3.序章3
氏姫の前世は、法学部を卒業し、企業においては法務部に所属していて、法律関係が好きということもあり、法律には詳しかった。そこで、氏姫はこの時代の法律や司法制度にも興味を持った。
しかし、この時代に六法なんてあるはずないし、何か書物でもないかと母である春姫に尋ねた所、母はちょっと驚いた顔をしたが、城内の書庫に案内してくれた。
「好きに使って良いわよ。でも、汚したりしないでね。」
古河公方家は勢力は衰えたとはいえ、関東公方の嫡流なので、伝統と権威はそれなりに保持しており、書庫にある書物の数も普通の大名家に比べ豊富な種類が揃えられていた。
氏姫は、書庫にある書物を見ていくと、源氏物語写本や伊勢物語写本等の古典物、平家物語や古典太平記等の軍記物、孫子や呉氏等の兵法書から今川仮名目録のような分国法に関する書物まで様々な書物が揃えられていた。
「すごいわね、予想以上の数だわ。これなら、当分暇にならなくて済むかも。」
「そうか、氏姫が書物を読みたいと…」
足利義氏は春姫より、氏姫の報告を受けていた。
「ええ、なので書庫に案内したのですが…書庫に案内した後、隠れて様子を見ていたら、難しそうな書物を一人で読み始めたの。」
と春姫は夫である義氏に話した。
「大人でも読むのには苦労する書物ばかりなのに、5歳の子が一人で読んでしまうとは…天賦の才を持った神童か、それとも…」
義氏は、我が子の才能に喜びつつも、何か不安な気持ちがよぎったのである。