第十八回 契約後の魔法伝授
今回で、第一章が終了します。
契約でお互いの正式名を最後に告げると説明を受け、自分の正式名は長いので覚えなくてもいい、と言われたけど、私の本名である、夏川燈花という名前を先に教え、私がこれ以上の情報を知り得ると、頭の中がパンクしそうなので、ランドールさんの教えは言葉で説明してもらうことにして、お互いに情報を流出させないように話し合った。
この洞窟で、灯りは私の左手の中入り込み、ランドールさんには内緒で、手持ちのICレコーダーで契約時の音声を録音をしたけど、私がランドールさんの本体を首から提げ、右手でぎゅっと握りお互いの条件を宣言し、彼の長たらしい正式名を口ずさんでから私たちの契約は無事に終了した。彼の存在が首元から消える。
ポンポン……《身分証明》
ポンポン……《魔法伝授》
契約を確認したかのごとく、右手首に一センチほどの幅であるブレスレットが装着される。シルバーのような色合いで、手首を回してよく見ると五ミリほどの厚みでつなぎ目がなく、文字なのか模様なのか意味ありげに刻まれている。
回転するし少し上の方にもずらせるような、ややゆとりの大きさではあるが、手首から外れなさそうな雰囲気である。
これが生きていくためのパスポートのような証明書なの? 名前だけは知っているが、冒険者ギルドや商人ギルドの証明書と同じような意味合いなのかしらね? ひょっして、ヨーチュリカの神がブレスレットとして私に移動してきたとか、まさかね。
ポンポン……《体力回復》
ポンポン……《怪我治癒》
ポンポン……《毒素解除》
彼女から連続して言葉が伝えられる。これって癒やしの魔法と呼ばれているやつだよね。私に魔力もないのに、これだけの魔法が伝授されたことなの? 代償はこのブレスレットが請け負ってくれるのだろうか。契約した褒美なのだろうか。それよりもどうして魔法を使うのよ。
ポンポン……《妖精黄光》
ポンポン……《精霊緑光》
ポンポン……《聖霊紫光》
何ですかこの言葉は? 私には理解できませんよ。ランドールさんに聞けば教えてくれるのかな? はー参ったなー。四字熟語の連続ですよ。四文字以上は伝えられないのかな? 自分で意味を考えろと言っているのかな?
体力を回復するには黄色い光、怪我の治癒なら緑の光、毒薬の解除は紫の光を使えと言っているの? それとも、妖精、精霊、聖霊が使うであだろう代表色を教えているのかな? そういう色は危険だと説明しているのかな?
「まさか……私がその色を全部使えるということ? ブレスレットの中に伝授されちゃったの?」
ポンポン……《正に正解》
「ええっ? 頭で考えていたのに言葉に出ちゃったの? はー参ったなー」
ポンポン……《会話成立》
「お礼を言わなくては……ほんとうに、ありがとうございます。こうすれば会話が出来るのですね。でも、独り言みたいで変ですね」
ポンポン……《時間制限》
「あっ、分かりました。ああいう会話は魔法の力をたくさん使い時間制限があるのですね。こちらの会話の方が容易に出来るということですね」
ポンポン……《正に正解》
「体力回復には黄色い光、怪我の治癒なら緑の光、解毒解除は紫の光を使えと言っているのですか」
ポンポン……《正に正解》
「どうやって使うのかな? 燈の光のように私の右手の平から光が飛び出すとか、それを患部に当てるとか」
ポンポン……《正に正解》
「その光が出る合い言葉のような、呪文のような詠唱する言葉はあるのですか」
ポンポン……《妖精妖精》
ポンポン……《精霊精霊》
ポンポン……《聖霊聖霊》
「言葉を二回言えばいいのですね。ようせい、しょうれい、せいれいと呼ぶんですか」
ポンポン……《大大正解》
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少し横になった方がいい、と燈がそう言ったので、テーブルの横に四本足のベッドも作ってもらい、燈が買ってきてくれた上着を二枚下に敷き、燈が買ってきてくれた黒のズボンを一枚丸めて枕にし、自分の着ていたコートを羽織り、足元には燈が買ってきてくれたローブをかけ、着の身着のままで横になる。時計が止まっているし、ランドールさんとたくさん話して契約までして、どれほどの時間が経過したのだろうか。
テーブルと椅子が突然出現したように、地面の土が上にのびきったような囲いを作り、通路の脇に穴を掘った和式トイレはあるのだが、毎日あれほど時計を見て時間を気にしていたのに、この洞窟にいると時間の感覚がない。
癒やしの魔法の伝授はとてもありがたいが、何か攻撃されても役に立たないだろう。呪文を二度口にしその光を患部に当てるのではなく、その光を相手にぶつけられないだろうか。短距離戦に効果ががありそうな気がするが、三度、四度と口ずさむとどうなるのだろうか。
私の右手と左右の足、両肩には見えない結界がある。右手で荷物を持つと十分の一ほどの重量しか感じないようだ。両足はウオーキングシューズのようなスニーカーの上から軽く蹴飛ばすと物が飛んでいくとか、近接戦の打撃面には効果がありそうな気がする。これだけでも私の身体強化が可能になったのだろう。問題はやり方だよね。
妖精、精霊、聖霊の順番で高等になっている。魔法の威力も違うような気がするけど、攻撃魔法に応用出来ないかしらね。この洞窟から出なければ……森や街に行ってみなければ……隠れて練習しなければ結果は得られなさそうだ、などと考えていると意識が薄らぐ。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
何とか、第二章も書き進んで行きました。
これからも、よろしくお願いいたします。