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Ep.2 弾丸

この作品はカクヨムでも投稿しています。カクヨムメインで作業しているので投稿が多少ずれるかもしれません。

「いいか?俺が気を失ったらお前が続けてくれ、雑にやってもまぁ許すが、手は止めるなよ?」


 レイラは静かに首を縦に振った。だが、その目は今にも泣きそうだった。訊くところ、手術はいくらかやったことはあるものの、グロいものは大の苦手らしい。正直、不安だ。


 俺の真上に設置された鏡を見ながら執刀する。どこかのコミックでやってた手法だが、実際にやるのは久しぶりだ。


 舌を噛まないよう、ガーゼを口にはさんでおく。深呼吸をし、局所麻酔を打った。即効性の上等なやつがあったのは幸運だ。針の痛みのあとは左腕全体が痺れてくる。


「ピンセットを、頼む」


 それを渡すレイラの手は明らかに震えていた。俺だっていつまでも自分の身体をいじくるのは慣れない。痛いもんは痛いんだ。


「いくぞ」


 ピンセットを銃創近くに持ってきて、息を整える。


 そして、


 それを


 思いっきり傷口に


 刺す!


「ぐっ……」


「きゃあぁぁぁ!!!!!」


 痛みが左腕を襲うが麻酔がよく回っているためそれほどではない。むしろ俺よりレイラの叫び声の方が大きい。


 そのままピンセットで銃弾を探る。


「あぁぁ……そんな、よく出来ますね……」


 指の隙間から覗のぞきながら彼女は言った。ピンセットの先に硬いものが当たったので、それを掴み、一気に引き抜く。ひときわデカい痛みのあと、ずるりと弾丸が抜けた。


 血でてらてら光るそれは、連邦軍の8mm弾。蒸気で発射されるそれが低速で俺の身体の中に突入し、今まで痛めつけてきた。


 腹の上に置いたトレイにそれを落として、とりあえず摘出は終わった。


「良かった。あとは縫合だけ……あっ」


 うっかり傷つけたのかいきなり血が溢れ出してきた。


「クソ、やっぱり大動脈に掠ってたか……ガーゼよこせ!」


「うあぁ……血が……血がぁ……」


「馬鹿野郎!!死ぬから!早く!」


 一瞬意識が遠のくが、気合で立て直す。


「やばいな、血を出しすぎてる……」


「レヴさん……死なないで……」


 レイラがポロポロ泣きながら言う。


「だったら早くガーゼを寄越せ!」


 薄暗い部屋に、叫び声が響いた。






 手術が終わった頃には両者ともぐったりとしていた。俺は貧血で意識が朦朧としているし(実際最中に何回か意識を失ったし)、レイラは軽くトラウマを抱えてしまったらしい。


「なんか……すまんな……付き合わせて」


「いえ、だいひょぶでず……」


 鼻水をすすりながら彼女が言う。もう手術の痛みよりも申し訳なさのほうが俺の頭を悩ませている。


「でも……お前一応医者の子だろ。流石に耐性が無さすぎじゃないか?」


「おどうざん……わだじをじゅじゅつじつにあまり入れてくれなかっだんでず……」


「……呪術……?」


「手術でず……」


「あぁ……」


 まぁ、我が子に好き好んでこのようなものを見せる父親もおかしいだろう。俺はため息を付いてから言う。


「じゃぁ、約束通り話すよ、慰めになるかも分からんが」


「ほんどうですか!」


 彼女は餌を前にした犬のような目をした。少々圧倒されながらも話し始める。




「数日前から連邦領に侵入してた」


「連邦領?どうしてそんな危ない所に?」


「あぁ、確かに危ない。許可なく侵入した帝国民は即時処刑の対象だ。俺もそのせいで弾丸こいつを受けた」


 俺は手で弾丸を弄もてあそぶ。


「俺には姉貴がいた。それも、一級騎士だ」


「ってことは姉弟揃って一級所持者何ですか!?」


「……そうだ。その姉貴はもう……居ないっていうか……何というか……」


「……亡くなったんですか……?」


 予想通りの反応だが、違う。


「いや、何て言うべきかな……生きながら死んでるっつうか……」


「???」


 レイラの頭上に疑問符が何個も浮かんでいるようだった。


「……ともかく、姉貴はもう昔の姿じゃなくなったんだ。今回は計画の甘さでしくじったがな。俺は、彼女をそのようにした連邦の奴を探して、治療法を聞き出す。そして」


