第十七回 買い出し物の点検
それよりも、自分の買い出した物の点検をしなければ、新しいミネラルウォーターが二本、慌ただしい朝に食べるために買ったシリアルバーが各種十本、チョコチップの入ったクッキーの箱が二つ、二十個入りの珈琲味のキャンディが三袋、このキャンディは他のどれよりも味わいが深くてお気に入りだ。
誰しも持っているような目薬とリップクリームとハンドクリームは買ってないが、それらが化粧ポーチに入っている。風邪対策に新たに買った発熱や頭痛に効く薬と、鼻水やくしゃみに効く薬。ストレスの重圧に耐えられなくなった時に飲んだり、食べ過ぎだと感じた時に飲む胃腸薬。
三本パックの栄養ドリンクが二つ。インフルエンザ対策で買ったブルー色の五十枚入りマスクが一箱、夜用と昼用の生理ナプキンが一袋ずつ。十五センチと二十センチのラップが一つずつ。アルミホイルも買っておけばよかった。
スーパーの二階にある衣料店で上下の下着を二種類買った。なぜかというと、友達と二人で京都タワーから初日の出を見ようと計画し、タワー近くのホテルを九月初めに予約した。
混雑するので、夜中の三時頃から並ぶといいと情報を得ていたが、お天気の都合もあるけど見ることが不可能になった。猫好きの綾音は無事なのだろうか。
腕時計、スマホ、ICレコダー、など、文明の利器である電化製品が四種類。時計の左側の上のボタンを押すと一発で発動する万歩計。その下のボタンを押すとストップウオッチになる。二度押すとアラーム付きタイマーに変身する。その便利さに魅了され、角丸四角型の黒っぽい色ではあるが、外見を気にせずこのアナログ時計を買ってしまった。
右側の上のボタンを引っ張って回すと時間調節が、下のボタンを引っ張って回すと日付変更ができるが、七時三十二分で止まっている。よく考えるとこの時間は、買い出しが終わった帰り道で燈と遭遇した時間のようだ。五桁の表示可能な万歩計と六桁の表示可能なストップウオッチは、あらかたの距離を計算するのに大いに役立ちそうだ。
三年ほど使った画面の暗くなったスマホは、三十パーセントほどの充電が残っていた。電源を入れ暗証番号を押すと、彼女の言葉通りに百パーセントの充電が表示されている。これってどういう魔法なのだろうか。まったく意味不明。
電話はつながらないだろうけど、中に保存してある写真やメールは見られるし新たな写真も撮れるよね。燈やランドールさんの写真を撮ってあげよう。その他のスマホの機能は私だけの秘密兵器として、大いに魔法のように使えるな。
レコーダー用の単四電池の八本入りが一つ、これは非常時のために持ち歩いているミニマグライトにも使えるが、スペア電球がないのは痛手だ。先端の電球のカバーの部分を外すと、ロウソク的に発光するのが気に入っている。
電池の寿命が復活するなら必要なさそうだけど、復活しなかったことも考えると、八本あることは心強い。ここでは電池寿命の確認はできない。
見つかるとまずそうではあるが内緒で持ち歩いている、茶色の木目調で五種類の刃先が内蔵され、九センチほどのアーミーナイフ。赤、黒、青の三色ボールペンが一本と単色黒が一本、七ミリのシャーペンが一本と芯ケース。
私の十五リットル入るリュックは、紺色の生地でカラフルな水玉物。そのリュックに付属していた深みのある横長でジッパー付きの、ビニール製ではあるが布のような手触りで、そのポーチの中にまとめて入れてある。直径が七センチほどの虫眼鏡。文房具七点セットとお裁縫セットもある。
電源が二本の単四電池で使えるICレコダーのスイッチを入れ、録音した音楽を外に流してみると何も問題なく聞こえる。他の語学学習の音声を聞いてみると、これもしっかりと聞こえる。中のファイルは何一つ消えていないようだ。
今まで何度も聞いた私好みの色んな曲が入っている。心の動揺や疲れを癒やしてくれるし、ストレス解消のためにも音楽を聴くことは必要だよね。それに、状況証拠に録音した言葉を相手に聞かせることも出来る。魔法のような働きだよね。
