第十二回 精神の限界
「ほほう……なるほどのう。今は剣の類いは持ってないということかのう」
「はい。お金もですね。銅貨や銀貨や金貨が紙に変わったんです」
「ほほう、なるほどのう。紙だと重くなくていいのう。しかしなあ、ここではどう考えても紙には出来んかのう。紙の妖精や精霊は聞いたことがないからのう。しかしのう、紙はあるが貴重品だしな、値段が張るからのう」
「……ええっと……個々の妖精さんや精霊が何でも作るのですか」
「人間が考え出した物もあるがな、昔からおる精霊や妖精たちが中心になり、人間に作り方を教えたと聞いたがのう」
何となく、過去からの知識の伝授の意味が分かったが、妖精はかわいいイメージがあるので、どうしてもさん付けをしてしまう。
「……精霊や妖精さんが……それは契約してから教えるということですか」
「それもあるがのう。中には気まぐれな精霊や悪さをする妖精もいてな、色んなものに疑似しとる妖怪の類いもおると聞いたがのう。そやつは劣った才能や小器用の持ち主じゃな。普通の人間にはそれが分からんからのう。それとな、教会の連中が三大聖霊を取り込んだという噂も聞いたことがあるからのう。それにな、六大精霊、六大妖精がいると聞いたことがあるしのう」
またまた意味深な言葉を聞いてしまう。でもここにも教会があるのだ。同じような心的傾向を保持する人間の集団はどこでも同じなのだろうか。デモ活動や示威行動、地位や権力を手に入れるために下々の凡人たちは利用される。それすら分からない人間もいるし、その教えが真実だと洗脳されているような気がする。
教会が保持しているは知識の源、教会はメインコンピューターみたいな、過去から蓄積された膨大な記憶や歴史を保持したり、維持している場所なのだろうか。
「……なるほど……」
『ねぇね、精霊はすごいんだね。ぼくも精霊に色んなこと教えてもらいたいな』
「目の前にわしがおるじゃろうが。わしが教えてやるからのう。そういう奴らに関わらん方がいいのう」
確かに、彼のいうことは一理ある。燈に変な妖精さんや精霊が付きまとわれても困る。一般凡人の私には対抗する力がないし、燈を守ったりは出来ないんだからね。
「……そうですね。何となく生活基準の雰囲気は分かったつもりだけど、刀とか剣は使ったことがないし、剣道や武術や格闘技を習っていたらよかったのにね。私は歩くのは得意だけど運動音痴。ランドールさんが結界を張る意味も分からないけど」
三大聖霊や六大精霊、六大妖精、劣った才能の妖怪、結界を張る意味、何なのこの世界は、私には現実とも非現実的だとも考えられない。
ヨーチュリカの神が大衆路線からずらし、独創的な世界を目指したのかしら? それとも、これが普通の生き方なのだろうか。
「燈花の言葉は理解出来ことが多いのう。そういうもんじゃと思って聞き流すかのう。結界で燈花の手足を強化するかのう」
『そうしてもらった方がいいね、じいちゃん。ぼく、左足は諦めるからね』
「燈は物分かりがいいのう。左手は頼んだからのう」
『はい、頑張ります。そうしないとぼくが困ります』
「……何なのそれ、私が生きていけないみたいじゃないのよ」
私、変な言葉を使ったのかしら? もう頭の許容範囲が超えている。新しいハードディスクがほしい。私はごく普通の女ですけど、私を無視しているようなこの会話、どういう意味なのよね。少し声が大きくなってしまったが、自分の意思表示もしっかりとしなくちゃね。
「燈花は何も心配せんでいいからのう。わしたちに任せておけばいいんじゃからのう。契約者が強くあるのも、これまた然りじゃがのう」
「はー参ったなー。弱っちくて申し訳ないです。ほんとうに」
二人の会話を聞く限りでは、今の私は自分の身すらも守れないようだ。他の国に比べ危険リスクの少ない日本に生まれたからな。でも、地震や自然災害に備え日頃から、自分なりの防災グッズは持ち歩いている。それがここで役に立てばいいけどな。
『じいちゃん、よろしくお願いします』
「燈の気持ちはよく分かったのう。しかしな、どれほど強化できるか分からんがのう。燈花が使いこなしてな、その効果が分かるからのう」
『そうですね。ねぇねしか分からないことだからね』
「それよりも契約する前にな、自分の結界に戻ることにするかのう。わしの荷物をここに移動させようと思うがのう」
『じいちゃん、どうしてなの?』
「契約したことで戻れんかったら困るからのう。まあ、燈がいればな、ここの出入りは自由だと思うがのう。ここから移動できるわしの結界がな、壊れんとも限らないからのう」
『ぼく、今から足にある荷物を手に移動させるね』
もう、どうなっているのよ。私の精神が……限界が来ているようだ。
「どういうこと? 何か置いてあるの? 私には自覚がないよ」
『ねぇねに分かりやすく説明してるだけだよ。机みたいな物じゃないよ』
「説明してもな、燈花には意味が分からんのう。さっきの言葉みたいな感じかのう。考えても無駄じゃな」
「そういう言葉を聞くと……何だか……もう疲れた」
意味が分からず悲観的になり、疲れた言葉が出てしまう。私は弱っちいけど、どこに行っても二人が側にいて、話が出来ることは分かるよ。
「ねぇね、大丈夫なの?」
「……何とか生きてます。燈がいても自分の体に変化がない。ランドールさんと契約しても……何も起こらないですよね。それだけが不安です」
「何も心配することはないと思うがのう。燈と二人で燈花を守るということかのう。どうじゃ、燈花。右手の具合はどうかのう」
今回も読んでいただき、ありがとうございました。