第十一回 意味深い話し合い
「わしも条件をつけたいと思っていたからのう。わしが何をするにしても三人でな、話し合いで決めてほしいと思ったからのう」
「私もそう思います。私は何も出来ないし、ランドールさんは何でも知っていそうですしね。燈もそれでいいのよね」
『うん、いいよ。ぼくはねぇねが決めたことに反対するつもりはないからね』
「ありがとう。ランドールさん、私の場合は条件というよりもお願いですね。契約すると私からの情報がランドールさんに入り込むのですか」
「今よりも少しは理解できるかのう。力ある者は隠すことも可能じゃがのう」
「なるほど。私は何もないので隠せませんね。そうなると驚くことがあります。要するに、知らない言葉がたくさん出てきます」
「ほほう、さっきみたいに説明できない言葉かのう」
「はい。人間より長生きしているランドールさんでも、説明しても意味が理解できない言葉です。なぜかというと、たぶん……千年も二千年も先の言葉だからです」
「ほほう、二人はそういう先から後戻りしたのかのう?」
「今までのランドールさんの話を聞く限りでは……そう考えられます。だからその内容は、ランドールさんの胸の内に秘めておいてください。外には出さないでください。これはお願いです」
「なるほどのう。燈花がここで生きて行くにはな、わしの情報は古いかも知れんがな、ないよりは増しじゃからのう。燈花の情報は取り込まんようにするかのう」
「ええっ、そういうことが出来るのですか」
そういうことが出来るなんて、これまた驚きの言葉だ。未来の言葉を知るために、ごましてそう言ったとも考えられるが、今までの会話の連続からして、信じてもいいような気がするが……。
「それを条件にすればいいかのう。わしもそれで構わんよ」
「ほんとうによろしいのですか。勝手なことを言って、ほんとうに申し訳ないです。ありがとうございます」
「なかなか意味深い話し合いじゃのう。まあ、互いに言えんこともあるかもしれんがな、それは置いといてな、他にも何か知りたいことがあるのかのう」
意味深長的な言い回しではあるが、燈は地球の過去にあった情報を知るようになったが、未来を知ることは出来ない。彼も未来を知ってはいけない。そう思うと、契約はしない方がいいのだろうか。
そういう条件は魔力でなせるのだろうか。私に魔力があるのだろうか。燈は魔力を使うことが出来るかのうだろうか。
街に行かなくては、私に何が出来るのか判断がつかない。街に行った燈の話をランドールさんの前で、はっきり聞くことは出来ない。
「……ランドールさんは色んなことを隠してください。それに対して文句は言いません。何を隠したなんて、どうせ私には分からないことですから」
「わしの経験からしてもな、燈花が知らなくてもいいことは隠すつもりじゃがな、色んなことを知ってもらいたいからのう。そう思って契約の言葉を使ったんじゃよ。燈花と燈は次元の歪みからな……弾かれたんじゃろうと思ったからのう」
次元の歪みか、燈には意味が理解出来ているだろうな。ランドールさんは私たちの会話が聞こえているので、滅多矢鱈に燈に聞くことも出来ない。
「……ありがとうございます。燈、そうだよね。弾かれたのよね」
『うん、一瞬だったからここに来ちゃったんだよ。びっくりしたからね』
「わしの結界があっても入り込めたからのう。それについてはわしも驚いたのう」
『あのね、ランドールさん。ぼく……じいちゃんって呼んでもいいの』
「何言ってんのよ、突然に、ランドールさんでしょうが」
燈がそんなことを言うなんて、びっくりして声が大きくなっちゃったよ。おじいちゃんならまだしも、じいちゃんでは失礼だよ。年齢が、とてつもない年齢の、それも男性に対して、そういうことが理解できてないのかな?
色んな知識があっても、実際に経験したことがないと頭でっかちになるよ。それをここでは言えないし、参ってしまう。
『燈花のことだってさ、ねぇねって呼んでるし、だめですか』
「わしは構わんがのう。わしに孫が出来たかのう。それはありがたい話じゃのう」
何でそんなに簡単に許すかな。もう少し言葉を選ぶとか違う言葉で言ってほしかったのに、これって日本人の考え方なの? 私の性格の問題なの?
『ありがとうございます。それでね、じいちゃんにぼくの条件も話していいの?』
「燈にも条件があるの?」
普通の声の響きで尋ねたけど、何なのこの条件の言葉は、座っているけどよけいに頭がくらくらしてくる。
「わしは構わんよ。最初が肝心じゃからのう。話し合いじゃな」
確かにこれは話し合いですが、契約するのは私であって、燈には関係ないような気がするけど、どういうことなのだろうか。
『ありがとうございます。ぼくは燈花の左手と左足に住んでます。じいちゃんは右手と右足にしてください。燈花の頭と体の中には入り込まないで、ぼくの条件はこれだけです』
「何それ? 意味が分からないけど」
『じいちゃんには分かると思います』
「ほほう、分かった、その条件を果たすかのう。しかしのう、燈花は自分の身が守れんようだからな、右手と両足にわしの結界を貼りつけようかと思うがな、そうすれば少しは防げられるような気がするがのう。左足はわしに譲ってくれんかのう」
『ううーん、どうしようかなー、確かにだめみたいですね』
「どういうこと? 私にはまったく分からないけど」
『街に行くと分かるけどね。ここの人たちは刀を持ってるんだよ。剣とも言ってるけどね。危ないっていうことだよ。森の中には危険な動物がたくさんいるんだよ。魔物とも言われているけどね』
何よこの危機感は、魔物って何なのよ。毒蛇とかタランチュラとか、ピラニアみたいな言葉が瞬時に浮かぶけど、イノシシ、熊、ライオン、それとも猛禽類なの?
でもこれは、地球次元の私の知っている動物だし、魔物とか呼ぶべき次元ではないような……そうだ、絶滅した恐竜の類いかな? 巨大だということなのかしらね。
「……ここは時代劇の世界なの? そこまで考えなかったけど……」
『うん、そう思ってよ。ぼくも守るけどさ、どうなるか分かんないしね』
「……時代劇……の世界……かのう。そりゃ何じゃい?」
「私たちの住んでいた場所でも、ずーっと昔に、刀や剣を持ち歩いていたんです。野生動物にも襲われたりしたんです」
今回も読んでいただき、ありがとうございました。