第十六回 私がこのままの姿で不老不死?
彼女は……あのポンポン音は……ヨーチュリカの神と言われた人なのだ。燈をここに導きランドールさんに引き合わせ、彼の所行を許したから連れ出せしてほしい、と説明しているのだろうか。
一番目の弟子はランドールさん、二番目の弟子はヨーカリスおねえさんなのだ。二人はここの人間たちの進化や展開がない。文明が開化しない。世の中が変化しない。人間の精神が滞るし凝り固まっているのに対し、何かしらの叱咤激励のごとく反省を促すように、封じ込め思いめぐらす時間を確保し、進化の対策を考慮する機会を与え、責めを負わせる感覚を味わせながらも大いに期待をしているのだろう。
ランドールさんとヨーカリスおねえさんと契約していいと、契約しろと、やや命令口調で話しているが、ああいう言葉、ああいう話し方しか出来ないのだろうな。言葉をよーく思い起こすと、逆にお願いしているようにも聞こえる。
ヨーカリスを見つけだし、ということは、彼女がどこにいるのか知らないのだ。燈が偶然にも彼女に出会い彼女のことだと分かったけど、これは知らせない方がいのかな? 何気なく、ヨーカリスおねえさんに聞いてみなければ、燈に連れて行ってもらおう。
私の知識や地球の歴史、人間の染色体の中にある情報が燈に流れ込んだように、何か魔法のような力で彼女は地球の知識を知り得たのだろうか。彼女はそれを知った上で二人と契約してもいい、と言っているのだろうか。
私のリュックの中身を全部理解しているのだろうか。スマホの充電、電池の寿命などの言葉を知っているなんて、有体物のコピーも可能ということは、ここでは私の持ち物すべてがひとつずつ同じ物が作れる、魔法のように出現すると話しているのだろうか。
二人は長きにおいて蓄積された知識がある。独りでダメなら二人で力を合わせ、それも私と契約して……この私に何が出来るのだろうか。
腕時計、スマホ、ICレコダーやミニマグライト、虫眼鏡など駆使して変えなさい、と話しているのだろうか。それとも、地球の知識を利用しなさい、と話しているのだろうか。
彼女はこの大陸を造り何千年も生きているようだ。ランドールさんの本体のようであり、人間の姿ではないような気がするが、聖霊水という言葉があるのなら、それを管理しているような気がする。
彼女に理解出来ないことは、私の心の中だけだと思う。それでちょこちょこと私に言葉を放出し、私の言動をチェックしたのだろうな。そうすると、今でもこの場所は彼女の監視下にあると考えた方がよさそうだ。
私たちが時空の狭間いた時、あの空間が狭まってきたと、時間制限があったみたいだと燈がそう話したが、彼女がしばらく話せるのは、魔力というのかエネルギーの消費制限があるのだろう。
そう考えると、まだ生きているということ? それともこの洞窟内にランドールさんの本体と同じような、彼女の本体が隠れ見張っているということ?
彼女はヨーチュリカ大陸全土を見渡すよりも、この洞窟をコントロールしているのか、それとも色んな場所に拠点があるのだろうか。
今回は本体が移動して私たちに話しかけ、他の場所は分身がいるのだろうか。ずっと長き未来において、進化の現状が理解できると、惟みているのだろうか。分からない。分からない。
ランドールさんは彼女の存在に気はづいているのだろうか。彼の話しぶりからでは理解できない。私は人間だから長生きは出来ないんだけどな。そうだ、精霊水がここにある。まさか……私がこのままの姿で不老不死? 考えすぎだよね。でも、何だか怖い。
「燈、もう大丈夫だからね。心配しないで」
そう声をかけても、燈は私から離れようとせず、ずっと抱きついている。
「ねぇねにこうやってると、手の中と同じように安心できる。どっちも同じだよ」
「ありがとう。不安があればいつでもこうやっていいからね」
「ありがとう。ぼくは記憶力がいいからね。あの人の声が何度も聞けるんだよ」
そう言ってから、やっと私の胸元から顔を外し、今度はじっと私の顔を見る。燈の頭の中では彼女の言葉がずっとリピートされていたのだろうか。
「確かに物覚えがいいよね。私はすぐ忘れるからさ、頼りにしているからね。疲れただろうから戻ってもいいよ」
「……うん、分かった」
その言葉と同時に、燈の姿が私の視線から消え、やや空間を見つめている私。
テーブルの上のお金を片付け袋に戻し、取りあえず、リュックの外付けのポケットの中に仕舞う。大きめの風呂敷のようなくっきりした緑色の布をほどき、赤い実をひとつ取り出す。
リュックからハンドタオルとランドールさんからもらった水を取り出し、ハンドタオルに少し水を含ませ軽く拭いてから一口かじってみると、中はほんのりとしたピンク色をいているが、リンゴよりもねっとり感というのか、もぎたての堅めのネクタリンのような甘酸っぱさが口に広がり、食感の歯切れと味は申し分なくておいしい。
回転させながら周りからどんどん食べていると、真ん中にやや大きめの種のような存在に気づき、食べ終わる頃には、混乱している頭の中がスキッと回復するようだ。
胃の中を刺激したのか、隣にあるハンバーグのような丸いパンにも手を出し一口食べてみると、ソースがお醤油味の照り焼きのような気がするが、ここにはお醤油があるのかしらね、などと考え、口の中で周りのパンと絡めるとほどよい味わいに変化する。
これもおいしいとパクパクと食べ進んでいく途中で水を飲み、ハーッと一息ついてから、あっという間に完食する。精霊水を飲んでも普通のミネラルウォーターと変わらないような気がる。
空腹感は感じてなかったのに、いざ食べてみるとお腹が空いていたのだ。たくさんの驚きや焦りや緊張感で、体全体が空きっ腹を打ち消していたのだろうな。一日の終わりを告げるような、お風呂に入った後のような満足感が感じらる。
このパンや見た目が蒸し料理のような食材は、日持ちが悪いような気もするが全部は食べられない。残りは早めに食べることにして、果物やクッキーは一週間くらいは平気だよね。今後の食材として取っておこう。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。