 俺の眉間に力が入る。怒りで血が足りなくなるが、なんとか制する。レイラは少し不安げに俺の目を見ている。


「……そして、かつての仲間、零番特殊小隊の元隊員を、殺すんだ」




 その後、俺は少し休ませてくれと言い。話は終わった。




 次の日、寝室で朝日を見ながら紅茶を飲んでいると、レイラがやってきた。


「ゆっくり休めました?ご飯出来てますよ」


 まるで昨日のことなど気にしてないのが逆に幸いだった。


「悪いな」


 昨日と比べてだいぶ身体は自由を取り戻している。骨折と思っていたものも若干ヒビが入っていただけであり、歩けるまでそう時間はかからなかった。


「おぅ……凄いな、こりゃ」


 テーブルにはほうれん草とレバーの炒めたものやニラのキッシュなど、貧血に良さげな食べ物ばかりあった。昨日のシチューの残りなども。


「へへへ、手術は無理でも、患者さんのためにずっと料理作ってましたからね」


 なるほど。美味いわけだ。


「で、これからどうするんです?」


「そうだな」


 俺は少し間をおいてから話す。


「長らく此処に居ては邪魔だろう。早くて明後日には抗生物質といくらかの薬だけ持って帝都の自宅に帰るよ」


 レイラは怪訝そうにこちらを見る。


「もう帰っちゃうんですか?」


「あぁ、やることがあるんだ」


 彼女は少し不満そうに料理を突っついていたが、しばらくしていきなり立ち上がり、


「なら!一緒に付いて行ってもいいですか!?」


 と言う。俺は数秒ほど呆気にとられていたが、やがて言い出した。


「付いてきて何をするつもりだ。まさか俺の目標に加担するなんて言うなよ?これは俺の……」


「いやいやいや!そんなんじゃないです!」


 手で話を遮りながら彼女は言う。


「帝都にいるお父さんに会いたいんです。もう数年くらい帰ってきて無くて、ちょっと不安で……」


「一人で行けばいいだろう」


「実は私、この地域から出たこと無くて……箱入り娘、って言うんですかね……?道も分からなくて。でもどうしてもお父さんに会いたくて……」


「なるほどなぁ……」


 俺は頭を抱える。左肩の銃創がじんじんと痛み始めた。


 部屋の壁にかかっている賞状はとても多くその内容も偉大なものばかりであったが、名前の部分だけ黒く塗りつぶされていた。今朝忍び込んだ資料室でも名前を見つけることは出来なかったものの、その資料のどれもが興味深く、素晴らしいものだった。おそらく帝国でもトップクラスの医療関係者……一度お目にかかりたい。


「駄目……ですかね?」


 へへと彼女は苦笑いをした。腹をくくり、重い口を開けた。


「わかった。連れてってやる。ただし、片道切符だ。帝都に連れて行くだけだ。もしそこから帰りたいんなら、俺が金を出すから御者ぎょしゃなり自動車の運転手なり雇って帰れ。いいな?」


 彼女の顔がぱっと明るくなる。もっとも、「連れてってやる」以降の話は聞こえてない風に見えるが。


「ありがとうございます!!!」


 彼女はそう言って頭を下げる。ポニーテールにした髪が料理に付いた。


「なら早速準備しとけ。帝都まではまるまる一週間かかるぞ」


「はい!」


 威勢のいい返事が響いた。






 そして、出発の日。傷口の調子は良好で、だいぶ痛みも引いてきた。


 重そうにリュックを背負うレイラの荷物を一部持ってやる。


「何だこの瓶、空だし、かさ張るぞ」


その空き瓶は金属製の蓋できつく閉じられていた。


「それ!重要なものです!」


 疑問に思うがバッグに詰めておく。


「準備良いか?行くぞ。取り壊されるわけじゃないんだから程々にしろ」


 名残惜しそうに家を眺めるレイラを尻目にそう言ってやり、歩きだす。その目はどこか信念が感じられたが、俺には関係ないことだった。


「あっ、待ってくださいよー!」


「お前が遅いだけだろ」


 春の花の香りが鼻につく。なぜか、姉貴のことを思い出していた。



 ご愛読誠にありがとうございます。

 麻酔とか色々調べながらやっています。たまにグロい画像が出てくるのがとてもつらい。

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