母音と子音って、なかなかねぇ……。
前回発音記号について書きましたが、大事なことを説明していませんでした。
「アルファベットのフォニックスや発音記号を頑張って覚えたのに、何故か発音が日本語のままになってしまう」
という方は、きっと少なくないはずです。
特に、大人になってから英語を本格的に学び始めた方は、ここで苦しみやすいと思います。
なので、このことへの対処法を少しばかり記しておきます。
日本式英語の有名な特徴の一つに、「母音が勝手に入ってくる」というものがあります。
日本語の母音は言わずもがな「ア・イ・ウ・エ・オ」です。
例えば "apple" について、これを国際音声記号 (IPA) では「ˈæpl」と表記します。
最初の「ˈ」は次に来る母音にアクセントがあるという記号、「p」と「l」は子音なので、母音は「æ」という一音だけしかありません。
見慣れない記号なので説明しておきます。
「æ」は「エの口の形のままアと発音するような音」や「アとエを同時に発音しようとする音」や「唇を自然に開いて、舌を下顎に十分近づけて、舌先側が舌の他の部分より高い位置に来るようにして発した音」などと説明されます。
カタカナ表記で一番近いのは「ェア」だと思います。
とにかく、"apple" には母音は一つしかありません。
しかし、日本語表記「アップル」では母音が「ア」一つと「ウ」二つの計三つに増えてしまいます。
このように母音が極端に増加するのがジャパニーズイングリッシュの英語としての欠点で、英語圏の人々が聴き取れなくなるほど、発音が変わってしまいます。
では、母音を増やさないためにはどうすれば良いのでしょうか?
実は、極めて簡単な方法があります。
……なんて言いながらそこそこ難しいことが書かれているから、できなくて悩む方がいらっしゃるわけですが。
どうして難しく感じるのでしょう?
この答えは簡単で、「子音が日本語で表せない音だから」です。
これは前回記した通りですね。
ネットでよく見かけるのは、それぞれの子音を詳しく解説しているものです。
「口を自然に開いて、舌を上顎につけた状態で、勢いよく息を吐き出す」みたいな。
(これは子音「t」の発音方法です)
これを読んで筆者の思う状態をすぐに再現できるなら苦はないでしょうが、再現しようとするとどうしても上手くいかない方がいらっしゃいます。
それ以前に、一つ一つ確認するのは面倒くさいです。
(サイト等によってばらつきはありますが) 英語の子音は24個もありますから、気楽に学ぶには厳しいです。
他には、特に外国語の歌を歌うコツを紹介するサイトなどでは、よく「母音と子音を分けろ」と書いてあります。
…………分けろって言われて分けられたら苦労するわきゃないでしょうが!
って言いたくなります。
一番体系的に分け方が紹介されているのは、「各行の音に共通する音が子音だ」というものです。
「母音と子音を分ける」という部分は先程の方法と同じですが、あちらとは違って方法が示されていて解りやすいです。
カ行の五音の発音は最初の部分が共通していて、そこを取り出せば「k」という子音になるというようなものです。
個人的には一番習得しやすいと思った方法です。
私自身この方法で多くの子音を習得しましたが、そもそも別の文字として認識している以上、
「なんとなく似ていて同じ行にあることには納得できるけど、共通している部分を取り出そうとしても上手くいかない」
という方も出てくるはずです。
なら、どうすればいいのでしょう?