後は、長財布と小銭入れとスケジュール帳だ。コンビニやスーパーや銀行関係の各種カードはプラスティックなので、何かに使えないだろうか。銀行に入っているお金はどうなるんだろうね。それよりも私の部屋はどうなったのだろうか。
年末ジャンボの宝くじがのバラが二十枚と連番が十枚あった。今年もかわいらしいデザインで過去の宝くじは累積してずっと取ってあるけど、たまに、はずれ券を折り紙にしてツルなどを作ったりしていたけど、この紙も何か役に立たないかしら? この番号もそうだが、カード番号も新しいスケジュール帳に書き写しておこう。
十一月末に新しく買い換えたスケジュール帳は十二月から始まっているけど、家族と友達の誕生日だけは記入済みだが、たくさんの余白部分は紙として何か役に立たないだろうか。パラパラめくっていると母の名前が……静岡の両親はどうしているかな。
学生時代から東京で独り暮らし、建築会社の事務で働くようになっても独り暮らし、その上このような場所に来てしまい……親不孝だよね。
★ ★ ★ ★ ★
結局、燈と街に行くこともなく、ランドールさんが荷物を一気にここに運びこみ、必要なものは自由に使っていい、と言われたけど、金や銅や青銅、銀や鉄や鋼、プラチナやダイアモンドなど、言葉だけは知っているがどう使うのか分からない。見た目は石ころみたいな金属の塊が入っている箱が、いくつもあるのだ。
それと、加工する前の余分な石が取り除かれたり原石、据え置きタイプや飾り物と表現してもよさそうな原石、見た目がごつごつしていたり、とげとげしく思えたり、つるりとした手触りだったり、宝石だと表現してもいいほどの石がこれまた何種類もある。
しかしこれって、街に持って行くと、燈が話した金のように両替が出来るのだろうか。それとも買い取ってくれるのだろうか。買い取りが可能であれば、これらの金属や原石は、考えられないほどの金貨を生み出すと思う。
ここだけで分別したことではなく、ずっと昔から少しずつ蓄えていた金属もある、と話してくれた。その話を聞いて、彼だけが自由に往復できる結界だと聞いていたので、その結界が作られたのは、この洞窟に来る以前から存在している結界だと思える。
その結界を中心に考えると、ここと外の世界に自由に行き来できると思えるが、外に出る入り口は塞がれてしまったのだろうか。視覚に入るカーテンとかドアがあれば意味が出来るのに、結界とは何も見えないのだ。
自由に使っていい、と言う意味は、直接物作りに使用することではなく、お金が必要な時に自由に持ち出してもいい、と言っているのだろうか。そう思うと、ランドールさんは大金持ちということになるよね。
その彼と契約すると言うことは、これらの金属や原石は、主人になるかもしれない私の所有物でもある、と言えるのかしらね? だから自由に使っていいと言ってくれたのかな?
契約するお礼なのか、金貨を三十枚も作ってくれたので、お金にも困らず生活していけそうだ。
そうすると、私の持ち物はどうなるのかしらね? 私からの情報を受け取らないと約束してくれたけど、未来の知識であると話してしまった以上は不履行になりそうな気がする。もし彼が知ってしまうと、そのことを内緒に出来るのだろうか。
人間以外で小説に出てくるような、言葉を巧みに操ることの出来る者たち、それに関する言葉がちらほららと、私の頭の中に浮かんでくるけど、オオカミのような知的な動物や、架空だと言われているドラゴンのような、智力のありそうな動物がいるのだろうか。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
次回は、第一章の最終話です。
明日も投稿します。
明日、何かコメントをいただけると、記念になり、
とても嬉しいのですが……。明日です(^_^;)