも、たいした魔力はなかった、いや、かなり並み以下だった
ならば、なりたい者になる努力をしよう、そう決めた。
「ところでクロム、お前、町で噂になってるぜ!、この前誰をおぶって歩いてた?」
ギルドマスターは突然話題を変えて聞いてきた。
「この前?・・・ああ、テルルのことか、森で命を助けられた、それで魔力を使い果たした彼女を家まで送り届けただけさ」
「テルル?・・・、ほーー、やっぱりそうか、お前それがダームスタチウム家のご令嬢だって知ってるのか?」
「ご令嬢、やっぱり貴族だったのか、どうりででかい屋敷に住んでるわけだ」
「お前なーー、やっぱりも何も、ダームスタチウム家っていやあ侯爵だぞ、この国の国王に仕える貴族の中でも少なくとも10本の指に入る名家だ!、しかもその令嬢のテルルと言えば、今貴族の若様達が皆その美貌に心を奪われちまってるって話だぜ、それを堂々と街中を庶民冒険者がおぶって歩いてたってんだから、そりゃ、噂にもなるぜ」
うわさか・・・面倒な話だ、
侯爵令嬢と、オレとの何を噂するっていうのだ、まったくヒマ人どもめ、
そのとき、勢い良くギルド入り口の扉を開いて入ってきた者がいた、
「クロムさーーん、いらっしゃいますかーー?」
扉を開け、荒くれもの達の中へツカツカと歩み入り、そのど真ん中で
透き通るような声で言った
噂の張本人が突然現れたのだ、
そしてその場の全員の意識を一瞬で自分に向けさせた、
呆れたことに、この若い娘は人を従える風格というものをすでに身にまとっているらしい。
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