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六人の手記

●-エイダ・ブラッドフォード


 読者の皆さま、まずはお疲れ様でした。


 今回の物語を作るにあたって、私はメイド長に頼んで一番最初の犠牲者にしてもらいました。

 理由としてはやはり、文章を書くことに慣れていないのと、新人のペピタちゃんに頑張ってもらいたかったからですね。


 さて、実はこのお話、結末は最後のメイドが決めることになっていたんです。今回で言えばそれは、ノラさんでした。

 察しのいい読者の皆さまは気づかれたでしょうか、この物語はリレー方式で記されていたものです。死を選ぶのも、生を望むのも、決めるのは書いていた私たちということですね。

 ですが一人ずつ人が消えていくという物語の都合上、やはり譲り合いの精神が必要になってきます。エマさんが早々に退場されたのは、彼女の持つ優しさでしょう。


 リレー方式ということで、書き始めの段階では結末は決まっておりません。ので、最初の犠牲者の役割は、できるだけ回収しやすい伏線を作っておくことですか。

 残念ながら私は不慣れなもので、


・メイド長の部屋が奥まった場所にある記述

・消える直前に満月が見えた記述


 くらいしか書けませんでした。

 後者は半ば無理やりノラさんが回収してくれたそうで、感謝しています。が、前者は物語とは全く関係のない話であり、読者の皆さまにミスリード及び必要のない情報の提示をしてしまいました。申し訳ありません。

 とはいえ物語としては完結していますし、良かったのではないかと自分に言い聞かせています。


 最後に、一緒に書いてくれたメイドの皆さん、それに最後まで読んでくださった読者の皆さまに感謝を込めて。


 幸あれ。


●-メリッサ・T・レッドメイン


 物語の構造を聞いた時、真っ先に犯人役になろうと考えました。

 どうせメイド長は最後のほうまで生き残るだろうし、人のいいエマや怠け者のノラさんが序盤にいなくなると思いましたから。


 結論から言うと、この目論見はメイド長とノラさんにより失敗しました。結末が決まっていないリレー方式の弱点と言いますか、メイド長も共犯になりにきたのです。

 あとはノラさんが想像以上にしぶとかったことですか。彼女が最後に残り、なおかつ物語のコンセプトに反する『生き延びる』選択をするとは思いもしませんでした。


 ともかく、この二人のおかげで私の計画はご破算となりました。その時点での私の担当はまだ一節のみであり、また、犯人役に匹敵する情報も書いていませんでした。

 なので、二節ではあえて犯人役と探偵役の二つを背負える書き方をしてみたのですが……。


 これより先は、当人であるノラさんの記述を楽しみにしましょう。それでは、読者の方々もお疲れ様でした。


●-エマ・ハウエル


 読者の皆さん、お疲れ様です!


 題材やルールを考えると、この物語は当然にして『ミステリー』の枠から外れますね。

 最後のメイド長による記述を見た上で二話目を書くわけですから、あの時点で他のメイドたちにも彼女が犯人であると知れてしまうんです!

 それを加味した上で、メイド長やメリッサさん、ノラさんはあくまでも物語としてミステリーが成立させようとしていました。

 先ほどのような考えを持つ私ですから、文章で皆さんの迷惑をかけるのは良くないと判断して、二人目の犠牲者を選びました。


 ところで、私が消える直前に残した言葉は覚えていますでしょうか?

 あの時はなんとも思わずに書いたのですが、あとで読み返すと、あの時点でその思考の開示をできる私は物語の外に位置する人物であることが分かります。

 ここでいう物語の外というのは、物語の中で行われた記述外の会話のことではなく、もっと外の、つまり読者の皆さんがいる次元で行われた『物語の外』です。


 あの文章を書いた理由ですが、もしかしたら、ミステリーとして話を進めようとするメイド長やメリッサさんに対するささやかな抵抗だったのかも……しれませんね?


●-ノラ


 みんなで合作を作ろう!と最初に聞いた時は、正直全くやる気はなかった。普通に面倒くさいし、ちゃんとした文章を書くのなんて何年ぶりか分からないもん。どうせ私がサボっても、シータちゃんがなんとかしてくれるしね。


 けど、物語の造りを聞いて話が変わったかな。

 自分で自由に話を決められるなんて面白そうってのが一つと、私のわがままにみんな付き合ってくれるかどうか、ちょっと興味が出てきちゃったんだよね。


 まず、私は最初から結末を決めてた。それはご主人と二人きりになること。理由はまあ……内緒かな。

 とにかくそのためには、私が最後の生き残り、つまり最後の作家にならなきゃいけなかった。だからちょっとズルい方法を使って、彼女をスケープゴートにしてみたんだ。


 多分理解している人がほとんどだと思うけど、一応ここで説明しておくね。

 この物語の犯人はシータちゃんとメリッサとペピタの三人。それぞれ『忘れた』と主張しているのは、記述で嘘をついていただけ。

 トリックも何もなくて、あまりにも芸がない答えだけど……こんな風になったのは実は私のせいなんだ。

 読んでくれたみんなは覚えてる? 実は物語を書く順番は決まっていて、私の記述のあとにペピタ、シータちゃんと続いてるんだ。


 私がやったのは、『ペピタを犯人側に回す』こと。

 読み返せば分かるけど、ペピタが最初に『忘れた』ことを明言したのは私の番なんだよね。つまり、最低でも犯人を二人以上にしようと思ったってわけ。

 この物語は、某有名小説のオマージュ……もといパクリだから、結末としては誰もいなくなることが望ましい。けど、犯人が二人いるとなるとそれをするのはちょっと難しくなるんだ。そこはシータちゃんも分かってたみたいだね。


 それをしたら後は簡単で、みんなが自己消失するまでひたすら生き残るだけ!

