腐った卵
ある所に男の子がいました。その男の子は将来非常に有望な男の子でした。
周りからは神童だの天才だのと持て囃され全てにおいて勝ち組と言っても過言では無いほどに将来が楽しみな少年でした。
かたや。
ある所に女の子がいました。その女の子は誰からも慕われず周囲からは見下され卑下され忌み嫌われていました。
頭も悪い、性格も不気味、容姿も最悪、親は犯罪者。
駄目駄目尽くしの少女でした。
ですがそんな彼らにも共通点がありました。
それは、何とどちらも同じ学校に通っているということです。何と信じられない奇跡です。
そもそも、学力があまりに違いすぎるのに少女が何故少年と同じ学校に通う事が出来るというのでしょうか。
しかし、現に少女はその学校に通っていました。細々と何者にも邪魔されぬよう、静かに。
ただ、平穏を求め周りと距離を取り。
そんな風に過ごしていたある日少女は一つの卵を拾いました。その卵は見るからに黒く濁っていました。
…………腐っていたのです。
少女はその不思議な卵を拾ってしばらく眺めていました。まるで、自分自身のようだと。
すると、間が悪いと言うのでしょう。
前から例の少年がやって来たのです。その少年は少女を見ると道端のゴミを見るかのような視線を少女に送り、罵声をとばします。
「おい、そこの目障りな女そんな汚ならしい姿で汚ならしい物を持っていると虫唾が走る。今すぐそこをどけ、二度と俺の視界に入って来るんじゃないぞ」
少女は青くなって何度も頷き走ってそこを後にしようとしました。
ですが、何と言うことでしょう。つい先ほど拾った卵を落としてしまいました。
卵は地面に落ちてその衝撃により、薄い殻にヒビが入り割れ……なかった。驚きです。
それどころか卵は転がり少年の方へ。少女の顔は青くなる一方でした。
一方、少年は転がって来た卵が服に当たり怒りの形相で少女を睨み付けていたのです。
「貴様!まともにどくことも出来ないのか!」
気付けば少女は顔を青くしたまま頭を何度も下げていました。少年はその滑稽な姿に満足したのか卵を蹴りつけて何処かへ足音を響かせながら歩いていってしまいました。
少女は安堵し少年が蹴った卵を探した。
卵はすぐに見つかり少女は卵を拾おうとします。所が卵は少女の手から逃れるように転がっていったのです。少女は慌てて追いかけようとします。ですが、一向に追い付けません。
ついに卵は校舎の二階から階段を落ちていきます。
それを見届けて、少女は完全に諦めて嫌な事を全て忘れて卵の事も忘れて自分の教室で勉強する事にしたのです。
少女がそんな事を考えて教室に入った頃ある場所で少年が頭に何かをぶつけて小さな悲鳴をあげていました。
少年は当然ぶつかった何かを確認する。そこには一つの綺麗な真っ白い卵が落ちていた。
それを見た周りの人達は少年にまるで少年のような綺麗で高貴な卵と言いました。
少年は嬉しくなってその卵を拾い上げます。
「今日はこれで夕食を作らせようか」
そう口にしたとき何やら手の中の卵が動いた気がした少年は目線を手の中に戻す。何とそこにはヒビが入った卵があったではありませんか。
少年は驚いて手にあった卵をその場に落としてしまいます。卵はあるべき場所に戻るかのように地面へとその殻をぶつけにいくのでした。
卵が割れるとそこからは酷く汚れた汚泥のような汚く腐ったヘドロのような何かが出てきたのでした。それは醜く蠢いていました、とさ。
「私は個人的には少年の周りの人達は的確な意見を言うねーと思っちゃいましたねー。実に面白いですよね。というか、滑稽です。アハハハハッ、正しく少年のようだよ。」
一通り語り終えて満足したのかそこにいた男はゆっくりと椅子から立ち上がって調子良く手を広げ大袈裟な動き身ぶりで気楽にそれこそ友達に話をするかのように喋りだした。
「少女はその後さぞかし良い人生を送れたんでしょうねぇ。まぁ、実際の所は私には分かりかねますが………。まぁ、何にせよこの少年実に素晴らしい!いやぁ、流石は神童!…………笑えますよ。全く」
そう言った男の顔はとても暗く何かを諦めているようだった。私はどう反応を返して良いのか全く分からなかった。
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