第十四回 ぼくは一族の継承者
燈の姿がその言葉の後、音もせずスーッとテーブルの向こうに現れる。私の視線を感じたのかランドールさんの本体がくるりと百八十度回転し、私たちによく見てもらうためか、両手を軽く広げゆっくりと一回りする。
驚き顔の私は立ち上がり、私の視線は上から下までゆっくりと流れるように見とれてしまい、容姿端麗というのか雰囲気がかわいいいし、この子がいっしょに隣にいると目立ってしまう。仕事先の年配の方々から山口?恵に似ていると言われ続けた私の顔が……当然見劣りしてしまう。
全体的にボリューム感のある髪の色は、グラデーション的には淡い緑色、頭部の後ろから前に向かい真ん中できっちりと左右に分けられ、眉の上で揃えられたおかっぱ姿みたな前髪は、やや内巻き気味のパッツン切り、サイドを顎のあたりで切り揃えた姫カットような少なめの髪、前に流れ込む髪を丸い耳の先端ほどから後ろにかき集め、頭の中央辺りで真っ青な紐で一つに縛り、小柄な顔を前面に出すように強調し、残りの髪は首の中心から左右に流れるように肩の下まで垂れて下がっている。
「ほほう、燈はめんこい姿じゃのう」
「じいちゃん、ありがとう。ヨーカリスおねえさんにもそう言われちゃった」
にっこり笑ったぽっちゃり顔の燈は、二重でくっきりと見開いた中央の瞳の色は、深い湖の底を連想させるかのような碧眼で、丸首ですっぽりと被るようなスレートドレスの色は、空色よりは青に近いような色合いで、ウエスト辺りで白くて編み紐のようなベルトできっちりと縛られ、ふくらはぎを半分ほど隠す長さで、その長さよりも少し長めの黒いレギンスがほんの少し見えている。
「……いつ見ても……やっぱりかわゆい。声の響きと同じで……さわやかさんね」
初めて見た燈の顔に非常に驚き、燈の声にぴったりの姿でかわいくて、直接言葉では言えない、説明の出来ないぎごちない讃辞となってしまったが、その意味は理解できるよね。私のテンションが……上昇してほっこり顔になるよ。
「ねぇね、じいちゃんと契約する前にね、街にいっしょに行こうよ」
「そうじゃのう。街で喧嘩でもすると意味が分かるかのう。燈花が行動を起こさんと発揮出来んからのう。右手は弱めにな、両足にも結界を張ったらのう」
「ええっ? 何も感じません……ありがとうございます」
「ぼく、もう戻るね。ねぇねの手の中はあったかくて居心地がいいんだよ」
「ほほう、わしも自分の結界に入ると居心地がいいからのう。燈にとっては燈花の手の中が結界と同じかのう」
「ぼくは結界とか張れないよ。住み着いているだけだよ」
「それも契約みたいなもんじゃな。わしは燈花と早く契約したいからな、荷物を取ってくるとするかのう。ではのう」
その言葉と同時に、テーブルの上に直接置くと悪いような気がしたので、最初は私のリュックの上にそっと置いた本体が……今では浮いていた本体が消えてしまう。
自分の荷物が大事だということはよく分かったけど、早く契約がしたい本心を半分ほど聞いたような気もがするが、ほんとうかどうかも分からないし、他にも目的があるのだろうな?
ずっと話を聞いていると、私の知識を総動員しても理解できないながらも、彼は悪い人ではない、と思う気持ちがだんだんが増してくる。
「じいちゃん、行っちゃったのかな?」
そう言いながら、自分の前にある椅子に座る燈。いつの間にか椅子が二つ増えていた。
「そうね。本体が消えたし何も感じないのでしょう? 私たちとたくさん話したから安心して出かけたのね。私ね、もう倒れるかと思ったけど……燈の容姿を見て元気になったよ」
「大丈夫なの? ぼくはじいちゃんの話を聞いて勉強になったよ」
「それはよかった。私は頭がぶち切れるかと思った。次から次へと分かんない言葉が出てきてさ、これ以上話を聞いてたらさ、どうなってたんだろうね」
「……ごめんなさい。ぼくがここに連れてきたからだね」
燈の目から涙が落ちている。はー、遣ってしまった。どうしよう。
「……気にしなくていいからね。私を助けてくれたんだから感謝しているのよ。私もランドールさんの話はとっても勉強にもなったんだよ。同じなんだよ。燈は街に行ったけど私は行ってないから、よけいに意味が分かんなかっただけだからさ、泣かなくもいいからね。燈の顔が見られて嬉しかったんだよ。それでテンションが戻ったんだよ。一気に元気が出たんだよ」
早口で話してしまったが、燈の目から涙が出るなんて、面食らってしまった。感情も人間になりきっているの? どうしたらいいのだろうか。もう、何が……どうなっているのよ。燈花のバカたれ……自問してしまいました。
「……ぼくね、写真で見たんだよ。この顔と髪型と洋服がかわいいと思ったの」
声の響きにいつもの精悍さがないけど、何か話さなくてはいけない、と考えたのだろうな。はー参ったなー。
「燈にぴったりの容姿だよ。似合ってるわよ。かわいい以外の言葉ないよ。さっきは驚いて言葉が出なくてさ、ランドールさんに初めて見ました、とか言えないでしょう」
「ぼくもそう思った。この顔はずっと同じにするね」
「一度見てしまったから目に焼き付いてしまったのよ。この顔が変わってしまうと変だよね。私の隣で歩いていると目立つしさ、燈が自分のことぼくっていうからね、歳の離れた弟って紹介するからいいでしょう?」
「分かった。ぼくはねぇねと呼ぶからお姉さんだしね。嬉しいな」
「私もかわいい弟が出来て嬉しいよ」
よかった。感情は分からないけど、笑顔の燈の顔に戻ったみたいだ。何だかほのぼのとした会話になり、私の気持ちが落ちついてくる。私は一人っ子だから、こんなかわいい弟が出来るなんて、少し有頂天になれるよね。
「ぼくは一族の継承者であり、他は仲間と呼ぶから親や兄弟の気持ちが分からないよ。でもね、自分のためにも……ねぇねをいちばんに守るからからね」
「ありがとう。継承者って何なの?」
今回も読んでいただき、ありがとうございました。