特殊な四字熟語「遮二無二」
四字熟語は慣用句の一形式です。
極めて多様性・創作性に富むのが特徴で、その真価は文章に於いて発揮されます。
漢字という情報圧縮ツールによって諺などに比べて少ない文字数で記される四字熟語は、初見でその意味を推測し得るものも多く、高い利便性を有します。
併し、四字熟語も一筋縄ではありません。
一般の名詞と同様に、主に主語として用いられるもの(安寧秩序など)、主に動詞化するもの(切磋琢磨など)、主に主語・修飾語として現れるもの(容姿端麗など)とまず大別されます。
さらに、修飾語として用いられる際にも結びつく助詞がそれぞれ大まかに決まっています。
それも一般の熟語同様、「虎視眈々と」「千載一遇の」「我武者羅に」「明朗快活な」「安寧秩序を」という具合にばらばらです。
加えて「一生懸命(に)努力する」「一言一句(まで)同じ」というように、後続の品詞を省略して使える場合も少なくないのですから、四字熟語を体系化するのは容易ではありません。
(というか抑も、「四字熟語」と括る意味が殆どないのですが)
そんな四字熟語の中でも、極めて異質なものがあります。
それこそが副題の「遮二無二」です。
「脇目も振らず物事にあたる様子」を表す比較的メジャーな四字熟語ですが、この語は他のものと一線を画する、驚くべき性質を持っています。
それは、「に」の二重性です。
この二重性について、端的に説明します。
まず、四字熟語では珍しく、「遮二無二」は "に" で終わります。
さらに偶然なことに、意味・文法上「遮二無二」に付属しやすい助詞も "に" です。
(「遮二無二に」という用例も知名度は低いものの存在していて、誤用ではありません)
そして (これは因果が逆だと思いますが)「遮二無二」は、「一生懸命」や「誠心誠意」、「一言一句」などと同様に、"助詞を省いて副詞としても扱える" 四字熟語でもあります。
この特殊な状況が、「遮二無二」の最後の「に」に助詞の属性を与えた訳です。
結果「遮二無二」は「遮二+無二」という四字熟語としての韻の反復と、「しゃにむ+に」という文法的誤解の二つを共に有する言葉になりました。
これが『「に」の二重性』です。
「しゃにむ」が一語だと思っている方も稀にいらっしゃると聞きますし、私自身解っていても頭の中で「遮二無二」を「しゃにむ+に」と分けようとしてしまうのですから、助詞の「に」との親和性の高さは伺い知って余りあります。
その癖「四字熟語」として漢字が当てられているものですから、いかにも変化しそうな音を持ちながらも200年にわたって変化しなかった訳です。
言葉において「生きた化石」を挙げるなら、現代に生きる古語 (「けり」「だに」「宜なり」など) に、私は「遮二無二」を加えます。
こうした二重性を有する言葉は、従来の日本語からは殆ど見つかりません。
併しありがたいことに、現代の若者言葉からはこの例が簡単に見つかります。
顕著なのは「トラブる」や「ダブる」で、英語の「trouble」「double」の語尾の「le」が日本語の動詞の活用語尾「る」と同化してそのまま動詞化しています。
(完全に日本語由来のものなら「ヒガシコクバる」が当てはまります)
「記録する」「チェックする」「コピーする」など、名詞 (または外来語を名詞として取り入れたもの) に「する」をつけるか、「黄昏る」「メモる」「ミスる」のように語尾に「る」を足すのが日本語の一般的な動詞化の方法ですから、明らかに「トラブる」などが特殊な例であることが判ります。
なお、「ディスる」「デコる」のように外来語の頭の部分を取り出して「る」を付加する方法もありますが、これは元の外来語が十分に長い音を持つ場合に限られ、「トラブる」や「ダブる」をこの例とするのは不自然です。
(「コピる」「アピる」などが反例になると思う方もいらっしゃるかもしれませんが、長音の脱落は省略の一つの形式であり、これを補正することで上の例に合致します)
上の記述の通り、二重性自体は動詞に於いて例が見られます。
それでも、助詞との同化は極めて稀です。
このことが、「遮二無二」の特殊さをさらに際立たせているのです。
このように、「遮二無二」は非常に特殊な性質を持つ四字熟語です。
こんなに面白い言葉はそう多くないので、機会があれば是非使ってあげてくださいね!




