Ep.5 武器
続きです。
「お邪魔します……」
「遠慮すんな。散らかってて申し訳ないが」
部屋のランプを付ける。この世界では蒸気とガスが未だに主力のエネルギー源だ。ついこの間電気という概念が生まれたらしいが、非常にハイコストでまだまだ浸透していない。
帝都の外縁部からおよそ10キロメートル、高層の建物が目立つこの区域では空気汚染も少なくなり、魔法での物資サービスも充実していてだいぶ暮らしやすい。俺の家はとある建物の最上階にある。落下すれば数十メートル下の地面に激突し即死だが、他の建物の屋根を伝って移動できるから隠れ住むのに適していた。
玄関から入って最初の部屋はリビング兼ダイニングルームで、一片が6、7メートルほどの正方形だ。他にもいくつか小さい部屋がある。つんとする薬品の匂いを感じながら俺は床に散らばる医学書を足でどけ、荷物を置いた。
「じゃぁ早速だが、まず武器だな」
「は、はい!」
レイラも荷物を置き、俺の後ろを付いてくる。玄関から向かって右の部屋は武器庫だ。現在26丁の銃が立て掛けてある。銃の所持はこの国では基本的に自由であるが、このように大量に所有するやつは滅多に居ない。本来は本格的に連邦に侵入する際に使いたかったが、一丁くらいどうってこと無い。銃などは気休めだし、俺の武器はまた別のものがある。
俺は大量の銃を目の前に呆気にとられているレイラを尻目に、その中から適当な一つを選ぶ。木製の銃床とボルトアクションの作動方式は今でもポピュラーなスタイルだ。
「これはアトランタS10小銃。典型的な蒸気式ライフルで、少々デカいが精度、扱いやすさともに悪くはない」
状態を軽く確認してからレイラに渡してやる。
「弾は7mmの六角弾だ。間違っても別のを込めるんじゃないぞ」
「そういえば、蒸気式ってなんですか?」
俺は弾丸箱を棚から引き出す途中で体の動きを止めた。
「お前……あぁクソ。知るわけないよな……あんな片田舎に住んでたし、ここまでの道中一回も銃の出番はなかったし……」
なにか言いたげな彼女を手で制し、弾を数えながら言う。
「蒸気式は、そのままだ。蒸気の圧力で弾丸を発射する。今の時代、蒸気はそのへんでいくらでも手に入るからな。効率の良いエネルギー源ってわけだ」
火薬も開発されたが、作りすぎて持て余している蒸気インフラを有効に活用するために蒸気式の銃が広く使われている。俺は弾の一個を箱から取り出し、レイラに見せてやる。
「必要なのは圧縮蒸気と、飛ばすための弾丸だけだ」
「この弾丸、レヴさんから摘出したやつもそうでしたけど、断面が六角形ですよね」
「そうだ、この六角形が、銃身の内側の六角形と噛み合って、弾を回転させる。回転した弾は、そうでない弾よりはるかに精度と射程が良い」
それを聞くなり銃口を覗こうとする彼女の頭を軽く叩いて止める。
「気をつけろ。弾が込められてたら死ぬぞ」
「わ、分かりました……」
「次だ」
俺は武器庫を出、その奥の部屋に入る。
「蒸気を補給する部屋だ。銃を撃つにはあと圧縮蒸気の入ったボンベが無いといけない」
ここは3つのバルブと供給口が並んでいる。俺は床に転がるボンベを一本拾い上げた。
「簡易ボンベ。大体30発分の圧縮蒸気が入ってる。これと銃とを繋げて、弾を込めて初めて銃が撃てるってわけだ。水入れれば勝手に蒸気を生み出してくれる奴もあるが、値段が高くて重い上に魔法の知識が少し要る」
ボンベに付いている供給チューブを銃につなげてやり、弾を一発入れ、ボルトを閉める。
「これでトリガーを引くともう撃て」
ボンッ、という破裂音とともに天井に穴が開く。パラパラと破片が落ちてくる。
「えっ、あっごごごごめんなさい!」
なんかの拍子にトリガーを引いたらしい。銃はレイラが持っていたので、俺に責任はないはず。
改めて、ここが最上階で良かったと思った。
一から十まで銃の撃ち方を叩き込まれて放心状態になって座っているレイラの前に夕食を置いてやる。
「飯だ。食え」
彼女はゆっくりとフォークに手をのばす。その手は何十発もの射撃のせいで震えていた。
「か、肩が痛い……」
「蒸気とはいえ結構反動あるからな。それにあの射撃法、旧帝国軍でみっちり教えられるやつだ。それをこなしたんなら大したもんだよ」
「幼気いたいけな少女にあんなこと強制するなんて、レヴさんも大人げないですね」
ぷーっと頬を膨らませて彼女は言った。
「でも、これで少しでも役に立てるなら……」
俺はスープを飲みながら、
「役に立てようなんざ最初から考えてない。死ぬのは自分じゃないしな」
そう言うと彼女はへそを曲げたらしく、更に頬を膨らませた。
「だが、お前は以前より確かに強くなった。初めてであれだけ使いこなせるのは良いことだ」
それを聞いてレイラは少しきょとんとしてから一変、へへと笑った。彼女のその笑い方と姉貴のそれは少し似ていた。
「覚えておけ。本当の武器は自分の意志だ。根性論を言うわけじゃないが、お前の銃はその道具でしか無い。姉貴がよく言ってた言葉だ」
「お姉さんが、ですか?」
「あぁ」
「えっと……お姉さんは、一応生きてはいるんでしたっけ」
「その話を出してくるとは、いい度胸だな」
半ばからかうように言ってやる。
「あっ、ごめんなさい!!不謹慎過ぎますよね!!話変えます!」
琴線に触れたように慌てふためくレイラを見て、少し笑う。
「いや、いい」
俺は食器をテーブルに置く。
「姉貴は……生物学的には、生きてるな。でも、人間的には死んでる」
「……植物人間、って事ですか?」
「まぁ似た感じだ」
彼女は肉団子を飲み込んだ後に言う。
「それで、今、どこに?」
「すぐ近くさ」
レイラが目を見張った。
「すぐ近く……って、どこですか?」
俺は少し迷ったが、ここまで聞かれるならもう良いと思った。
「……付いてこい。見せてやる。俺が生きる意味を。俺の憎しみの根源を」
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