これも簡単な話で、「日本語の中に "そのまま" 含まれているものを取り出す」のです。
24の子音の内、8個は全く同じ方法で日本語から取り出すことができます。
さらに、その内7個は別の全く同じ手順で、違う子音にすることができます。
(こちらは習得の可否の個人差がより大きくなってしまいますが)
今回紹介するのはそんな方法です。
日本語から取り出す上に、画一の方法で取り出すので、言語差と個人差で少しだけ違う部分が出てくることもありますが、発音を十分意味が通じる程度の差に抑えることができます。
その方法は「囁き声」です。
一応書いておきますが、声を小さくしただけの呟き声 (息漏れ声) ではなく、音の高さを変えることができない吐息のような声です。
「囁き声」を検索欄に入れない場合、英語の発音を紹介するサイトでこの方法を見たことはありません。
実際、私は自分で気付くまでこの方法を知りませんでした。
しかしこれは極めて効果的に子音を分離する方法です。
なぜなら、囁き声がほとんど子音だからです。
声帯の振動を伴わない音を「無声音」と言います。
そして、徹底した囁き声は無声音です。
実際に囁き声を耳にすると解りやすいですが、濁点がつく行を囁き声で言おうとすると、清音や半濁音にかなり近くなります。
例えば「ガ行」の音は「カ行」に、「ザ行」の音は「サ行」に、「バ行」の音は「パ行」に近づきます。
これは、濁音が「有声音」と言って、声帯の振動を伴う音だからです。
声帯を使って出す音を、声帯を使わずに出そうとするわけですから出しにくいとも感じるはずです。
そして、日本語の母音は有声音です。
無声音でも識別可能な音を出すことはできますが、存在感はかなり薄くなります。
つまり囁き声は「無声子音」が主役となる場なのです。
このことを利用します。
「母音は声帯を使ってはっきりと、子音は囁き声で発音する」という方法を用います。
方法の問題で、囁き声でも無声音の母音が入りこみかねませんが、英語の母音を有声音でしっかりと発音すれば無声音の母音は目立ちません。
例えば「phonics (fˈɔnɪks)」を発音する場合、「フォ」と「ニ」は かな のままの音ではっきりと、「ク」と「ス」は囁き声で発音してみてください。
前半は日本語的でしょうが、「クス」の発音はかなり英語的に聞こえるようになるはずです。
ついでにアクセントをつけて、「ッ」を短めにして「フォーニックス」と発音してみてください。
(アクセントには強弱・高低・長短の三種類があるので、アクセント部分を強く、高く、長く発音するよう心がけてみてください。
日本語のアクセントの影響で、強くすれば同時に高くもなりやすいので、強く、長めに発音すると上手くいきやすいと思います)
母音による違いはあるでしょうが、かなり英語らしく聞こえるのではないでしょうか!
これが囁き声で子音を覚える方法です。
参照のために、それぞれの子音をどの かな で発音すればいいのかを載せておきます。
基本はその行のウ段の音が一番母音の弱くなる音なのですが、例外があるので注意してください。
「k」…囁き声の「ク」
「s」…囁き声の「ス」
「t」…囁き声の「トゥ」(注1)
「h」…囁き声の「ハ」(注2)
「f」…囁き声の「フ」
「p」…囁き声の「プ」
「ʃ」…囁き声の「シュ」(注3)
「tʃ」…囁き声の「チュ」(注3)
(注1)…タ行の音はそれぞれ「ta・tʃi・tsu・te・to」であり、「t」の行は「タ・ティ・トゥ・テ・ト」となります。
(注2)…「フ」の発音は「fu」であり、厳密に「hu」を表す文字は日本語にないため、「h」には「ハ」を当てています。
(注3)…シャ行、チャ行の子音に「ʃ」でなく「ɕ」を用いる場合もありますが、「ɕ」は英語の発音記号として一般的な表記ではなく、「ʃ」と「ɕ」の違いは意思疎通に障害をほとんど与えないため「ʃ」を用いています。
おまけに一つ書いておきます。
一般的な英語の発音記号では「hj」の一部に含まれるため用いられませんが、特にドイツ語の「ch」と「g」には「ç」という発音である場合があります。
代表例は「Friedrich」や「ich」(私) 、「Königsberg」などです。
この「ç」には、囁き声の「ヒ」を当てるのが効果的です。
以上で、無声子音の紹介はおしまいです!
とはいえ結局、向き不向きは人に依るので、数ある方法の一つに過ぎないことをここに記して終わりにします。




