寄る高波に因って打ち上げられたこの鯨は、食物をオキアミに依り、通常は極地に拠っているそうだ
「寄る」「因る」「依る」「拠る」。
どれも「よる」と読みますが、「寄る」の他は中々漢字で見ませんよね。(読み物のジャンルにも"依り"ますが)
併し当然、これらには使い分けがあります。
今回はそれを紹介します。
…………なんて言いましたが、今話のタイトルからだけでも、案外解るのではないでしょうか?
漢字を使い分ける際は、その字を用いる熟語を探す。タイトル文なら「寄合」「原因」「依存」「拠点」という具合ですね。
まあ、だからと言って説明を省くのではこの文章の存在意義が怪しくなりますから、当然説明はするのですが。
…………他にも「由る」「縁る」「倚る」「凭る」等、沢山ありますからね。
まずは「寄る」です。
これは基本的に「対象へと近づく」動作を表します。「店に寄る」なら "店" という対象に近づくこと、もしくはそれが転じて「店に入る」ことを表します。タイトル文では対象の「岸」を省略して用いています。
さらにここで言う "対象" は、実在の物に限らず概念上の物にも用いることができます。
例えば「右に寄る」なら、概念である "右" という対象に近づくということになります。
併し、意味はそれだけではありません。「対象へと近づく」ことから派生して、「対象を頼りとして近づく」という意味があります。「寄宿」や「寄生」、「寄らば大樹の陰」がこの例です。
また、もう一つ「 "互いに" 対象へと近づく」として「集まる」という意味も派生しました。「寄合」や「寄席」、「寄木細工」や「三人寄れば文殊の知恵」がこの類いです。
…………まあ、これは意味が広い部類なので、他に該当しない場合に用いるのが良いかもしれませんね。
次に「因る」です。
これは専ら「原因」という意味で用いられる場合ですね。もしくは「基づく」と置き換えられるものが「因る」です。「成績に因って評価する」とか「飲酒運転に因る事故」、「努力に因って得られたものだ」なんて具合に用いられます。
タイトル文では「高波」が原因となって打ち上げられたので「因る」です。
第三に……、「由る」を紹介します。「因る」と用法が重なる場合が非常に多く、「因る」と「由る」は共に同じ用例で用いることができます。
解釈は「由来」が適当で、この意味を強調したい場合に「由る」を用いるのが良いでしょう。
但し、「Chinaは古代中国の王朝『秦』に由る英語である」というように、完全に「由来」の意味であるものは「因る」と置き換えることはできません。そんな場面は極めて少ないですが、このことには注意です。
次に「依る」です。(多い…………)
先述の通りこれは「依存」と結び付けて考えるのが早いです。他に「方法、手段、基準とする」という用法もありますが、概ね「依存する」という意味です。
前者は「副業に依る収入」や「見かけに依らず」、「家柄に依る差別」等の用法が、後者は「仕送りに依る生活」や「火力に依るエネルギー供給」等の用法があります。
五つ目は「拠る」です。
これは簡単で、「根拠」と「拠点」のどちらかの意味になります。「経験に拠る判断」や「洞窟に拠って戦う」等の使い方があり、タイトルでは「極地を拠点とする」という意味で用ています。
併し「根拠」の意味のものには、「依拠」という語があるように、「依る」と書き換え可能なものが存在します。使用する場合は、「依る」が正しい部分で「拠る」と書いてしまうことに気を付けましょう。
これでタイトル分は全回収ですね。長くなったので最後に「よる」全体をまとめておきます。上で挙げた語の他はそれらと混同し難いので、以下での説明に留めておきます。
・寄る……近づく、頼りにする、集まる。
・因る……原因、基づく。
・由る……由来。ほぼ「因る」に同じ。
・依る……依存。
・仍る……「依る」に似るが、「したがって」を意味する「因って」に代用できる。
・拠る……根拠、拠点。
・據る……「拠る」に同じ。
・縁る……ほぼ「由る」に同じ。「由縁」
・倚る……人や物にもたれる。「倚子」は「椅子」の古名。
・凭る……「もたる」とも読む。「凭れる」。ほぼ「倚る」に同じ。
・選る……選ぶ。「選り分ける」が好例。
・択る……「選る」に同じ。
・憑る……頼る、拠り所にする、憑く。「信憑性」「憑代」
・撚る……ねじる。「糸を撚る」「紙撚」
・縒る……「撚る」に同じ。「紙撚」は「紙縒」の方が一般的。
・夜……日暮れから夜明けまでの時間。
…………多いですよね。四つ目の「依る」でも多いと書きましたが、その四倍もありました。
併し使う際にはタイトル文の四つ、つまり「寄る」「因る」「依る」「拠る」を使い分けられれば良いので、難しい訳ではありませんよ〜。