 思惑どおりというか、メリッサも私のズルを理解して三番目を選んだんじゃないかな。なんだかんだで優しい子だよね。ペピタも無理やり犯人側にしたけど、思った以上に犯人側の文章を書けてたと思うし。


 長くなりそうだしそろそろ終わりに。みんなお疲れ様、読んでくれた人たちもありがとね。


 幸あれ。


●-ペピタ・デレオン・コット


 読者の皆様、並びに一緒に物語を作ってくれたメイドの皆さん、お疲れ様でした。


 今回の物語を作ろうとなったきっかけは、勤め始めてすぐの私がメイドの皆さんと良く馴染めるように、ということだったそうです。

 物語を作り終えて皆さんの文章を読んでみると、意外な一面を色々と知ることができてとても面白かったです。


 私は最初、皆さんの邪魔にならないように早々に退場しようかと考えていました。

 その時は本当に驚いたんですが、一つ前のノラちゃんが私のことを犯人にしてきたんです! 二節では文章を書く途中に手がプルプルしていたのを覚えています。


 さて、四節五節間で私とメイド長が同時に消えるという、少し反則みたいな出来事が起こりましたが、実はそれは私のせいなんです。

 一生懸命に退場方法を考えたのですが全く思い浮かばなくて、結局私は消えずにメイド長に託してしまいました。

 しかし仮にそこでメイド長が退場すると、残されるのは私とノラちゃんだけになります。それはいけないと判断したらしく、私とメイド長は同時に消えることになったんです。


 理由としてはやはりノラちゃんが退場する気がなかったというところだと、メイド長は言っていました。

 ノラ、ペピタの順番で書くため、ノラちゃんが消える選択をしないと私が消えなくてはならないんです。しかし前述の通り、私にはあまり思いつかなくて……。

 もう一つは、もしノラちゃんが退場してしまった場合でも、私一人で残されてしまうという点です。

 私はノラちゃんほど文章を書く経験がありませんから、きっと良い結末は書けなかったと思います。多分皆さんは優しいので許してくれるかもしれませんが、やはり最後を預かるのは古参の方が相応しいはずです。


 ……と色々あったわけですが、私としては、皆さんと一緒に物語が作れてすごく楽しかったです。そして、読者の皆様の心に少しでも響くような文章を書けていたなら幸いです。

 最後にもう一度、全ての方々に感謝を。


 幸あれ。


●-シータ・クオパラ


 お疲れ様です。シータと申します。

 物語を読む上で出てくる疑問点や違和感などを、いくつか話しておこうかと思います。


 まず、人魂とはなんだったのか。

 これに関しては、人が消えていく原因としての役割を果たしてもらうためのものでした。人魂=犯人というわけでございます。

 しかし、ノラが物語全体に大きな誘導をかけてきたため、人魂という言そのものが回収できない事態になってまいりました。ですので、四節にてかなり無理を通しながらも、人魂の話に区切りをつけた次第です。

 はっきりと、この件に関しては失敗だったと反省しております。ただこれもリレー方式の宿命と言いましょうか。


 次に物語を読み解くヒントの存在。


・一節にて、私自身が第四者である読者の皆様に話しかけている

・エマ、ノラに『忘れた』描写がない

・三節の題である『そして彼女はいなくなる』

・四節ノラ視点の『食事当番』

・五節、第二客室の『満月』描写


 一つ目は、この物語が読者の皆様ありきで作られているということを示唆する文章……つまり、物語が書かれたことを意味しています。


 二つ目は、彼女たちが犯人でないということ。現実的に考えれば人の記憶がなくなるわけがありません。ので、忘れたと主張する人物全てが犯人であるとの結論になります。


 三つ目は、『いなくなる』という自発の言が使われている点。これより、この節でいなくなったメリッサが犯人側であることが分かります。


 四つ目は、犯人とそうでない人物の二人から証明されているということです。つまりこれは客観的真実であるため、その前に使用人室を出入りしていたメリッサ、または使用人室に一人でいた私にしか食事当番の項目は書き換えられない、と解釈できます。


 五つ目は、満月の絵を置くことができた人物が限られている点……ということにしたかったとノラが言っていましたが、これは完全に彼女のミスです。

 そもそもエイダ消失時にも満月は存在したため、六人全てにその行動は可能だった。また、行動による結果が伴っていないことも問題です。犯人側が満月の仕掛けを施したとして、その正当な理由を説明には答えを窮するでしょう。

 ですのであえてその説明をするなら、『満月』描写はノラから読者に対するミスリードだった、とするのが良いでしょう。現に彼女は一節目でも必要のないミスリードの記述をしていましたから。


 さて、大方の説明を終えたところで、私見を一つ。


 ──結末を切り取った小説に、果たして価値はないのか?


 『六人の手記』を読むまでに、この物語の結論に辿り着けた方はおそらくほぼいないでしょう。

 それは当然のことです。これはミステリーではなく、叙述トリックですらなく、単なる嘘を書き連ねただけの文章なのですから。


 ──では、『六人の手記』を読む前は?


 おそらくこの節を読む前の読者の皆さまは、存在しないトリックや動機、犯人を文章の中から考えていたのではないでしょうか。

 私は、ミステリーとは本来そういうものであると思っています。結末を知るより前に、考え、自分なりの答えを導き出す……。

 このことは意外と難しいものです。自分で考えていても、読み進める手は止まってくれません。そして、用意された結末と出会ってしまうのです。


 何の説明もなされないまま、何も理解ができないまま、唐突に物語が終わる……小説の目的としてこれが許されることはありません。

 しかし。ミステリーという限られた世界の中だけは、これが許されるのではないか──そう、私個人は考えているのであります。


 最後に、ここまで読みきってくれた全ての人々に感謝を。


 幸あれ。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

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